瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(45)

・堤邦彦「「幽霊」の古層」(1)
 堤邦彦が「ゆうれい【幽霊】」項を担当した小松和彦監修『日本怪異妖怪大事典』が刊行された4ヶ月後、2013年11月25日から27日に掛けて、後に小松和彦『怪異・妖怪文化の伝統と創造──ウチとソトの視点から――国際研究集会報告書 第45集――(2015年1月30日発行・非売品・国際日本文化研究センター・312頁)に纏められることになる、国際日本文化研究センターの第45回国際研究集会「怪異・妖怪文化の伝統と創造─ウチとソトの視点から」が開催されました。――これは8月26日付(43)に取り上げた『日本妖怪学大全』に纏められた、小松氏が代表を務める国際日本文化研究センターの共同研究「日本における怪異・怪談文化の成立と変遷に関する学際的研究」を1期として、その4期に当たるものです。
 その11月27日午前の研究発表会第4セッションの1本め、堤邦彦「幽霊話の古層――江戸怪談にはじまるもの」は、193〜206頁「「幽霊」の古層――江戸庶民文化にはじまるもの」として纏められていますが、これは「ゆうれい【幽霊】」項の論文化と云うべき内容になっております。
 それでは、章節の見出しを挙げながら、内容を確認して行きましょう。章節の見出し行の位置を添えました(脚注は行数に数えない)。
 193頁4行め「一 はじめに――幽霊研究をめぐる二つの潮流」はまづ、5行め「真実としての怪談」として柳田國男の怪談観に触れ、194頁8行め「フォークロアと創作怪談のあいだ」すなわち口頭伝承と怪談文芸との関係、それから23行め「幽霊と仏教」の関係の2つを、論考の目的として設定します。そしてその最後の段落、195頁16〜21行め、

 さて、以上の二つの方向を軸に研究を進めるにあたり、ひとまず国際日本文化研/究センター編の「怪異・妖怪データベース」に収録された「幽霊」の項の話例を取/り上げてみたい。大正・昭和から現代に至るおよそ百年間に語られた幽霊話を材料/に、一般に口頭伝説の類と見なされた話が、じつは創作文芸や僧坊関与の教化譚と/近接の間柄にあることを明らかにしてみたい。それは現代怪談の意識下に刷り込ま/れた古い幽霊話の記憶を掘り起こす作業といってもさし支えない。


 そして195頁22行め「二 江戸怪談の影響力」は1つめの目的について、23行め「創られた幽霊像」は江戸時代の出版文化の隆盛と歌舞伎の女霊の演出が今日の幽霊像を形成したこと、196頁29行め「遺恨と復讐の構図」は「ゆうれい【幽霊】」項の事例⑩(585頁中段2〜10行め)及びその解説文(583頁中段11行め〜下段2行め)に対応しています*1。そして197頁28行め「亡霊と旅する男」199頁1行め「「お二人様」怪談の系譜」200頁5行め「説話の場」の3節が、「蓮華温泉の怪話」の引用も含む、この系統の話についての考察になっています。これについては次回以降に検討することにして、今回は差当り、この論文を最後まで見て眺めて置くこととしましょう。
 201頁14行め「三 仏教唱導と幽霊」15行め「高僧伝から怪談へ」は「ゆうれい【幽霊】」項の事例①(584頁上段14行め〜中段3行め)及びその解説文(582頁中段3行め〜下段5行め)に、202頁11行め「四十九院正雄の噂」は事例②(584頁中段3〜13行め)及びその解説文(582頁下段5〜18行め)に、203頁11行め「寺社縁起のなかの幽霊」は事例⑥(584頁下段16〜23行め)事例⑦(584頁下段23行め〜585頁上段9行め)及びその解説文(583頁上段15〜21行め)に、204頁15行め「幽霊の見分け方、弔い方」は事例⑭(585頁下段11〜16行め)及びその解説文(583頁下段18行め〜584頁上段8行め)に、205頁23行め「死者の未練をたつ」は事例⑤(584頁下段7〜15行め)及びその解説文(582頁下段19行め〜583頁14行め)に、それぞれ対応しています。
 最後、206頁25行め「四 おわりに」はごく短いので、全部を抜いて置きましょう。26〜30行め、

 以上、現在わたしたちの身辺で語られる幽霊の噂話をめぐって、江戸の怪異文芸/の影響や、庶民仏教の布宣した亡魂弔祭の宗教民俗とのかかわりを解析し、口碑化/した現代怪談のルーツともいうべき歴史の地下水脈を遡ってみた、そうした視座は/柳田國男以来の幽霊研究を、もう一度、江戸時代以前の古層に立ち戻って再考する/試みといってよいかもしれない。


 江戸時代以来の話型が語り継がれているとしても、そこにはやはり、193頁15行め、柳田國男の云うような「真個*2だと思って話」されるもの(或いは、話す人)と、いろいろ拵えて話されるもの(或いは、話す人)とがいるだろうと思うのです。いえ、私が怪異談に興味を持ったのは、2016年1月14日付「子不語怪力亂神(1)」に述べた事情からなので、文芸や宗教から出た要素が、そこから離れて本当だと真剣に話されるのであれば、私はむしろ、そうした心理の方に、心惹かれるのです。(以下続稿)

*1:但し「ゆうれい【幽霊】」項では『諸国百物語』の影響を断定的に述べているが、この論文では197頁17・27行め「‥‥ではないだろうか。」と控え目な書き方になっている。なお20行め「血生臭い崇禍」は「祟禍」であろう。

*2:ルビ「ほんとう」