・TBSラジオ/東京RADIO CLUB 編『東京ミステリー/とっておきの怖い話』(2)
昨日の続きで、まづ二見WAi WAi文庫『東京ミステリー/とっておきの怖い話』について、一昨日までと同じの要領で取り上げる話の題と投稿者を示して置こう。第六章「語りつがれてきた戦慄の怪奇譚」の4話め、217頁6行め~219頁8行め、
【54】お父さんの背中―――O・Sさん(十五歳)
と冒頭の行にある(番号は整理のために仮に付した)。
これを大島氏が「転用」元とする常光徹『学校の怪談2』の4章め、146~179頁「友だちからきいたこわい話」12話中9番め、169頁4行め~171頁5行め「おとうさんの肩」、それから常光氏の「再話」元である、2018年8月19日付(36)に要約等を示した、日本の現代伝説『ピアスの白い糸』155~177頁、大島広志「Ⅳ 家族」の3節め「父の背中」の例話とも比較して見よう。
【A】「民話と文学の会かいほう」No.50(1987.7)大島広志「父の背中」
→『ピアスの白い糸』(1994.11)166頁15行め~167頁5行め
【B】講談社KK文庫『学校の怪談2』(1991.8)常光徹「おとうさんの肩」169頁5行め~171頁5行め
【C】「東京ミステリー」(1992夏)O・Sさん「お父さんの背中」217頁7行め~219頁8行め
仮に【A・B・C】とする。【A】の初出誌は2016年12月22日付「大島廣志 編『野村純一 怪異伝承を読み解く』(1)」等に述べたように一般人が目にする機会はないと云って良い。だから【C】の「転用」元はまづ【B】と云うことになるはずである。【C】は書籍の刊年ではなく5月29日付東京RADIO CLUB「東京ミステリー」(2)」に確認したラジオ番組「岸谷五朗の東京RADIO CLUB」に「東京ミステリー」のコーナーがあった時期で、【B】は2017年1月23日付「常光徹『学校の怪談』(005)」に見たように、ちょうどその1年前に刊行されており、まさに「時系列の完璧な一致」を見せる。
それでは以下、話の要素ごとに区切って比較して見よう。
〔1〕家族構成と夫婦が不和になるまで
【A】 166頁15行め~167頁2行め
あるところに平凡な四人家族が住んでいました。長女は三歳、長男は二歳になったばかりでし/た。ところが、ある日、母親がちょっと目を離したすきに、長女が車にひかれて死んでしまった【166】のです。母親は自分の責任だと思い込んだあまり、ノイローゼになってしまいました。父親は長/男の世話ばかりか、母親の世話までしなければなりません。‥‥
【B】 169頁5~12行め
あるところに、平凡な生活をおくっている家族がいました。*1
両親と三歳の女の子、それに二歳になったばかりの男の子の四人ぐらしです。*2
ある日、買いものにいった帰り、母親がちょっと目をはなしたすきに、女の子が/車にひかれて死んでしまいました。*3
母親は、自分の責任で娘をなくしてしまったショックでノイローゼになり、ねこ/んでしまいました。*4
父親は、母親の世話とともに、子どものめんどうまでみなければなりません、そ/のうち、‥‥*5
【C】 217頁7~13行め
昔、ある夫婦が仲良く暮らしていました。かわいい男の子も生まれて楽しい日々がつづ/いていたのですが、子供が五歳になったころから、夫婦のあいだには少しずつ溝ができて/きました。
夫はほんの少しのことで妻にあたり、妻の表情もだんだん暗くなってきました。
男の子もそんな両親の気配を察してか、ひとりで黙って遊ぶことが多くなりました。
妻は、ときどき友達の家に行ったり、実家に帰ったりすることが増え、そんなときは、/父親と男の子だけが家にいます。【217】
【B】が【A】の再話(と云っても体裁を整えた程度)であることは分かるが【C】はまづ、家族構成が違う。【C】は一人っ子だから子供の死が不和の原因になっていない。とにかく、この導入部だけでも、大島氏の【C】は【B】の「転用でありながら」との主張は、何かの間違いとしか思われないのである。(以下続稿)