瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

東京RADIO CLUB「東京ミステリー」(08)

 昨日の続きで、TBSラジオ東京RADIO CLUB 編『東京ミステリーとっておきの怖い話』二見WAi WAi文庫)について。
・第五章 日常を切り裂く凶々しき出来事(1)
 「目次」の9頁5~15行め、章題*1に続いてやはり10題。
 165頁(頁付なし)がこの章の扉*2
【41】天窓に張りつく長い髪の女―――T・Mさん(十七歳) 166~170頁
 冒頭、166頁2~6行め、

 私は二年前にいまの家に引っ越してきました。そのときの話です。
 
「出窓と天窓のある家がいい」
 父の仕事の都合で家を引っ越すことになったとき、私はそういいました。
 私は障子や襖がいっぱいあるようないままでの和風の家ではなく、出窓や天窓があって、/カーテンがフワフワ揺れるような家に住みたかったのです。‥‥


 放送時から遡って2年前は平成2年(1990)――約30年前にはこのような憧れが切実なものとしてあった。しかし、私が10年前に高校生に尋ねたとき、和室のない家で、炬燵も家にないと云う生徒が何人かいた。この状態はさらに進んでいるであろう。今や洋風は当然になり、和風に対する切実な憧れを抱いているような若者は、いても僅かであろう。
 それはともかく「何か月か」後「私の希望通りの洋風」の「新しい家」に引っ越し「しかも、私の部屋は二階のはじっこ」で「天井は斜めになっていて、大きな天窓がついて」いる「自分が思っていたとおりの部屋」。〈夜になれば、星が見える〉と【166】「夜になるのが待ち遠しくて仕方が」ない体験者。
 そして「まだ、誰も入っていない」「新しいお風呂にいちばんに入」るのだが「このお風呂にも出窓がついてい」る。「うれしくてドキドキしながら」お風呂に入る体験者であったが「湯船のなかに長い髪の毛が三、四本絡まるように浮いている」のに気付く。「家族におこんな長い髪の毛の人はい」ないので〈おかしいな〉と「洗面器で、それをすくいあげて流し」「なんとなく気味が悪くなったので、早く出ようと思って、急いで身体を洗いはじめ」て「シャンプーをしているとき、直感的に感じ」る。167頁13行め~168頁4行め、

〈見られてる〉
 パッと顔を上げて、出窓のほうを見ると、誰かが立っている気配がします。出窓の外は/一段低くなっている庭なので、そこに人がいられるはずがありません。塀もちゃんとある/のです。【167】
〈なんだろう〉
 目を凝らしていると、人の気配のするところにぼんやりと白い影が見えはじめました。/外は暗いので、なかなかはっきりしてきませんでしたが、それでも、それが髪の長い女の/人だとわかるのに、そんなに時間はかかりませんでした。


 「怖くなっ」て「お風呂からとびだし、両親を呼」んで見てもらうが「誰もい」ない。「恐怖心と疲れから、私はぐったりしてしまい、早めに眠ることにして、自分の部屋」の「ベッドに横になると、顔の真上に星が見え」る。「そのままうとうと眠ってしま」ったが「なんだか胸が苦しく、身体が熱くなって、目を覚ましてしま」う。「そのとき」「お風呂で感じたような視線をまた感じ」「横を向いていた私」が「ゆっくり視線を天窓」に向けると、「天窓には、あの髪の長い女に人が張りついて、じーっと私を見下ろしている」【168】。
 169頁は斜めの壁に切られた天窓に、黒目のない大きな目の女性がニヤッと笑い、右手を窓に突いている挿絵。窓の割に顔と手が大きい。これは、170頁2~4行めの次の場面、

 恐怖のあまり、声も出ません。いえ、動くことすらできなくなっていたのです。女の人/から目を離すことができないでいると、その人は突然、カッと目を見開いて、「ニヤッ」/と笑いました。


 「全身の力を振り絞って、布団のなかに潜りこみ」「一睡もできないまま朝を迎え」「明るくなっ」てから「恐る恐る天窓を見」たが「もう誰もい」ない。しかし「天窓のガラスにはくっきりと手形が残っていた」。
 両親に「どうしても信じて」もらえず「いまもおなじ家に住んでい」るが「内側から大きなポスターを張って、天窓を塞いで」いる。だから「あの人」は「今夜もやってきているかもしれません」。
 両親は全く怪異を感じていないらしい。しかし「見下ろ」される心配はなくなったとして、風呂は平気なのだろうか。他の「出窓や天窓」は大丈夫なのだろうか。「新しい家」は中古の、新しく住むことになった家、と云う意味ではなく、文字通り新築の家らしいから、所謂事故物件のような理由がある訳もなく、何ら原因は解明されない。霊能者と云われる人々なら何か尤もらしい説明を思い付くかも知れないが、私はそれを真面目に聞こうと思えない。だからどうも、私はこの手の、体験者が個人的に体験したとされる話(体験談)が苦手なのである。(以下続稿)

*1:ルビ「まがまが」。

*2:ルビ「まがまが」。