瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

岡本綺堂『飛騨の怪談』(1)

 岡本綺堂『飛騨の怪談』については、1月4日付で言及した『岡本綺堂読物選集』④異妖編 上巻(昭和44年5月20日発行・定価八五〇円・456頁)の岡本経一「あとがき」を読んで以来気になっていましたが、国会図書館はもちろん、日本近代文学館神奈川近代文学館そして大学図書館などにも所蔵がないらしく、探せないでいました。古書店のサイトにもありません*1
 ところが、幸いなことに岡本綺堂東雅夫 編『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』(二〇〇八年三月五日初版第一刷発行・定価2300円・メディアファクトリー・317頁)が刊行されて、内容は分かるようになりました。

 しかしながら、「新編 綺堂怪奇名作選」の「編者解説」には、原本についての記述が殆どありません。巻末の【初出一覧】にも

飛騨の怪談  単行本『飛騨の怪談』大正二年(一九一三)三月、鈴木書店

とあるのみです。
 そこで、原本を見ることは出来ない(もちろん、東氏の使用した本がある訳ですが、厚かましい申し出が出来る訳もなく)ものと思っていました。
 ところが、都立中央図書館に、原本が所蔵されていたのでした。都立図書館のOPACを検索しなかった筈もないと思うのですが、「配架日 1998/10/22」とありますので、それ以前はヒットしなかったのでしょうか。
 大きさは17.6×11.7cmで、補修はされていますが元表紙(並製)のままです。表紙の左側に

飛騨の怪談 岡本綺堂

と行書で入っています。そして中央右寄りに左向きの兜の絵が描かれています。兜が出てくる理由は「新編 綺堂怪奇名作選」を既読の方はお分かりでしょう。文字と絵の輪郭線は茶色、絵にはさらに朱や黄色も使われています。
 背表紙は「岡本」しか確認できません。書名のあった辺りは太ペンで「飛騨の怪談」と書いた紙が貼り付けられており、また綺堂の号も分類票等が貼付されていて見えなくなっています。面白いのはNDC「3881/1/」に分類されていることで、どうも民間伝承の本と勘違いされていたようです。
 表紙をめくると遊紙があって、次に扉、茶色の広い枠の中央に

飛騨の怪談 岡本綺堂

とあり、見返しに「東京都立日比谷図書館/昭25.4.1和/01247」の蔵書印があります。「25」は欠損があって読みづらいのですが、間違いないでしょう。そして、本文1頁は、

飛  騨  の  怪  談
                             岡 本  綺 堂
        (一)


 綺堂君、足下。
 聰明なる讀者諸君の中にも、この物語に對して『餘り嘘らしい』と
いふ批評を下す人があるかも知れぬ。否、足下自身も或は其一人であ
るかも知れぬ。が、果して嘘らしいか眞實らしいかは、終末まで讀ん
で見れば自然に判る。
 嘘らしいやうな不思議の話でも、漸々に理窟を詮じ詰めて行くと、
それ相當の根據のあることを發見するものだ。

として、以下は「新編 綺堂怪奇名作選」に復刻されている通りです。入力は省略しましたが本文は総ルビ(標題にもルビ)、「 」は使われておらず全て『 』で、必ず『‥‥。』のように句点を打っているのが「新編 綺堂怪奇名作選」にも忠実に再現されていますが、特徴的です。ちなみに原本は三点リーダ(…)ではなく二点リーダ(‥)を使っています。(以下続稿)

*1:2014年4月6日追記近代デジタルライブラリー国会図書館蔵『飛騨の怪談』が公開されている。扉に「帝國/圖書/館藏」印と「大正/2.3.20/内交」印がある。