年度替りの頃に図書館の棚で見掛け、先年、同じ監督・脚本の『二百三高地』をDVDで見たところであったので、それほど期待せずに借りて見た。――母が五木ひろし(1948.3.14生)のファンで、演歌の番組をよく見ていたから、主題曲は何度も聞いたことあるが、映画の主題曲だと云うことも全く知らなかったのである。
・舛田利雄監督映画 昭和57年(1982)8月7日公開
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映画チラシ 「大日本帝国(第1部「シンガポールへの道」第2部「愛は波濤をこえて」)」 出演 丹波哲郎/三浦友和
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映画パンフレット 「大日本帝国・第1部第2部」 監督 舛田利雄
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しかしこれは、映画の内容とは乖離している。こうした、内容と宣伝文句の乖離については、2013年3月14日付「松本清張『鬼畜』(1)」、2013年3月15日付「松本清張『鬼畜』(2)」及び2016年5月22日付「松本清張『鬼畜』(11)」に検討したことがある。
すなわち、東條英機(1884.7.30〜1948.12.23)を演ずる丹波哲郎(1922.7.17〜2006.9.24)は、和平を望む天皇の意志に反して開戦せざるを得なくなったことに、深夜、自室で「(啜り泣き)…申し訳が…ございません…(啜り泣き)…御聖慮に添えなかったこと…(啜り泣き)」と、終いには嗚咽するのである。全然勇ましくない。東條氏が「〈出征軍人/家 族〉母子寮」を慰問し、日の丸を振る母子の万歳の歓呼の中を、満面の笑みで敬礼しつつ歩く場面に「十二月十日/マレー沖海戦」から「十二月二十五日/香港占領」までの赫々たる戦果が略地図とテロップで説明されるが、東條氏と国民との信頼関係みたいな描写があるのはこれくらいである。
ガダルカナルの敗北が決定的になった頃、東條内閣打倒の論陣を張っていた元陸軍中将・石原莞爾(1889.1.18〜1949.8.15)を陸軍省貴賓室に招く。「正直に申し上げて、貴方の評判はあまり良くないようですな。そもそも今度の戦争は、国民生活の疲弊を救うために、南方資源に手を出したのが始まりでしょう。それなのに、勝ち戦の宣伝ばかりして、生活はちっとも向上しない。特に、配給制度に関しては不満が大きい。貴方や軍を恨んでいる者も大勢おりますよ」云々と冷静な情勢分析を述べる若山富三郎(1929.9.1〜1992.4.2)演ずる石原氏に、「統帥権の独立」のため「首相」であるのに「例えばこのミッドウエイでも、あれほど酷い損害を受けていたとは、最近になって陛下から聞かされるまで私は知らなかった」と苦衷を訴えるのだが、「貴方の御立場には同情を禁じ得ないが、私の申し上げられることは1つしかない。今度の戦争の指導は貴方には出来ない。思い切って首相の座から身を引かれては如何ですか」と退陣を勧められる始末。そしてこの会談にて、東條氏の涙ぐましいまでの天皇への忠誠心が印象付けられる。
一方「燃えに燃えた」ことになっている「若者たちは」と云うと、床屋の店員・小林幸吉を演ずるあおい輝彦(1948.1.10生)、その上官の中隊長で陸軍士官学校卒の陸軍少尉・小田島剛一を演ずる三浦友和(1952.1.28生)、キリスト教徒であることから特別高等警察に目を付けられている京都帝国大学学生・江上孝を演じる篠田三郎(1948.12.5生)の3人であろうが、公開時の満年齢があおい34歳、篠田33歳、三浦30歳で、それぞれ初登場時の年齢は、役者の実年齢より大体10歳くらい鯖を読めば(?)良さそうだ。
しかしながら、庶民の小林は自分が何をしようと(させられようと)しているのかよく理解出来ていないままシンガポール攻めに参加し、江上は特高にマークされたまま召集されて酷い待遇を受けるよりはと、自ら航空兵に志願するので「燃えに燃え」て出征するのではない。職業軍人である小田島も、冷静な判断の出来る人物で、精神論を振りかざすようなタイプではない。(以下続稿)