岡本綺堂『飛騨の怪談』については、1月4日付で言及した『岡本綺堂読物選集』④異妖編 上巻(昭和44年5月20日発行・定価八五〇円・456頁)の岡本経一「あとがき」を読んで以来気になっていましたが、国会図書館はもちろん、日本近代文学館・神奈川近代文学館そして大学図書館などにも所蔵がないらしく、探せないでいました。古書店のサイトにもありません*1。
ところが、幸いなことに岡本綺堂/東雅夫 編『飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選』(二〇〇八年三月五日初版第一刷発行・定価2300円・メディアファクトリー・317頁)が刊行されて、内容は分かるようになりました。
- 作者: 岡本綺堂,東雅夫
- 出版社/メーカー: メディアファクトリー
- 発売日: 2008/03/01
- メディア: ハードカバー
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飛騨の怪談 単行本『飛騨の怪談』大正二年(一九一三)三月、鈴木書店刊
とあるのみです。
そこで、原本を見ることは出来ない(もちろん、東氏の使用した本がある訳ですが、厚かましい申し出が出来る訳もなく)ものと思っていました。
ところが、都立中央図書館に、原本が所蔵されていたのでした。都立図書館のOPACを検索しなかった筈もないと思うのですが、「配架日 1998/10/22」とありますので、それ以前はヒットしなかったのでしょうか。
大きさは17.6×11.7cmで、補修はされていますが元表紙(並製)のままです。表紙の左側に
飛騨の怪談 岡本綺堂著
と行書で入っています。そして中央右寄りに左向きの兜の絵が描かれています。兜が出てくる理由は「新編 綺堂怪奇名作選」を既読の方はお分かりでしょう。文字と絵の輪郭線は茶色、絵にはさらに朱や黄色も使われています。
背表紙は「岡本」しか確認できません。書名のあった辺りは太ペンで「飛騨の怪談」と書いた紙が貼り付けられており、また綺堂の号も分類票等が貼付されていて見えなくなっています。面白いのはNDC「3881/1/」に分類されていることで、どうも民間伝承の本と勘違いされていたようです。
表紙をめくると遊紙があって、次に扉、茶色の広い枠の中央に
飛騨の怪談 岡本綺堂作
とあり、見返しに「東京都立日比谷図書館/昭25.4.1和/01247」の蔵書印があります。「25」は欠損があって読みづらいのですが、間違いないでしょう。そして、本文1頁は、
飛 騨 の 怪 談
岡 本 綺 堂
(一)
綺堂君、足下。
聰明なる讀者諸君の中にも、この物語に對して『餘り嘘らしい』と
いふ批評を下す人があるかも知れぬ。否、足下自身も或は其一人であ
るかも知れぬ。が、果して嘘らしいか眞實らしいかは、終末まで讀ん
で見れば自然に判る。
嘘らしいやうな不思議の話でも、漸々に理窟を詮じ詰めて行くと、
それ相當の根據のあることを發見するものだ。
として、以下は「新編 綺堂怪奇名作選」に復刻されている通りです。入力は省略しましたが本文は総ルビ(標題にもルビ)、「 」は使われておらず全て『 』で、必ず『‥‥。』のように句点を打っているのが「新編 綺堂怪奇名作選」にも忠実に再現されていますが、特徴的です。ちなみに原本は三点リーダ(…)ではなく二点リーダ(‥)を使っています。(以下続稿)
*1:【2014年4月6日追記】近代デジタルライブラリーに国会図書館蔵『飛騨の怪談』が公開されている。扉に「帝國/圖書/館藏」印と「大正/2.3.20/内交」印がある。