昨日の続きで、第三章の2節めについて。――この章から出典を明示しなくなってきた。紹介の仕方も第二章までの方法ではそぐわなくなって来たように思うが、しばらくそのまま続ける。
128頁、章題と同じ大きさの明朝体、3行取り1字下げで「生まれかわり奇譚*1」とあり、さらに1行空けて、3行取り2字下げで一回り大きなゴシック体の項目名。要領はこれまでに同じ。
からだはA家、心はB家(128頁2行め〜)
イラスト、129頁上
冒頭を抜いて見よう。128頁3〜9行め、
生まれかわりの話には、人間が死んだあとで、ウシとかウマなど人以外のものになった型(変生)/と、そのぎゃくに、サルとか鳥など、人以外のものが人間になる型(転生)、それに人間がまた人間/に生まれかわる型(再生)の三種があると、民俗学者の故・中山太郎氏は分類している。*2
変生、転生は、いまではとても実際のこととは信じにくくなっているけれども、人から人への再/生譚では、いまなお「ふしぎなことだが……」という注釈つきで、まるで、ほんとうになったこと/のように、かたりつたえられているようだ。佐々木喜善氏の著『聴耳草紙』のなかに、つぎのよう/な再生譚がある。*3
話の筋の紹介があって、131頁2〜4行め、
この話は、昭和四年(一九二九年)に岩手県遠野の菊地儀三郎という人が、気仙で聞いてきた話/を語ったものという。これは、『秘められた世界』(毎日新聞社)にも紹介したことがあるのだが、/いかにも真にせまった描写なので、もういちど引用したくなったもの。*4
とあるのだが、関敬語編『秘められた世界』は昭和36年(1961)から昭和37年(1962)に掛けて毎日新聞社から刊行されていた『日本人物語』全5冊の『5』(昭和37年刊)で、昭和44年(1969)に単独で刊行されている。未見だが「生まれ代わり異聞」の節に「火葬の魂が土葬の死体に蘇る」と題して紹介されている。
復活した群馬の少年*5(131頁10行め〜135頁7行め)
イラスト、132頁上
図版、134頁右上「ヒ ナ の 僧*6」下
写真、135頁(頁付なし)左上、左下「葛葉狐 国芳画(上) 芳年画(下)*7」中
1例めの末尾、132頁11行めに小さく「(都丸十九一『群馬』「日本の民俗」第十巻)」。
2例めは、132頁15行め〜133頁6行め、初めの2行を抜いて置く。
また、日本民俗学会長老のおひとりで、桜田勝徳氏が、まだず【132】っとわかかった昭和八年(一九三三年)正月に聞かれた話としては、長門通浦の子もり女が、‥‥*8
桜田勝徳(1903.10.2〜1977.1.27)はともかく、次の村田鈴城は昭和初年に「民俗學」「郷土研究」「土の香」に寄稿したことがネット検索で分かるが略伝等は不明*9。
3例め、133頁7〜13行め、初めの3行を抜いて置く。
村田鈴城氏の話によると、東京都の八王子市あたりでも、死者のてのひらにしるしの文字を書い/てほうむる話が、昭和八年ごろもつたえられていたことがわかる。村田氏のおばあさんの話による/と、‥‥*10
桜田氏の話に続いて、これも出典を示していない。この書き方だと、今野氏は村田氏から直接、村田氏が昭和8年(1933)頃に祖母から聞いた話を聞いたかのように読めるが、国際日本文化研究センター「怪異・妖怪伝承データベース」に拠ると、「郷土研究」7巻4号(昭和8年4月1日発行・郷土研究社)32頁に掲載された村田鈴城「前生覚知の小童」の「要約」と合致する。どうも今野氏はこの辺り、典拠を書き漏らしたメモに基づいて記述したために、このように不正確な記述となってしまったようだ。 同じデータベースで検索すると、桜田氏の話も「郷土研究」7巻2号(昭和8年2月1日発行・郷土研究社)31〜33頁掲載の桜田勝徳「人間転生譚其他」から採ったようだ。
133頁14行め以下は解説。
ぼろにつつまれてし/まった魂*11(136頁1行め〜)
イラスト、136頁上
137頁5〜6行め、
大山田村は昭和29年(1954)7月1日に馬頭町(現、那珂川町)に併合されている。この本は井之口章次(1924生)の著書で、137頁12行めに「『日本の葬式』(早川書房 昭和40年刊)」とある。
“お命日”とは*13(138頁3行め〜139頁15行め)
写真、139頁左上「墓場やヤナギの下にでると信/じられていたやさしい幽霊 」下
※ 鳥山石燕『画図百鬼夜行』の「幽霊」。
五代つづいた同月同日の誕生日*14(140頁1行め〜)
イラスト、141頁上
140頁2〜4行め、
海のむこうのオーストラリアで、ウィルヘルム夫人(27)が、昭和四十七年(一九七二年)の四月/八日に女の子を生んだ。ところがかの女自身も、その母も、祖母も、そして曽祖母さえも、おなじ/月のおなじ日に生まれており、五代つづいての同月同日生まれは奇縁だと、新聞に報道された。*15
140頁7〜11行め、
「麦と兵隊」などで知られている作家の火野葦平氏の母親のマンさんは、かれの三回忌の日になく/なった。そして、葦平夫人の良子さんもまた、十三回めの命日だった昭和四十七年一月二十四日に/五十九歳でなくなった。*16
ぐうぜんの一致にすぎないのだが、「なき夫の呼びかけにこたえたような良子さんの死だった。」/と、新聞が報道していたのは、興味深いことだった。*17
と、この2つの例は「新聞」とあるが紙名を示さない。
141頁2〜4行め、
とあって、4行めからこの項の末尾まで二重鍵括弧に括ってある。この話には、当時の「ミミズの生まれかわり」などという発想が見えるので、本書を児童用に復刊するとしたら削除、いや、昔の児童書が大人向けに再刊される世の中だから児童向けで出すのは到底無理で、大人向けに出すとして、編集部註で差別的表現について断らないといけなくなるであろう。
墓石/を持ってバァー*19(142頁3行め〜144頁10行め)
写真、144頁右上「『絵本江戸風俗往来』より」下
※ 平凡社東洋文庫50『絵本江戸風俗往来』282頁下段左
143頁3〜10行め、
半永久的な、りっぱな石の墓碑をたてることが一般国民にまで流行するようになったのは、日清・/日露戦争後で、まだ一世紀にもならない新しいことだとみられている。墓石といえば、菊池貴一郎/氏の『絵本江戸風俗往来』に、「墓所の幽霊」というおもしろい話がのっている。*20
東洋文庫本(第十五巻)の鈴木棠三氏の解説によると、この本の著者は、江戸生きのこりの故老で、/発行は明治三十八年(一九〇五年)。“四代広重”を称した人だけあって、約半分が著者のさし絵で/うまっていて、原名も『江戸府内・絵本風俗往来』だったという。*21
これは、原文のままでも意味はわかりそうだから、ゆっくりと音読してもらうつもりで、現代語/訳にはしないで紹介してみよう。*22
以下、この項の末尾まで1字下げで引用*23。2013年9月7日付「大田才次郎編『日本全國兒童遊戲法』(02)」に紹介した平凡社東洋文庫122『日本児童遊戯集』の「東洋文庫 刊行書目」にもあるように、平凡社東洋文庫の「第十五巻」ではなく「50」である。
・菊池貴一郎著/鈴木棠三編『絵本江戸風俗往来』1965年9月10日初版第1刷発行・1997年12月10日初版第28刷発行・定価2,300円・296頁
- 作者: 菊池貴一郎
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*1:ルビ「き たん」。
*2:ルビ「へんせい/てんせい/さいせい・みんぞく」。
*3:ルビ「さい/せいたん・ちゆうしやく/ききみみぞうし/」。
*4:ルビ「け せん/ひ/しん・びようしや・いんよう」。
*5:ルビ「ふつかつ・ぐんま」。
*6:ルビ「そう」。
*7:ルビ「くずのはきつね」。
*8:ルビ「みんぞく・ちようろう/ながと かよいうら」。
*9:それらしい人物には辿り着いたが「鈴城」と号したか不明。
*10:ルビ「はちおうじ」。
*11:ルビ「たましい」。
*12:ルビ「さいしゆう」。
*13:ルビ「めいにち」。
*14:ルビ「たんじようび」。
*15:ルビ「/そ ぼ・そうそ ぼ/き えん・ほうどう」。
*16:ルビ「ひ の あしへい・かいき/めいにち/」。
*17:ルビ「いつち/」。
*18:ルビ「さんしゆうよこやまばなし・しようかい/」。
*19:ルビ「はかいし」。
*20:ルビ「ぼ ひ・いつぱん・につしん/にちろ・はかいし/ふうぞくおうらい・はかしよ」。
*21:ルビ「こ ろう/ひろしげ・しよう/」。
*22:ルビ「/しようかい」。
*23:1行めは2字下げ。