昨日の続きで第十七話「孤独死」について。
続いて『異界の扉』24頁12行め〜25頁4行め、水野氏が現在住んでいるのが「比較的新しいマンションである」ことと、水野氏の食後の習慣が紹介される。本書56頁12〜16行めは内容は同じだが簡潔に纏めている。続く怪異も簡潔である。本書57頁1〜6行め、
ある夜、いつものようにお茶碗に紅茶をそそいで飲んでいると、部屋のすみに人形のような女|がいた。五十センチほどの背丈で、浴衣のようなものを着ている。弥生の方をじっと見て、しき|りに口を動かしていた。紅茶入りのお茶碗を差し出すと、女は両手で抱えて嬉しそうに飲んだ。|満足げな顔で頬を赤らめ、お茶碗を床に置くと、一礼して消えた。
「あとからギョッとしたけど、そのときは何の不思議な感じもなかった……」
お茶あがれ地蔵のいわれを、弥生は知らない。
『異界の扉』では、この話の前が1行分空いており、25頁5行め、書き出しは「 去年の暮れのこと、‥‥」である。平成15年(2003)の暮れである。話の内容はほぼ同じだが、水野氏の印象を述べた箇所が省略されている。まず、背丈と服装に触れたのに続いて、25頁8〜11行め、
もちろん人間ではないだろう。
しかしいつのまにかそこにいたのである。
「昔の女の人だと思うんです。長い髪をうしろで結んでいて、雰囲気からすると江戸時代/というより、室町って感じ」*1
という、文学部の学生みたいな感想があった。
『異界の扉』には紅茶を飲んで「満足げな顔で頬を赤らめ、」に当たる部分はなく、26頁1〜2行めの台詞で飲んでいるときの様子が語られる。
「身体が小さいから、顔よりお茶碗のほうが大きいんです。優勝したお相撲さんが、両手/で大きな盃を持ってお酒を飲むでしょう。あんな感じだった」*2
本書に残されている台詞も、『異界の扉』26頁4〜5行めでは、
「あとからギョッとしましたよ。でもそのときは何の不思議な感じもなくて、ああおいし/そうに飲んでるなぁ、て……」
と異なるが、ここが「満足げな顔で頬を赤らめ、」に転じているのであろうか。(以下続稿)