瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

手で書かずに変換する(4)

 昨日の続き。
 この男子高の前年、非常勤講師として自身の卒業後十数年ぶりで高校と云う場所に戻った私は、まるで浦島太郎みたいなもので、色々と自分の過ごした高校時代との違いに驚かされた。2学期に高3を担当したのでまづ気付かされて、これは不味いのではないか、と思ったのは推薦入試の蔓延である。
 ついで男子高で漢字の能力の低さを1年間の小テストで確認し続けたのだが、まだこの頃は、私の担当させられている生徒が特に出来が悪いのだろうくらいに思っていた(のだと思うが、これももう記憶していない)。
 生徒たちの漢字学習に於いて、漢字検定が定着してかなり重視されていることを知ったのは女子高に移って高2の生徒を担当して以来である。
 日本漢字能力検定協会は私の小学生の頃に設立されているのだが、私の学生時代、意識したことはなかった。英検はあったはずだが、私は受ける気がなかった(し、記念受検にしかならないと分かっていた)ので、募集その他どんな按配だったのか、全く記憶していない。それはともかく、漢検が文部省認定の資格になったのは平成4年(1992)で、平成7年(1995)から清水寺で「今年の漢字」発表と云うパフォーマンスを始めている。
 女子高では、年3回の検定を、学校で希望を調査して受検させていた。卒業までに3級を取得するよう指導していた。専任教諭の中には準1級(か1級)を取った人もいた。
 しかしながら、漢字能力はお話にならないくらい、身に付いていない。
 私は色々と異常な学び方をしたので全く例には適さないが――小学4年生の頃に火山に嵌って、村山磐『日本の火山』全3巻*1と云う本を買ってきて、返り点と句読点はあるが送り仮名のない『三代實録』の富士山貞観噴火の記事などを読んでいた。旧制中学だった名門高校を卒業している父の手ほどきで、凝り性の小学生は漢文をそれなりに読んだのである。もちろん古典を素読から習ったような身に付け方ではなかったが。それから小学6年生のときには昔話に興味を持って、当時既に新字現代仮名遣いの増補改訂版である関敬吾『日本昔話大成』全12巻も出ていたのだが、私の通っていた市立中央図書館には旧版の、關敬吾『日本昔話集成』全6巻*2しかなかったので、本字歴史的仮名遣いで読み、そこに引用されている全国各地の昔話集も大抵、戦前の出版で、かつ、市立中央図書館にそのうちの何冊かが所蔵されていた*3ので、私は借りて帰って、コピーも文具店などで出来たと思うのだが、原稿用紙を買い込んでせっせと筆写したのである。筆写に際して新字現代仮名遣いに改めたので、本字と新字の対応関係や、文法の理屈は全く学んでいないのに歴史的仮名遣いと現代仮名遣いを表記の実態から徹底的に、知らぬ間に身に付けることになった*4。今、私は火山の専門家でも、昔話の専門家でもなく、結局キャリアには何等反映出来ていない。その前、幼稚園の頃から嵌っていた仏教美術も同様である。むしろその分を苦手で敬遠していた数学(小学校のうちは十分対応出来ていた)や、意義を感じられずに学ぼうと思えなかった英語の学習に回していたら、良かったのかも知れぬ。しかし、全く後悔はしていない。――話が大幅に脇に逸れたが、元に戻して、私の高校の同級生で、あまり国語が得意とは云いかねるような連中でも、漢字検定で準2級を取得している生徒たちよりも、漢字の話は通じやすかったように思うのである。
 私たちもそんなに理論をしっかり身に付けた訳ではないのだが、音と訓の違いや、旁から推読したり、部首から意味を類推したりと云った発想が、余り頭の良くなかった私たちの高校でも、それなりに会話として成立するくらいには身に付いていた。理屈ではなく、それこそ書いて覚えていたのだ。――しかし、それが今の生徒にはなかなか通じないのである。
 講師を始めた頃には、漢字の意味を説明するとき、授業では熟語の意味のことが多いが、差当り訓読みすれば、訓は漢字に日本人が当てた日本語の意味なのだから、それがその熟語の意味としてほぼ誤らない、みたいな説明をして、実際に1字1字訓読みさせて組み合せて、それが辞書の説明とも言葉によっては殆ど変わらないことを確認させたものだったが、次第にこの説明が通じなくなって来た上に、漢和辞典を用意して来ない生徒が多数派になって来たのである。(以下続稿)

*1:この本については2014年10月1日付「浅間山の昭和22年噴火(2)」に触れた。当時示せなかった書影(函)を貼付して置く。

日本の火山〈1〉千島・北海道・東北 (1978年)

日本の火山〈1〉千島・北海道・東北 (1978年)

*2:この本については2011年4月9日付「今野圓輔編著『日本怪談集―幽霊篇―』(3)」に触れたことがある。1冊めの書影(函)を貼付して置く。

*3:佐々木喜善『聽耳草紙』の他に、礒貝勇『安藝國昔話集』や關敬吾『島原半島民話集』などを覚えている。

*4:このことは、やはり『日本昔話集成』に触れつつ2011年5月7日付「柳田國男『遠野物語』(1)」に述べたことがある。