瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森於菟『解剖臺に凭りて』(2)

 1月3日付(1)の続き。
 前回、本書が昭和書房・丸井書店・森北書店・冨士出版の4つの版元から刊行されていることを確認したが、このうち丸井書店と森北書店の関係については、先年、鴎外について調べて筆者の叔父・森潤三郎『鴎外森林太郎』の復刻版を見たとき、その解説に記述があったのを覚えていた。
森潤三郎『鴎外 森 林太郎[復刻版](森北出版・A5判並製本

鴎外 森林太郎 - [復刻版]

鴎外 森林太郎 - [復刻版]

・2012年1月19日発行
・2012年2月5日増刷 定価6500円
 書名は奥付に拠る。詳細は『鴎外森林太郎』について別に記事にする際に述べることにする。
 巻頭、白色の上質紙で7枚(14頁分)、後半4枚(8頁分)は原書の扉及び口絵図版、前半3枚(6頁分)が復刻に際して追加された部分で、1枚めは復刻版の扉、裏の下部の枠(5.0×10.4cm)に横組みで4箇条、うちこの復刻版に関わる条を抜き出すと、2条めに「■ 本書は,弊社から昭和58年(1983年)に発行された覆刻/ 版第1刷をスキャニング処理により復元したものです.」4条めに「■ 巻頭の覆刻頌中の役職等は、昭和58年当時のものです.」とある。2〜3枚めが「昭和五十八年初秋」付の長谷川泉「「鴎外森林太郎」覆刻頌」で頁付(1〜4頁)がある。その2頁11行め〜3頁8行め、

 さて、本書には、原型となった、一種の初版と目すべき「鴎外森林太郎伝」(昭和九年七月七日、昭和書房)/がある。この書の背文字及び扉文字は「鴎外森林太郎」である。ただし、内題・柱・奥付は「鴎外森林太郎伝」/である。その不統一の理由は、森潤三郎が序文に記するところで明らかである。すなわち、「鴎外森林太郎」の/文字は、鴎外の筆跡からの集字であるが「伝」の一字は適当な文字が見当たらなかったので省いたとされている。/ ゆえに、昭和書房版については、私が「鴎外森林太郎伝」をもって書名とすることを提唱し、学者間ではその/ように呼ぶことが行われている。昭和書房版を改訂・増補して頁数を増加し、内容を充実した改訂版以降の書名/は「鴎外森林太郎」である。森潤三郎著「鴎外森林太郎」の書誌は、次頁のようになる。【2】
  鴎外森林太郎 森潤三郎著 丸井書店刊 昭和十七年四月十日
  鴎外森林太郎 森潤三郎著 森北書店刊 昭和十七年七月卅日 再版
  鴎外森林太郎 森潤三郎著 森北書店刊 昭和十八年十一月二十日 十版
 昭和書房版から数えれば、改訂増補版であって再版と称することもできる丸井書店刊の「鴎外森林太郎」は、/初版の扱いになっている。そして、発行所を森北書店に改めた「鴎外森林太郎」は、奥付表示が「再版」と記さ/れている。丸井書店・森北書店、共に発行者は森北常雄で、同一人物である。森北氏が丸井書店名を名乗ったの/は、本書の販売上から、取次名を借りた便宜のためである。従って現在、内容の同じ丸井書店版・森北書店版が/流布しているが、事情は上記のようなことで、共に森北常雄発行書なのである。


 森北常雄のことは冒頭、1頁め1〜2行めにも「森北出版株式会社の現会長森北常雄氏に会うごとに、私は森潤三郎著「鴎外森林太郎」の覆刻をすすめて来/た。‥‥」と見えている。旧知であるらしい長谷川氏の記述なので、大体分かったような気分になっていたのだが、今改めて読み直して見ると、そんなに「事情」が明らかにされている訳ではないのである。
 長谷川氏の書き振りだと、同じ時期に取次の「丸井書店」と、出版の「森北書店」の2つが存したように読めるが、実のところはどうなのだろうか。森北氏の「丸井書店」創業については2015年5月30日付「河本正義『覗き眼鏡の口上歌』(2)」に活用した「渋沢社史データベース」の「(株)岩波書店『岩波書店八十年』(1996.12)」の年表「昭和8年(1933)」条に「9月5日|丸井書店(1950年8月25日、森北出版と改名)創業(森北常雄)。」と見えている。昭和25年(1950)に「森北出版」と改名したことになっているが「森北書店」はどういう扱いなのかが分からない。
 いや、森北氏が「丸井書店」から「森北出版」までに称していた版元名は「森北書店」に止まらない。この辺りの版元名の変遷を(差当りOPAC利用と云うことになるが)出版物で跡付ける作業が出来れば良いのだが、それをする余裕が今、ないので、ここでそもそもの切っ掛けであった『解剖臺に凭りて』に話を戻すと、昭和22年(1947)に復刊された「新編」の版元「冨士出版」の發行者がやはり「森北常雄」なのである。
 それから、鴎外関係の本ではないが、唐澤平吉のブログ「花森安治の装釘世界」の2011年2月11日金曜日「女の四季 舟橋聖一」に紹介されている舟橋聖一『女の四季』(昭和廿三年十月二十五日發行・昭和廿四年六月十五日再版・定價一五〇圓・346頁・B6判並製本)は、發行者「森北常雄」で發行所「ロッテ出版社」なのである。唐澤氏はこれについて「【もうひとこと】ロッテ出版社のことは、よくわからない。現在の理工系書籍出版社、森北出版の前身であるようだ。本書ページ末に、久米正雄『赤光』、川端康成『白い満月』、藤澤恒夫『彼女は答へる』、佐藤垢石『絡む妖美』、三宅やす子『未亡人論』の自社広告があるほか、太宰治『誰も知らぬ』、海野十三『大宇宙探険隊』を刊行したことはたしかである。」と附記している。
 すなわち「森北常雄発行書」の版元名は、少なくとも5つは存しているのである。――今は前回見た『解剖臺に凭りて』の丸井書店版と森北書店版そして冨士出版版が全て「森北常雄発行書」であること、さらに本書も森潤三郎『鴎外森林太郎(伝)』と同じく昭和9年(1934)に初版が出ているが、その版元も同じ「昭和書房」であったことに、注意して置くこととしたい。(以下続稿)