瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

飯盒池(3)

・丸山政也・一銀海生『長野の怖い話 亡霊たちは善光寺に現る』(3)
 一昨日からの続き。
 本書147~148頁「三十八 ハンゴウ池 下高井郡」の原話と思しきものが、松谷みよ子『現代民話考Ⅱ 軍隊』に載っている。但し、巻末の「参考文献・出典・初出・引用」に『現代民話考』は見えないから、直接の典拠ではない。
 この点について、本文を比較しつつ検討して見よう。
【A】場所の説明
・現代民話考『軍隊』単行本342頁10行め、

○長野県白根山白根山にはハンゴウ池という池があるという。‥‥


 文庫版385頁11行め、○が*に変わっている他は同じ。これは3月21日付(1)に引いた本書の前置き(147頁2~6行め)に当たる。
【B】事件
・現代民話考『軍隊』単行本342頁10~11行め・文庫版385頁11~12行め、

‥‥。行軍してきた兵隊の|一人が飯盒/をなくした。そのためこの池に身を投げた。‥‥


 改行位置は単行本を「/」で、文庫版は「|」で示した。なお、2行め以降は1字下げになっているが詰めて示した。
・本書は前置きから1行空けて、147頁7行め~148頁3行め、

 太平洋戦争時、行軍してきた兵隊たちが、その池の傍で炊事することになった。
 するとひとりの兵士が飯盒*1をなくしたことに気づいた。
 まさか上官に報告できるわけはない。それに正直に言ったところで新しいものを与えら【147】れるわけがなかった。罵られ、殴られるのが関の山だ。
 自分だけもう白米は食べられないのかと悲観した兵士は、飯の時間を待たず、他の者た/ちの眼を盗むようにして、池に入水してしまった。

とあって、『現代民話考』には時期を特に示していない(もちろん戦前だが、明治の可能性もある)のに対し「太平洋戦争時」と限定している。いや『現代民話考』には状況の説明が殆どない。それが本書では、この池の近くで炊事をすることになり、その際に飯盒をなくしたことに気付いた、と云う段取りになっている。しかしそれ以上に注意されるのは、自殺の理由が「自分だけもう白米は食べられないのかと悲観した」となっていることである。
【C】怪異
・現代民話考『軍隊』単行本342頁11~12行め・文庫版385頁12~13行め、

‥‥。雨のふるさびしい夜など、|その池からハンゴーハ/ンゴーとすすり泣く声がするという。


 やはりごく簡単である。
・本書148頁4~7行め、

 それ以来、夜になると池のなかから、
「はらへったー、はんごうねえー、はんごう、はんごうねえか――」
 死んだ兵士の、すすり泣きながら呟くような声が聞こえるのだそうだ。
 それからというもの、そこは「ハンゴウ池」と呼ばれるようになったという。


【D】評言
・本書148頁8~11行め、

 このような理由で死を選んでしまうことは、現代の感覚ではとても考えられないが、戦/時中は普通の出来事だったのかもしれない。
 池から聞こえる声よりも、本当に恐ろしいのは、このような時代があったことではない/だろうか。


 『現代民話考』にはこのような論評はなく、次のように情報源が示される。
・現代民話考『軍隊』単行本342頁13行め・文庫版385頁14行め、

  回答者・松谷みよ子(東京都在住)


 松谷氏は誰から聞いたのだろうか。誰かから聞いたのだろうが、いつ、誰から聞いたのかも覚えていないような、しかし次回述べるような類話を読んで、記憶の奥底からこういった要旨ばかりが蘇って来たのであろう。(以下続稿)

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 東京オリンピックパラリンピック組織委員会会長が「我々は愚かではない」と会見したそうだが、それなら早く中止を決断して下さい。直ちに中止して、浮いた分の予算を直ちに各種対策に充てるべきだ。全国旅行業協会会長の旅行券バラマキ案じゃなくて、もっとまともな対策に。それなら中止しても批判は受けないだろう。中止によって発生する損害の補償の話は、やはり「愚か」に見えるお仲間の IOC なんかと詰める必要があるが、この御時世、より早く決断した方が世界の支持を得られるだろう。各国首脳が現在の状況を第二次世界大戦に引き比べている。当時と同じように中止にして、何ら可笑しくない。それを追い風に、ちゃらに持ち込んでいただきたい。そうすれば、誰も会長のことを「愚か」だなんて、思いません。
 大会そのものの中止も早いうちに決断していただきたいのだが、今日明日中に聖火リレーの中止を決断して下さい。そんなことも出来ずに「愚かではない」と言われてもねぇ。――しかし今日になっても「水際対策」とか言っている首相に、あっさり騙されて何とかなっていると思い込んでいる(思い込みたい)日本人の、何と多いことか。

*1:ルビ「はんごう」。