・杉村顯『信州百物語/信濃怪奇傳説集』の諸本(1)
当ブログでは諸本について記述することが多いのですが、好きでやっているのではなくて、どの本に拠ったかで違いが生じてしまうことがあるから念のため、仕方なくやっているのです。古書を蒐集する経済的・精神的・空間的余裕は私にはないけれども、図書館を回る時間的余裕はないでもないので、気分転換と体力維持とを兼ねて、都内・都下をうろうろしつつ、違いを見付けると一通り確認して置きたくなってしまうので、かつ、図書館の蔵書は何時まで書架にあるのだか、その後、閉架・保存庫に収まったらまだマシで、廃棄されてしまう可能性も高いので、余所の図書館で余り見掛けない本を見ると、そこから各自治体の図書館を検索して回り、何冊か集めて「改版」とか「改装」としてメモしているのです。しかし、写真を撮らないので、飽くまで原本を持っている(見ることが出来る)人が、異同を確認するのに役立つ程度のメモに過ぎないのですけれども。
しかし本書は、確か2011年1月初旬に、2011年1月9日付「岡本綺堂『飛騨の怪談』(1)」に取り上げた鈴木書店版『飛驒の怪談』の東京都立中央図書館蔵書(日比谷図書館旧蔵)を閲覧した際に一緒に出納してもらって見たことがあるくらいで、以後、1度も触れておりません。長野県内の図書館には相当数所蔵されておりますが、東京都の図書館には殆ど所蔵がありませんので、私のような図書館派が気軽に諸本について論じるような代物ではないのです。それに、2010年2月刊行の叢書東北の声11『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』に全文が収録されておりますし、今は昭和9年(1934)の初版と昭和21年(1946)の新版を、国立国会図書館デジタルコレクション(白黒)にて閲覧することが出来ます。
ですから以前、長野の公立図書館の OPAC を検索した際に、数種の版があるらしいことに気付いたときに、長野まで閲覧に行こうかと考えたこともあったのですが、これだけのために長野まで行くことが躊躇われて、かと云って別に長野での用事も思い付かず、そのまま、もやもやした状態で数年を過ごしておったのですが、その後、Twitter にて愛書家連が各種の版について情報交換をしていることを知り、裨益されるところ大、これである程度の見通しは立てられそうに思えました。そこで、原本を所蔵しない私がこんなことをするのはどうかと思うのですが、飽くまでも手控えとして諸本リストを挙げて置きます。――増刷数はもちろん内容の流布に影響があるはずで、戦中戦後にかなりの部数が出たからこそ平成に至って、「晩秋の山の宿」ではなく「蓮華温泉の怪話」が《発見》されることになった訳です。
図書館蔵書は OPAC の情報に拠りましたが、明らかにおかしい記載があります。これは、他から得た書誌データを基礎に、実際に所蔵する本と照らし合わせてデータを書き替えないと行けないのですが、しばしば訂正が十分に行われず、奇怪な書誌データが示されることになっております(愛書家ならば古書店の目録に初版のデータが流用されていて、注文して落札したら後刷だったと云う覚えがありましょう)。ですから『信州百物語/信濃怪奇傳説集』のように版次の複雑な本は、実際に見ないことにはどの版なのか判定出来ないのですが、参考までに示して置きました。【?版】だらけになってしまいましたが*1。
【初版】信濃郷土誌刊行會編『怪奇傳説 信州百物語』昭和九年五月 拾 日印刷・昭和九年五月拾五日發行・定價金八拾錢・はしがき+目次5+127頁
(所蔵)国立国会図書館デジタルコレクション、長野県立長野図書館、ライブラリー82、松本市立中央図書館、上田市立上田図書館、小諸市立小諸図書館、諏訪市図書館、北原尚彦
初版に異版は認められていないようである。よって昭和9年(1934)版は注記なしでここに纏めた。詳細は『信州百物語』の成立について述べる際に触れるつもりである。
2016年7月23日22:51 の北原尚彦の Tweet に初版・五版・新版の書影。
【再版】信濃郷土誌刊行會編『信州百物語 信濃怪奇傳説集』昭和十七年七月八日・60頁・上製本
(所蔵)飯田市立中央図書館*2、国際日本文化研究センター、神保町のオタ
神保町のオタのブログ「神保町系オタオタ日記」の2015-12-06「信濃郷土誌刊行会編『信州百物語 信濃怪奇伝説集 全』(信濃郷土誌刊行会、昭和17年7月再版)」に刊行会代表者荻原正巳「はしがき」の引用、 2016年1月18日16:45 の神保町のオタの Tweet に書影が掲出されている。
【三版】信濃郷土誌刊行會編『信濃怪奇傳説集』昭和十七年七月・信濃郷土誌刊行会・104頁
(所蔵)長野市立長野図書館*3、松本市立中央図書館*4
OPAC の情報は誤りも多く、はっきり「三版」と記載されている訳ではないが、昭和17年(1942)7月刊で104頁、とあるので仮に三版として置いた。
【四版】信濃郷土誌刊行會編『信濃怪奇傳説集』昭和十七年九月十日
(所蔵)飯田市立中央図書館*5、杉村翠、ナカネくん、高木大悟*6、長野県立長野図書館*7、佐久市立中央図書館*8、University of Michigan*9
奥付は2016年7月24日02:29 のナカネくんの Tweet に、奥付の書名と発行日の写真が掲載されている。ナカネくんは四版と五版の書影を2011年8月30日00:04 の Tweet と、2018年6月20日01:45 の Tweet にも掲出している。表紙・背表紙・扉・奥付に副題「信州百物語」がない。しかしながら叢書東北の声11『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』443頁に掲出されている杉村氏の次女・杉村翠が所蔵する第4版の表紙には副題「信州百物語」とある。南信州図書館ネットワークOPAC では「四版」と明記するが刊行月がナカネくんの写真と異なる。どうもこの「四版」の区別はそう簡単ではないようだ。長野県立長野図書館と佐久市立中央図書館のものは三版かも知れないが1942年とあるのみなので判定出来ない。仮にここに含めて置いた。
【五版】信濃郷土誌刊行會編『信州百物語 信濃怪奇傳説集』昭和十八年七月十日・信濃郷土誌刊行会・104頁
(所蔵)飯田市立中央図書館*10、上田市立丸子図書館*11、北海道立図書館、青森県立図書館、神奈川県立近代文学館(大岡昇平文庫)、柏崎市立図書館本館、富山市立図書館*12、北原尚彦(2冊)、ナカネくん、加門七海*13、東雅夫*14、国立民族学博物館みんぱく図書室*15
2018年10月20日23:32 の北原尚彦の Tweet に新収本の書影。
【六版】信濃郷土誌刊行会編『信州百物語 信濃怪奇傳説集』昭和二十年十二月一日・信濃郷土誌刊行會・100頁*16
(所蔵)長野市立長野図書館・長野市立南部図書館*17、柏崎市立図書館本館*18、信州大学附属中央図書館*19、高崎経済大学図書館*20・天理大学附属天理図書館*21、東洋大学附属図書館*22
刊行月は長野市立図書館OPACに拠る。六版と云うことになろうか。頁数が従来と異なる。
【?版】信濃郷土誌刊行会『信州百物語 信濃怪奇傳説集』昭和二十年版・昭和二十一年刷・信濃郷土誌刊行会・100頁
(所蔵)神戸大学附属図書館
昭和20年(1945)12月版の増刷と云うことになろうか。
【?版】信濃郷土誌刊行会編『信濃怪奇傳説集』昭和二十一年・信濃郷土誌刊行会・104頁
(所蔵)大町市立大町図書館*23
昭和20年(1945)12月版よりも後だが頁数は四版・五版に同じ。
【新版】信濃郷土誌出版社編『信州百物語 信濃怪奇傳説集』昭和二十一年六月三十日 印 刷・昭和二十一年七月 五 日 新版發行・定價金五円・信濃郷土誌出版社・100頁
(所蔵)国立国会図書館デジタルコレクション、国立民族学博物館みんぱく図書室、東京都立中央図書館、神奈川県立近代文学館(藤森成吉文庫)、京都府立京都学・歴彩館、射水市図書館、Stanford University Libraries、北原尚彦、氷厘亭氷泉
編者と版元が「刊行会」から「出版社」に変わっている。
【?版】一陽社編集部 編『獵奇物語 怪奇傳説百物語』昭和二十二年・一陽社長野分室
(所蔵)University of Maryland Libraries、東雅夫
2018年6月23日03:33 の東雅夫の Tweet に表紙と目次冒頭の写真が掲出されている。(以下続稿)
*1:【9月6日追記】四版などいろいろと問題があり、現段階では確定的なことが云えず、細かく手を入れざるを得ない状態である。よって今月末までの追加・訂正については特に断らないこととした。
*3:再版との書名・頁数の違いから三版と推定。長野市立図書館OPACに拠る。
*4:再版との書名・頁数の違いから三版と推定。松本市図書館蔵書検索OPACに拠る。
*5:1942年7月とする。南信州図書館ネットワークOPACに拠る。
*6:三版の可能性あり。
*7:三版の可能性あり。
*9:三版の可能性あり。
*13:版次不明。標題から仮にここに置く。
*14:版次不明。編者・標題から仮にここに置く。
*15:104頁なのに再版、版元を信濃郷土誌出版社とするなど疑問あり。
*16:【2021年11月9日追記】オークションサイトの写真により六版であることが判明したので「【?版】信濃郷土誌刊行会編「信州百物語 信濃怪奇傳説集」昭和二十年十二月・信濃郷土誌刊行会・100頁」となっていたのを改めた。五版などと同じレイアウトの表紙、裏表紙の下部には「行 發 會 行 刊 誌 土 郷 濃 信」とある。最後の頁付は「一〇〇」、奥付には「昭 和 九 年 五 月 十 日 印 刷/昭 和 九 年 五 月 十 五 日 發 行/昭 和 十 七 年 七 月 八 日 再版發行/昭 和 十 八 年 七 月 十 日 五版發行/昭和二十年十二月一日 六版發行」或いは「定價 金 貳 円(税共)」などとある。
*18:1945年。但し版元「信濃郷土誌出版社」とする。仮にここに置く。
*19:1945年とのみ。
*20:1945年とのみ。
*21:1945年とのみ。
*22:1945年とのみ。
*23:市立大町図書館蔵書検索に拠る。