瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(89)

・文豪ノ怪談 ジュニア・セレクション(2)
 2018年12月20日付(86)の続き。
 このシリーズは各作品の本文末に、下寄せでやや小さく初出について注記している。『霊 星新一室生犀星ほか93~132頁「木曾の旅人」では、132頁2行めまでが本文で、3~4行めに9字半下げで、

(「やまと新聞」一九一三年五月~六月に連載された「五人の話」の第四話「炭焼の話」を改題改稿して、/一九二一年刊『子供役者の死』所収。*1

とあって、「五人の話」を初出扱いしていることが気になった。
 それと云うのも『山怪実話大全』の「編者解説」の「炭焼の話」と「木曾の旅人」の関係を述べた箇所、二三三頁7~11行め、

 すでに中公文庫版『近代異妖篇』解題で、編者の千葉俊二も言及しているように、その意/表を突く結末を除けば、「炭焼の話」と「木曾の旅人」の相似は歴然である。「木曾の怪物」/と「炭焼の話」という別々に書かれた物語を結び合わせ、後者の突き放すがごとき不可解な/結末(なぜ子供や犬や旅人を怖れたのかは最後まで謎のままなのだ)に、怪談的な因果の理を徹*2/すことで、不朽の名作「木曾の旅人」は誕生したのである。

とあって、これを読むと「炭焼の話」を発展させたのが「木曾の旅人」と読めるから「改題改稿して」としてあるにしても、所謂「初出」とは違うのではないか、と思ったのである。
 しかしこれは「中公文庫版『近代異妖篇』解題」の踏襲で、283頁11行め「初出は以下のとおりである。」として、12行めから285頁4行めまで列挙した中に、284頁9~11行め(最初の行は3字下げ、残りは5字下げ)に、

木曾の旅人    「やまと新聞」大正二年五月二十四日~六月二十七日(原題/「五人の話」のうちの第四話「炭焼の話」。のち「木曾の旅人」と改題改稿され/て『子供役者の死』に収録)

とあった。そして東氏が言及している千葉氏の「解題」の該当箇所でも、2013年6月29日付(18)に引用したように「初出の「炭焼の話」と現行の「木曾の旅人」では」と云う書き方をしているのだが、やはり「大幅に改稿されて」いることにも触れ、そして最後には「「炭焼の話」と「木曾の旅人」も、それぞれ別作品と見なしても差し支えないのかも知れない。」と曖昧にするようなことを書き添えていたのであった。(以下続稿)

*1:ルビ「しんぶん・ねん・がつ・れんさい・にん・はなし・だい・わ・すみやき・はなし・かいだいかいこう/ねんかん・こ どもやくしゃ・し・しょしゅう」。

*2:ルビ「とお」。