瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(52)

・末広昌雄「山の伝説」(6)
 昨日の続きで白銀冴太郎「深夜の客」の最後、仮に【L】男の述懐とした箇所について見ても良いのですが、実はここに対応する本文が「山の伝説」にはありません。ではどう纏めているのか、と云うことになりますが、ここで一旦遡って、これまで触れていなかった、書き出しを見て置こうと思います。
 9月7日付(48)に見たように13頁上段、まづ3行取り3字下げで「山の宿の怪異」とあって、2〜5行め、

 平成二年は、小泉八雲来日百年に当たり、八/雲が書いた数々の日本の会談や奇譚が見直さ/れているが、これら小泉八雲の「雪女」にも負け/ない、山中の雪の夜の伝説を綴ってみたい。

と、4行に収めるためにやや窮屈に組んであります。「これら」は「これから」でしょうか。
 ここが前置きで1行分空けて6行めから、8月9日付(28)に、仮に【A】導入〜場所の説明とした箇所になります。
 まづ、最も知られている「蓮華温泉の怪話」の本文、そして「深夜の客」の本文、最後に「山の宿の怪異」を抜いて、対照させてみます。「蓮華温泉の怪話」と「深夜の客」の本文は東雅夫編『山怪実話大全』に拠りました。
 「蓮華温泉の怪話」一九九頁2〜4行め

 白馬岳の山ふところに蓮華温泉と云うも名ばかりの一軒家が、鬱蒼たる杉林にかこまれて、寂/しく立っている。湧出量も相当に多く、山峡の気は此の上なく澄み切っているが、不便を厭うて/か浴客は誠に少ない。*1


 「深夜の客」一九〇頁3〜5行め(前後に2行取り7字下げで下向きの▽)

 日本アルプスの秀峰白馬岳の山ふところに抱かれる蓮華温泉――*2
 温泉とはいえど茂る杉の林にかこまれて、ただ一軒の宿があるばかりである。湯はこんこんと/して尽きない。山峡の大気は澄んでいる。しかし、不便なために浴客はすくない。


 「山の宿の怪異」13頁上段6〜12行め

 それは、白馬岳の山ふところに抱かれ蓮/華温泉に残る妖異な話である
 温泉といっても、繁る杉の林に囲まれてた/だ一軒の宿があるばかりである。湯はこんこ/んとしてつきない。山峡の気はあくまでも/澄んでいる。しかし、交通が不便なために浴/客は少ない。


 仮に太字にした箇所は「深夜の客」に書き足し、或いは書き換えた判断されるところで、省略箇所は多くないので一々注記しませんでした。
 以下、しばらく同様の要領で三者の本文を対照して見ます。(以下続稿)

*1:ルビ「れんげ/こ・いと/」。

*2:ルビ「しろうま・れんげ」。