瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小池壮彦『怪談 FINAL EDITION』(11)

 本書は副題の「FINAL EDITION」から察せられる通り、また2013年2月28日付(01)に一部引用した「まえがき」にもある通り、小池氏の先行する著述と重なるところが多い。昨今の風潮から話の時期や場所が暈かしてあるので、先行するものと比較してそのブレを測定する必要のある、私好みの材料ではあるのだけれども、2013年6月19日付(05)から2013年6月26日付(10)まで、第十話「侑子」について検討してみて何だか奇妙な気分にさせられ、他の話についてはここまで齟齬を来すところはないみたいだけれども、小説のような描写をしているところが目に付いて、どうも、怪異小説にはわざとらしさを感じて没入出来ない私には、惹かれるところがないとは云わないが、怪異談に関して言葉のあやまで検討したいとは思っていないので、たまに小池氏の他の本のついでに借りて来ていたが、本書そのものを細かく検討しようと云う気分になれなかったのである。

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 第十七話孤独死」55〜58頁
 2013年4月25日付「御所トンネル(1)」に紹介した『異界の扉』22〜27頁「都会の孤独」の改稿である。『異界の扉』は殆ど1文ごとに改行している。細かく書き換えられているが、大きな異同はない。本書の段落分けを基準に、対応関係を見ておこう。
・本書55頁2〜4行め ← 『異界の扉』22頁2〜7行め
 改行位置は本書を「|」、『異界の扉』を「/」で示した。
 『異界の扉』22頁7行めは次のようになっている。

 昔から寂しい場所で、幽霊もよく出たらしいが、その現場がいまもある。*1


 これが本書では、55頁4行めの最後「‥‥が、昔はもっと寂しい場所だった。」となっている。55頁2行め「東武東上線北池袋駅」の東側の地区である。続いて、本書55頁5行め〜56頁5行め・『異界の扉』22頁8行め〜24頁1行め「お茶あがれ地蔵」を紹介する。「お茶あがれ地蔵」については別に記事にするつもりだが、本書が『異界の扉』22頁7行めの「幽霊」云々を削ったのは「よく出たらしい」と云いながら1例だけ、それも、本書55頁7行め・『異界の扉』22頁12行め「江戸時代の元禄*2」の頃の話だからであろう。
 『異界の扉』は300年前の話の後に、24頁1行めの最後「‥‥、いまでも怪談がある。」と現代の話に移るが、本書ではいきなり現代の話に、55頁6〜7行めの台詞から入る。

「このあたり、古いアパートがわりとあるんですけど、誰*3も住んでなくてお化け屋敷み/たいになっ|てるところがあるんです」


 そして8〜11行め、

 池袋の大学に通う水野弥生は、そのアパートの前を通りかかったとき、二階の部屋の窓から人|が覗いているのを見た。そこは空き家のはずである。
 家賃が安そうなので、借りようと思ったこともある物件だが、不動産屋で聞いてみると、女性|の一人暮らしには向かないと言われた。

となっているが『異界の扉』では、台詞の前に1行、24頁2行め、

 R大学に通う水野ヤヨイ*4の証言。

とあって、台詞(24頁3〜4行め)は表記を除いて一致、そして5〜11行め、

 ある日ヤヨイがそのアパートの前を通りかかると、人魂が飛んでいた。
「二階の部屋の窓から、だれかが覗いていたと思うんです。でも、そこはだれも住んでな/いんじゃないかと……」
 現場に案内してもらった。
 北池袋からしばらく歩いたところに、なるほど古いアパートがあった。
 家賃が安そうなので、ヤヨイもここを借りようと思ったことがあるという。
 しかし、女の子がひとりで住むようなアパートではない。*5


 本書では人魂を目撃したこと、小池氏が現地に案内されたことに触れていない。それはともかく、理解に苦しむのは『異界の扉』にも本書にも「借りようと思ったこと」が「ある」とあることである。――大学入学時に見付けたとして、小池氏の取材までせいぜい2年か3年しか経っていないはずだ。『異界の扉』では自分で見て確かめて諦めたように読めるが、本書では不動産屋が「女性の一人暮らしには向かない」と言ったことになっている。そうすると「誰も住んでなくてお化け屋敷みたいになっ」たのは、ごく最近のことになるはずである。(以下続稿)

*1:ルビ「さび」。

*2:『異界の扉』はルビ「げんろく」。

*3:『異界の扉』では「、だれ」。

*4:『異界の扉』2〜3頁「まえがき」に、3頁9行め「 人名については、すべて仮名にした。‥‥」とある。

*5:ルビ「ひとだま・のぞ・やちん」。