瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

事故車の怪(19)

・TBSラジオ東京RADIO CLUB 編『東京ミステリーとっておきの怖い話』(2)
 昨日の続きだが、6月9日付(18)と同じく事故車の話なので標記の題にした。第五章「日常を切り裂く凶々しき出来事*1」の10話め。
【50】不幸を招き寄せるバイク―――M・Hさん(十七歳) 199~202頁
 冒頭、199頁2~4行め、

 私の通っている塾の先生は女性ですが、とても霊感が強くて、普通の人が見えないもの/を見たり、感じたりすることがたびたびあります。たとえば、心霊写真に何が写っている/かよく見えるし、死亡事故のあった現場を通ると人の声を聞いたりするのです。


 女子高で話を聞いたり、レポートを書かせたりしたとき、霊感が強い友達の話をした生徒が何人かいた。見えたとか、ここヤバイと言われたとか云うのである。しかし、本人が「私霊感あるんですよ」と言うような生徒は1人もいなかった。まぁそんな生徒がいたとして、私がてんで信じていないもんだから話しても仕方がないと思ったのだろう。話そのものを否定するようなことはしなかったつもりだけれども。だって世間にはもっと可笑しな話がいっぱいあるのだから。
 しかし1人だけ、修学旅行の宿で足を見て、しかし同級生たちは全く気付いていないらしい。と、視線に気付いてそちらを見ると、同級生が自分を見ている。部屋に戻るときに近付いて来たその同級生に「あなたも見えるのね」と言われた、とか云ったような体験談を書いた生徒がいた。細かいところは違っているかも知れない。
 しかし私のような考証道楽の人間には、自分には分かっても他人には分からないことには依拠出来ない。自分が分かったことが他人にも分からないと、それは確かなこととはされない。感性の違いなら学習である程度摺り寄せることも出来るかも知れないが、訓練でどうにかなるものではなかろうし、そんな訓練はしたくもない。尤も、私の考証道楽の場合も、読めば分かってもらえると思っていても、そこまで時間を掛けて読んでくれるような人が、多くない。しかし、全くいなかったら霊感云々と同じになってしまうが、そうではない、今すぐに、ではなくともいづれ現れるであろうことを念じて、瑣事をつついているのである。
 それはともかく、話を投稿者の塾の話に戻すと、「ある日」その塾で「授業が終わり、私が帰り支度をしている」ところに「私の高校のA先輩が訪ねて」くる。「塾の生徒では」ないが「先生とは顔見知りで、ときどき相談に乗ってもらっていたらしい」。「この春に学校を卒業したばかり」と云うのだから平成4年(1992)春の卒業で、私より2学年下の昭和48年度生と云うことになろう。大学には進学していないようだ。まぁ「塾の生徒で」もなかった訳だし。
 この日の要件は「友達から安く買った」バイクの写真を見てもらうことで「乗るたびにトラブっ」て「なんでもないカーブでスリップしたり、ブレーキのききが瞬間的に甘くなったり」すると言うのである。それに対して、199頁14行め~200頁5行め、

 写真を受け取った先生は、しばらくのあいだ、じっとその写真を眺めていましたが、ふ【199】ーっと大きく息を吐くと、A先輩に写真を返しました。その写真には750ccの大きなバイク/にまたがったA先輩が写っていました。
「A君、このバイクに乗るのはやめなさい。いつか死ぬよ」
 先生の言葉にびっくりしたようなA君は、それでもとても諦めきれないといったようす/で、‥‥


 こんなところに聞きに来たくらいだから予期していたのだろうが「いいバイク」だし「バイク屋にもっていってきちんと整備してもらったら……」と、何故かここだけ地の文も「A君」になっているA先輩は、食い下がる。しかし、こんなところに来る前にバイク屋に行けと思ってしまうのは私だけだろうか。しかし先生の答えは「このバイク、壊したほうがいい」であった。【200】
 201頁の挿絵は相談に持参した写真を描いたもので、余計な血痕等が描き足されている。
 「一か月ほどたったころ」やはり「塾の後片づけをする時間に」現れたA先輩は「げっそりとやつれ」、先生に「深々と頭を下げ」ると、「先生、助かったよ」と言ってその後起こったことを説明する。「廃車にしようと思っていたら、友達がどうしても譲ってくれって……。頼みこまれて、しょうがないから譲ってやったら、そしたら、そいつ、昨日バイクで事故って、死んじまった……」と言うのである。
 そして、結末。202頁12~16行め、

 ちなみに、死亡事故を起こしたというのに、そのバイクは無傷だったということです。/そして、恐ろしいことに、そのバイクはまたバイクショップで売られることになったとい/うのです。もしかしたら、あなたの近所のバイクショップの店頭にならんでいるかもしれ/ません。バイクに乗っている人、これから中古バイクを購入しようとしている人は、気を/つけてください。


 さて、この話の場合、安く転売されている、と云う要素はあるが、安くなっていた理由が説明されていない。「一か月」後の再訪までに、A先輩は自分に安く売り付けた「友達」に事情を確かめて、先生に後日談とともに報告するべきだったろう。事故を起こしたバイクが「無傷だったという」話は、2017年2月20日付「恠異百物語(5)」に使ったことがある。――「使った」と云うのは、元の「小学4年生の3学期、昭和57年(1982)2月頃に隣のクラスの担任の、まだ20代に見えた女性教師(N先生)から」聞いた話でも、バイクで事故を起こして死んだことにはなっていたと思うのだが、バイクがどうだったかまでの記憶は流石にないので、「無傷」云々はどこかで聞くか読むかして付け足したからである。
 それにしても、一体何に「気をつけ」れば良いのだろうか。(以下続稿)

*1:ルビ「まがまが」。