瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

Prosper Mérimée “La Vénus d’Ille”(14)

・I giochi del diavolo “la Venere d'Ille”(4)
 昨日の続き。
 朝。馬の世話をする馬丁。
 主人公の寝室に既に余所行きに着替え、朝からハイテンションの Peyrehorade 氏が入っていて起こされる。そしてマリアが銀のお盆にトーストとバルセロナホットチョコレートを持って入って来る。――原作でマリアに当たる人物がはっきり現れるのはここのみ、原文は「un domestique envoyé par sa femme, une tasse de chocolat à la main.」で、西本氏の訳では92頁9〜10行め「奥方差し廻/しの召使いが、ココアのカップを捧げ持って控えている」平岡氏の訳では206頁3行め「夫人に言いつかった召使いが、ココアのカップを手に立っている。*1」とあるが、杉氏の訳では130頁3〜4行め「細君からつかわされた下男が、手にチョコレートの茶碗を捧げて、立っていた。」となっている。「domestique」は男性にも女性にも使うらしい。TVドラマでは女性になっているが、この辺りも当時の家事労働者の実態と合わせて考える必要がありそうである。
 原作では Peyrehorade 氏は、杉氏「ねまき姿のまま」西本氏・平岡氏「部屋着姿」なのが、このTVドラマでは既に余所行きに着替えているのは、その直前に馬の世話の場面が挿入されているように、この後、Peyrehorade 夫妻とアルフォンス君と同車して Puygarrig に赴くと云う展開になっているからである。その出発直後に、主人公は銅像を初めて正面から見る。
 原作ではこの Puygarrig 行きは午後に設定されていて、午前中は女神像について、Peyrehorade 氏のこじつけ解釈を始めとする古代談義を昼食まで聞かされることになっている。――このラテン語の銘文を絡めた箇所がなかなか見事なのだが、TVドラマには表現しづらいのであろう、TVドラマでは Puygarrig から戻って後、女神像の顔をスケッチしている主人公に Peyrehorade 氏が近付いて、台座の銘文を示して少し話すくらいに止めている。イタリア語が分からない私には、原作ほど考古学的に困った人物に Peyrehorade 氏が設定されていないらしいことが察せられるばかりなのである。(以下続稿)

*1:ルビ「めしつか」。