それでは、8月8日付(27)及び8月15日付(34)に触れた、灰月弥彦(及び東雅夫)のtweetにより教えられた「おんぶ幽霊」について、確認して置こう。
・朝里樹『日本現代怪異事典』(1)
本書の書影は3月13日付「田中康弘『山怪』(2)」に貼付し、5月30日付「朝里樹『日本現代怪異事典』(1)」に正誤表について取り上げた。
さて、78頁上段13行め〜79頁上段3行め「おんぶ幽霊」の項、初め(78頁上段14行め)に「 家族にまつわる怪異。‥‥」とジャンルを示して、以下、中段12行めまでに示される話の筋は、2011年1月2日付(01)に導入として取り上げた、蜂巣敦『実話 怪奇譚(ちくま文庫)』に載る、テレビのヴァラエティ番組で「いま学校で流行っている都市伝説」として紹介された話に同じである。殺害状況が異なるくらいで、子供が母親の殺害に気付いたと思った父親が、子供を殺害しようとする、と云う展開も同じである。
次いで、中段13〜20行め*1、
さまざまな類例が見られる怪談で、常光/徹他編著『ピアスの穴の白い糸』によれば/一九八六年には夕食時に子が父に「どうし/てお母さんをしょってるの?」と尋ねる怪/談が見られるが、まず父が尋ね、子どもが/逆に質問をするという問答の形を取るよう/になるのは九〇年代に入ってからだったと/いう。
と、話の変化に関する記述に『日本の現代伝説』シリーズ(白水社)を援用する。このシリーズについては、2014年2月1日付「赤いマント(101)」及び2016年12月19日付「『夢で田中にふりむくな』(1)」に取り上げた。朝里氏はこのシリーズを全て「常光徹他編著」としているのだが、何人かで章ごとに分担して執筆しているので、朝里氏の取り上げた箇所を常光氏が書いていないことの方が多い(だろう)。確かに、書名の他に一々、章とその担当者を添えていたら大変なことは分かるが、これほど自分の担当していない記述にまで、自分の名前を持ち出されては常光氏も面映ゆいのではないか。
そこで『ピアスの穴の白い糸』ではなく『ピアスの白い糸』を見るに、この話は大島広志「IV 家族」に収録されている。ならば、ここは執筆者を尊重して「大島広志他編著『ピアスの白い糸』」としたらどうだろう。いや、後日引用するが、続く部分でも「小松和彦監修『日本怪異妖怪大事典』」と、事典の監修者を挙げているのだけれども、巻末に「参考文献」もあることだし頻出する書籍については編著者や監修者を一々挙げずに省いた方が良いのではないか。なお、500〜492頁「参考文献」ではこのシリーズ各冊の編著者名を全て挙げているが、著者名50音順なので『ピアスの白い糸』と『走るお婆さん』は「池田香代子」のところ、『幸福のEメール』は「岩倉千春」そして『魔女の伝言板』は「近藤雅樹」のところと、同じシリーズなのに分散して、探しにくい。――これは、こんなややこしい示し方をした『日本の現代伝説』シリーズの編著者陣の責任と云うべきなのだけれども。
さて、『ピアスの白い糸』155〜177頁「Ⅳ 家族」は157〜160頁7行め「コインロッカー・ベビー」、160頁8行め〜166頁13行め「母の子殺し」、166頁14行め〜172頁10行め「父の背中」、172頁11行め〜177頁4行め「死の知らせ」の4つの節に分かれており、この話はもちろん「父の背中」である。――私は新しい例は(閲覧可能な文献に纏められていないものも多いので)あまり興味がないのだが、ここには蓮華温泉の話も「〔参考〕背中に殺した女」として要約を載せているので、一応触れて置くこと*2としよう。(以下続稿)
*1:【9月23日追記】引用から1字脱落させていたことに気付いたので補った。
*2:2011年6月27日付(16)に中絶して以来、2013年6月28日付(17)から2013年7月3日付(22)に掛けて、中公文庫『岡本綺堂読物集』及び星野五彦『近代文学とその源流』に触れるために一時再開したのみであったので、他にも早い時期に気付いていた怪談レストラン③『殺人レストラン』の例も、取り上げないままで来てしまった。