瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(136)

・青木純二の経歴(5)
 それでは10月18日付(133)の続きで、遠田勝『〈転生〉する物語――小泉八雲「怪談」の世界の「いたずら者の青木記者」の節に戻って、その中盤を見て置こう。33頁9~16行め、

 また、青木純二は改名後の名前で、一九二四年度の記載には「青木純二(中尾兵志改名)」とあ/る。しかし、その前の一九二二年度の記載には「牛尾兵志」の名で記載があり、また、著書の序文/にも「私が牛尾を姓し」という一文があるので、「中尾」は「牛尾」の誤植で、旧姓は「牛尾兵志」/が正しいようである。
 著作としては「アイヌの伝説そのほか5」とあり、一九二二年度の記載には「伝説の九州、九州/怪談集」という二冊の書名もあげてあるが、青木のそのほかの著書としては、『アイヌの伝説と其/情話』以外は確認できなかった。趣味は「諸国の土人形を集むること」、信奉する主義は「皇室中/心主義」とある。

と『新聞人名辞典』に見える記載を纏めている。
 「著書の序文」とは、この節の終盤の34頁7~9行め、次の節「「雪女」と偽アイヌ伝説」の37頁7~10行めに2字下げで、それぞれその一節を引用している『アイヌの傳説と其情話』の「はしがき」である*1。ここには国立国会図書館デジタルコレクションによりその全文を抜いて置こう。扉に続く頁付のない2頁が「はしがき」で、表の1頁め、まづ4行取り8字下げで大きく「は し が き」とあって、

 こゝに集めた『アイヌの伝説と其情話』とは、大部分は『婦人公論』『淑女畫報』『大阪朝日』/その他の諸新聞雜誌に發表したものと、更に出版にあたつて書加へたものである。
 私が牛尾を姓し新聞記者として北海道各地を流轉中に得た大きな仕事はこのアイヌ研究であつた/こゝに書いたもの全部が古文書をあさり、あらゆる傳説研究書を讀破し、その上、親しくアイヌ部/落を訪ふて古老達に聞いた話ばかりなのである。
 傳説は歴史でもなく、またお伽噺でもない。その民族の人とによつて築かれた美しい夢の塔であ/る。世界の何處の國にも何處の里にも傳説のない處はない。わけて、アイヌ達の傳説は面白いので/ある。
 私はこゝで傳説について多く語るの要はない。たゞ、このアイヌの傳説と情話によつてすこしで/も、滅びゆく人達の、ありし世の生活を忍んで戴けば滿足である。
 リリーの花の咲く北海道。大自然に惠まれた北海道。波荒む千島。夢の島樺太。そこには、あ【1頁め】まりに尊い傳説が多く秘められて居るのだ。
 だがお斷りせねばならぬことは、口碑といひ、傳説といひ、あるひは記憶の謬錯があり傳聞の訛/誤があり、あるひは移動轉嫁せるものも尠くない。著者は歴史家ではなく、民族研究家でもないの/でこれらの考證は他日に期して、こゝでは、數年間苦心して蒐集した口碑傳説を列記するにとゞめ/る。
 尚、更にアイヌを離れた蝦夷の傳説、現在のアイヌ達の情話、追分唄物語等も書店さへゆるして/呉るれば、引續いて發行したい希望を有して居る。


 そして2行分空けて4字下げで「大 正 十 二 年 二 月」、1行分空けて下寄りに「越 後 路 に て」とあって次の行にやや大きく「青  木  純  二   」とある。(以下続稿)

*1:前者は「私が牛尾の‥‥」の段落、後者は「だがお断り‥‥」の段落。