瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

中学時代のノート(20)

・昭和56年頃に聞いた怪談ノート(17)後篇⑦ 怪談(その十一・上)あの老婆は死神か

 25頁1行め~27頁13行め、話の仮題は「老婆の死神」としていたが、明後日の投稿で述べるような事情で改めた。

 五年になると、■本先生が通称「足の話」P₇をしてくれ/た。が、同じときに本で読んだ話として次の話をした。
 
 (あらすじ)
 大阪にセールスマンがいた。四十才ぐらいの働き盛りの/人だった。セールスマンというのは、売りに行って、売れれば給/料も多く、売れなければ給料も少ない。百軒廻って一軒し/か売れないことがある。それで夏の暑い日も、けんめいに/廻っていた。
 ある日も、一日中廻って帰ってきたのが十時だった。その/人は、家で、(つかれがたまって)倒れてしまった。(高熱を出/してうなるので)救急車を呼んだ。病院に行って見てもら/うと、三日目が山だ、といわれた。
『なにしろ病人のことやからいつ起きるかわからん、(昼間/寝てたら夜おきるとか……)その人は、真夜中目がさめてん/な。そして辺りをみまわすと、まどの向う(病院のドアの)/に、白い布*1が、ヒラヒラァ……ヒラヒラァ……とうごいて/いる。なんやろっと見てみると、カーテンのようでもある。「だ/れかつけてくれたんだな」と、よくみてみると、おばァさん/【25】ののどにガーゼがはってあって、それが、ヒラヒラァ……/とうごめいてるのだ。見舞に来てくれたんかな、と思っ/た。
 二日目に起きたのも真夜中だった。病室をみまわして/みると、去日*2のばァさんが病室の中に入っている。顔はに/こにこ笑ってる。きのうカーテンのようにみえたガーゼが/のどで風もないのに、ヒラヒラァ……ヒラヒラァ……/とうごいている。息*3はしてるようだ。ヒラヒラァヒラヒラァ/……。よくみると、ガーゼのすきまから、のどの中が見え/た。
 三日目の真夜中、山*4と言われた日時だった。見ると/「ワアァ」なんとばァさんはこしをまげて、その人の顔/のま上でにこニコとしている。ガーゼは風もないのに
  ヒラヒラァ……ヒラヒラァ……
とうごいている。息はしているようや。
 そこでその人は考えた。
死に神とちがうかァ。」「そうや、死に神や。」「まけてたま/るか、妻も子供もおんのやでェ」「わしは生きるんや」と、/グーッと力を入れた。すると、ばァさんは、昨日*5の場所/【26】に下がり、どんどんさがていって、しまいには戸の外に出/てしまった。
 その人はそのことを話したが、相手にされなかった。/それで、この病院に五、六年つとめているカンゴ婦さん/にそのことを話すと、カンゴフさんは青くなって、次の話/をした。
 五年前、どこだかのおばァさんが、具合が悪くなっ/て来た。診ると、のどのガンだった。手おくれだったが/一応手術だけはした。が、この部屋の、このベッドで/なくなった――。と。
 
 「この話はそのセールスマンの人の書いた本にのってた」と/言*6うてた。あと二つある。次にしたのはこれ。


 冒頭、「通称「足の話」」と云うのは、9月20日付(12)に校訂案を示した(その五)寄宿舎の足音の怪談のことである。小学6年生のとき転校先の横浜市立小学校の修学旅行の晩に語って評判になり、級友たちの誰からともなく「足の話」と呼ぶようになったのだ。
 さて、この、喉に穴がある人は、今月入院して初めて実際に目にすることとなった。2日めと3日めに「息はしている」ことに注意しているが、これが当初、すなわち2日めの時点では、婆さんが生きている=幽霊ではないという根拠になっていたからであろう。「五、六年」では大してベテランとは思えないが、先生がこう話して私たちも怪しまなかったのか、私の記憶違いなのかは分からない。全体にもう少し説明を詳しくして欲しいところであるが、ほぼ想像で補うことが出来る程度には書けていると思う。
 さて、この話に関しては何年か前に、原話らしきものを見付けたのである。そのことは既に2016年8月17日付「淡谷のり子「私の幽霊ブルース」考証(2)」に断ってある。しかし、話の中核を為す部分は一致するのだが、細かいところが■本先生の話の方が異様に詳しい。それから、場所と、入院期間が異なる。体験者の年齢と職業も違っているようだ。そのことについては次回、原話と校訂案を突き合わせて、確認することとしよう。(以下続稿)
10月2日追記】原本の当記事に関連する写真を貼付した。

f:id:samatsutei:20201002175318j:plain
25頁
f:id:samatsutei:20201002175446j:plain
26頁
f:id:samatsutei:20201002175523j:plain
27頁

*1:振仮名「ぬの」。

*2:振仮名「きのう」。

*3:振仮名「いき」。

*4:振仮名「ヤマ」。

*5:振仮名「きのう」。

*6:振仮名「ゆ」。