・青木純二の経歴(4)阿部敏夫の調査②
昨日はわざわざ見に行った資料が肝腎な情報を載せていなかった、と云う見当外れの話で終わってしまった。調査をしていると斯様なことはしばしばあり、そこはしばらく、こんなところだろう、との見当を付けて、と云うか高を括って、つまりは作業仮説で進めるのだが、結構進めてしまってから閲覧困難だった(と云う程でもないが、なかなか見に行けなかった)資料に当たって見ると、参照出来ていた後続する研究からは想像出来ないくらいの達成が既に為し遂げられていたりする。――それなら早めに見に行け、と云うことになるのだけれども、都内に勤務していた頃にも億劫だったのが、わざわざ出掛けるとなると、よりハードルが高くなったような按配なのである。足が遠退いているうちにカードの期限が切れたり、パスワードを忘れたり。
さて、遠田勝『〈転生〉する物語』が参照している「環オホーツク――環オホーツク海文化のつどい報告書」を私は見ていないのだけれども、それでも内容の見当は付く、と述べたのは、阿部敏夫『北海道民間説話〈生成〉の研究 伝承・探訪・記録』474~476頁「初出一覧」の474頁6行め「第二章 和人創作の「アイヌ民間説話」」の箇所、7~12行めに1字下げで、
「和人のアイヌ文化理解について 事例その1 青木純二『アイヌの伝説』」北の文化シンポジウム/実行委員会編『環オホーツク 環オホーツク海文化のつどい報告書』[一九九四年三月]
「大正期におけるアイヌ民話集」『平成十四年度 普及啓発講演会報告集』[財団法人アイヌ文化振/興・研究推進機構 二〇〇三年三月]
「北海道民話の研究(その3) 工藤梅次郎『アイヌ民話』の考察」『北星学園大学文学部北星論集』/第四十三巻第一号[二〇〇五年九月]
の3つ挙がるうちの2つめ、財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構『平成十四年度 普及啓発講演会報告集』78~88頁によってである。ちなみに3つめの「北星論集」所収の論文は「北星学園大学学術情報リポジトリ」にて読むことが出来る。
この『報告集』の内容は「公益財団法人 アイヌ民族文化財団」HPの「平成14年度普及啓発セミナー報告」にて閲覧出来る。阿部氏は2002年8月6日(火)札幌会場で「大正期におけるアイヌ民話集」・「北海道の義経伝説とアイヌ」との講義を行っている。前半「大正期におけるアイヌ民話集」に『アイヌの伝説と其情話』の説明があり、後半「北海道の義経伝説とアイヌ」に青木氏について、以下のような紹介をしている。88頁左41~49行め、
‥‥。青木純二の関/して『新聞人名辞典』で調べてみると、大正十三年と大正/十四年と昭和二年の三回ほど青木純二というのが出ていま/す。そして青木純二の本名は中尾兵志っていうんです。当/時、東京朝日新聞高田支局で、以前には函館新聞に勤めて/います。そこでアイヌ文化と知り合ったとこう書いていま/す。私が面白いと思ったのは、この『新聞人名辞典』に青/木純二は「皇室中心主義」と出ているんです。生年月日と/かいろいろ記載されています。‥‥
遠田勝『〈転生〉する物語』の本文32頁14行めの注(17)、「新聞及新聞記者」及び『日本新聞年鑑』について、240頁17行め、
(17)『新聞人名辞典』第二巻(日本図書センター、一九八八年)所収のリプリント版を使用。
して再検討したのは、恐らく「環オホーツク――環オホーツク海文化のつどい報告書」No.1 の段階で阿部氏によって既になされていた『新聞人名辞典』の検討を踏襲してのもので、実は阿部氏が指摘している以上に『新聞人名辞典』には青木氏の名前が出ていたのである。そのことは次回以降、阿部氏の研究を土台にした遠田氏の研究を確認し、さらに細かく見て行こうと思っている。
なお「環オホーツク――環オホーツク海文化のつどい報告書」No.1 の段階では、阿部氏は『アイヌの傳説と其情話』ではなく改題本『アイヌの傳説』に拠っていたらしい。またこの講義では「悲しき蘆笛」の典拠を『山の傳説と其情話』と指摘しながら、その典拠『山の傳説と其情話』に「阿寒颪に悲しき蘆笛」の作者が「永田耕作」となっていることを何ともしていない。これについて10月15日付(132)に言及した、tonmanaangler のブログ「国家鮟鱇」の2017-08-24「「アイヌ伝説が実は創作だった」件について(その2)」にも触れるところがあるけれども、釧路国際ウェットランドセンター阿寒湖沼群・マリモ研究室室長、北海道大学大学院地球環境科学研究院客員教授の若菜勇(1957.8生)のブログ「マリモ博士の研究日記」に今年1月25日から4月28日に掛けて転載された、昨年6月18日から今年3月18日まで「釧路新聞」文化欄の若菜氏の連載「日本マリモ紀行」にて23回、取り上げられた「『マリモ伝説』」と云う調査報告が、永田氏の遺族から得た資料や新聞記事・広告にまで当たって詳細を極めており、阿部敏夫元教授も登場する。そしてこれによって、tonmanaangler 氏が疑問としたことも粗方解明されているのである。(以下続稿)