瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小松和彦監修『日本怪異妖怪大事典』(3)

 一昨日からの続き。
 編集委員4人のうち山田奨治は前付の解説ではなく、本編に続く618〜625頁に「あとがきにかえて」として、「妖怪データベースから妖怪事典へ」を執筆している。
 冒頭(618頁上段4〜12行め)を見て置こう。、

 妖怪データベース誕生
 怪異や妖怪のデータベースを作りたいんだ――そんなお/話を同僚にして妖怪研究の泰斗・小松和彦氏からいただい/た。一九九八年の秋ごろだったと思う。妖怪文化について/の大規模な科学研究費を申請し、その目玉として妖怪デー/タベースを作る構想があるというのだ。それが国際日本文/化研究センター(日文研)の「怪異・妖怪伝承データベース」/(http://www.nichibun.ac.jp/YoukaiDB/)として結実し、さ/らに本書へと発展した経緯を書いておきたい。


 続いて事例の選択基準について(618頁下段9行め〜619頁下段9行め)そして怪異・妖怪の呼称について(619頁下段10行め〜620頁下段17行め)の試行錯誤が述べられ、この節の最後(620頁下段18行め〜621頁上段11行め)に、

 妖怪事例の調査対象をどの範囲にするのかも悩んだ。事/例研究のための情報源としてデータベースを利用したいの/なら、特異な事例を落とさない網羅性が欠かせない。だが/妖怪事例を網羅的に集めるとなると、作業量が膨大になる/のは目にみえている。【620】
 悩んだあげく、民俗学の専門雑誌で報告された妖怪事例/をすべて集めるという、壮大な構想でスタートすることに/した。幸いなことに、竹田旦が編集した『民俗学関係雑誌/文献総覧』(一九七八)という本があった。これには日本/で出版された民俗学関係雑誌が網羅されている。そこに/載っている雑誌をすべてカバーすれば、網羅性は確保でき/る。入手困難な一、二誌を除くと、雑誌数は二六一誌で約/一万冊になる、これに加えて近世の事例を『日本随筆大成』/『続日本随筆大成』に納められている三一三篇の随筆から/拾うことにした。また、これらの文献を収録し終えた二〇/〇六年からは、県史の民俗篇からも事例を拾った。

と、収集範囲を限定したことに触れている。
 私は本文を拾い読みした程度で「怪異・妖怪伝承データベース」も余り使っていない。それは、2011年3月22日付「幽霊と妖怪」に述べたように、妖怪と云うモノにさしたる興味もないからなのだが、それでも例えば、当ブログで最も記事数の多い「赤いマント」について*1、本書を見るに6頁上段16行め「あかまんと【赤マント】*2は、解説文に続く2つの「事例」(6頁中段9〜19行め)が、2つとも「不思議な世界を考える会会報」に平成に入ってから報告された、例とするには余り上手くない話で、戦前の事例を引かない(解説文で軽く触れる)ことを不思議に思っていた*3。――従来知られていた戦前の事例についての報告は、殆どが戦後になってからの回想で、2014年7月11日付「赤いマント(139)」に纏めたように色々問題があるにしろ、決して少ない数ではない。現代に於ける怪異談の一大集成である松谷みよ子『現代民話考』にも2013年10月24日付「赤いマント(3)」等に引いたような報告があった。それだのに何故新しいところに偏しているのか不審だったのだが、要は「民俗学関係雑誌」に取り上げられて来なかったこと、そして、もとになったデータベースがこの種の話の宝庫である『現代民話考』を採録の対象としていないから、なのであった。
 同様に、近世以前の例について見ても偏っているのが気になっていたのだが、これも『日本随筆大成』『続日本随筆大成』に限定しているからで(それぞれの事項の解説文ではそれ以外の文献にも言及出来るが「事例」は拾えない)そのため『現代民話考』を活用していないのと同様、近世随筆についてこのような事例を収集分類した、太田爲三郎 編『日本隨筆索引』『續日本隨筆索引』や『随筆辞典(4奇談異聞編)』、或いは柴田宵曲『妖異博物館』『続妖異博物館』等の先行する成果を活用出来ていないためだと分かった。――こうした先行研究の成果をどう取り込んで行くかも、大きな課題であろうと思うのである。(以下続稿)

*1:最新は5月10日付「赤いマント(159)」。

*2:末尾、6頁中段20行めに下寄せで(岩倉千春)と執筆者を示す。

*3:この項については「赤いマント(160)」として近々検討するつもり。