瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(48)

 昨日からの続き。
・選抜決勝土佐丸高校戦での回想(2)里中
 そして里中が、小林投手の影に隠れて1度も登板機会のなかった東郷学園中時代*1を回想する(文庫版(21)104〜107、110〜117、124〜129頁)。しかしながら、中学3年生の秋に里中が山田の家を訪ねて話した内容はメモを取っていないので、その辺りがこの回想と重なるのかどうか、今は検討出来ない。
 ここでは、原作では山田の野球部復帰の主要因となったはずなのに、映画には登場しなかった東郷学園中のエース小林に絞って検討することとする。――鷹丘中学に転校する前に、山田はスライディングで対戦相手の東郷学園中の投手・小林真司の両眼を傷つけてしまう。このことは10月8日付(19)に触れ、10月18日付(28)には試合展開について、小林の発言(文庫版④318〜320頁)に拠り詳しく紹介し、この設定が、小林が主将を務める東郷学園中と山田の鷹丘中が対戦することになった際に「去年からここまで連続99回無失点のタイ」記録を継続中となっていること(文庫版⑤313頁)と矛盾する可能性を指摘した。
 選抜決勝土佐丸高校戦での里中のこの試合についての回想では、さらに展開が違っているのである。
 里中の回想はまづ、104〜107頁「チビ」とバカにされた里中が、阪田・川井・佐■*2・赤丘などと云う他の新入生たちと殴り合いの喧嘩をするところから始まる。他の新入生たちは里中の「投手希望」を嗤い*3、106頁2〜4コマめ、里中の矮躯だけでなく、

赤丘:「それとお前は一番大事なことを忘れているぜ」ケヘヘヘ 
   と笑いながら里中を グイ グイ と羽交い締めにする
里中:「なに」
阪田:「おれたちと同じ新入部員の中にリトルリーグ世界大会の優勝投手がいるんだぜ」
不明:「小林真司だ」
不明:「おい うわさをすれば小林だ」

と指摘する。4コマめは小林が描かれ、吹出しの発言者は描かれないので誰が喋ったのか分からないが、2つめの発言は流れからして阪田であろう。「リトルリーグ世界大会の優勝投手」という設定は当初からのものだったのか、どうか、とにかくそれなら、小林が早くから強豪校のエースとなっていることも納得出来そうだ。
 それでも諦めなかった里中だが、114頁1〜2コマめ、

(小林と競うために東郷学園中学に入ったおれだったが競うどころじゃなかった/断固としておれは投手を主張し続けた しかし試合にすらでられないおれになにが競争だ長身・小林の速球はそれはすばらしかった/それまで記録男といわれた鷹丘中学の長島投手の記録を次々とぬりかえていった)

と云うことになる。ここで2コマめ、久し振りに長島が描かれる。しかし長島は小林と(山田・里中とも)同学年のはずだし、小学生時代からとしても「リトルリーグ世界大会の優勝投手」を上回る結果を、長島はどうやって達成していたのだろうか。
 そして124頁4コマめから、試合の回想になる。まづスコアボードが示される。

   十一 十二
西南                
東郷                

 六回以降にはパネルが入っていない。2桁の数字は縦並びである。そして里中の回想、

(山田に会ったのは中学二年の時だった)【124】
呆然とする東郷学園中の監督とベンチの部員3人(里中含む)
(こんな素晴らしいキャッチャーが中学生とは……/そのプレーにお おれは敵と忘れて酔ってしまった/本塁死守のカバーリングの見事さ……相手の作戦を読む洞察力の豊かさ/加えて守備のうまさ カンのよさ……そしてあふれるファイト!! ガッツ!!)【125】


 125頁の2コマめは頁の下部3/4を使って、山田の好守3態と見とれる里中が描かれる。
 そうすると、それなりに試合を進んでいるはずなのに何故か、126頁3コマめ、

里中:(バッティングのほうはどうなんだ あの山田)

と、初打席みたいに期待するのだが、4コマめ〜127頁3コマめ、センターオーバーのホームランを打つのである。
 そして、127頁4コマめ、

(おれの闘争心がメラメラと燃えてきた/ところが皮肉なことにこの山田という男のおかげでおれの登板のチャンスがまわってきた/山田のスライディングで小林が目をスパイクされたのだ)
里中:「ああ」


 まづ、以前の説明(文庫版④318〜320頁)と比較して疑問があるのは「中学二年の時」なのか、と云う点である。
 それから、山田のスライディングは10回裏で、試合は小林の落球で東郷学園中がサヨナラ負けしたはずから、リリーフは必要なかったはずなのである*4
 それはともかく、回想に戻ると、128頁、リリーフは野手に転向させられていた里中ではなく、その後、その投手が故障したため投手転向の命令が出るが、プライドの高い里中は(くり上がったエースになんかなれるか)と拒否したことで「監督造反」の廉で退部させられる。そして129頁、

(そしておれは山田を追いかけ始めた/ところが山田は鷹丘中へ転向して柔道を始めた)
校門に「鷹丘中学校」の表札
岩鬼「グエヒヒヒ やぁ〜〜まだ」山田と組む
里中:(いや……あの男が野球をやめるわけがない……小林さんのショックで一時 野球を中断してるだけのことだ)
山田:スパァーン とスイング
里中:(思った通り 小林ショックから立ち直った山田は野球を始めた)
(そして明訓高校へ入学……もちろんおれも後を追った)
校門に御影石に横書きで「明訓高等学校」【129】


 ここらへんははっきり覚えていないが、鷹丘中戦のベンチにいたことになっていた*5んじゃなかったっけ?
 山田家に押し掛けて進学先を聞き出そうともしていたはずだし。(以下続稿)

*1:と私は思っていたのだが、文庫版(21)では後述の通り、里中は小林が目の負傷で野球が出来なかった時期――中学2年生のうちに野球部を退部させられたことになっている。この辺りは追って、里中が初登場する文庫版⑥辺りの内容と比較検討するつもりである。【11月20日追記】初登場場面については11月20日付(53)以下に検討した。

*2:1文字めの「佐」しか見えない。

*3:11月17日追記】しかし、満12歳で身体が出来上がっていないのは当然である。それでも現時点の背丈から近視眼的な判断をするのが如何にも中学生、と云うことになるのだろうか。

*4:土佐丸戦での回想では、回想の最初に示されるスコアボードにある「西南」の5回表の1点の後に、山田がホームランを打ったのだと思うのだが、しかし、そうだとすると軟式の中学野球は7回までのはずだから、6回以降に山田がホームランを打って、さらにその後に山田がランナーとしてスライディングしたのでは、7回までに小林が負傷した回が収まらないことになってしまう。5回の1点が山田のホームランだとすれば収まらなくない。が、――無理に辻褄を合わせようとするのは苦しい。

*5:11月21日追記】ここは記憶違いで、11月21日付(54)に確認したように、当初の設定ではこの試合時に里中は「ベンチに入れ」ないレベルの「補欠」で、すなわち野球部を退部してなかった。