瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

池内紀「雑司が谷 わが夢の町」(1)

池内紀の居住歴(1)
 4月9日付「水島新司『ドカベン』(60)」にて、鈴木則文監督の実写映画『ドカベン』にて「朝日奈書店」として使用されていた書店が豊島区雑司が谷の高田書店であることを確認し、営業期間について豊島区南池袋の古書店・古書 往来座ブログ「往来座地下」の、2002-01-01「番外 ご近所古書店史」を参照した。そこに池内紀(1940.11.25~2019.8.30)の文章が引かれていることに触れたのだけれども、妙なところに注目してどのような内容であるかを説明していなかった。

■高田書店さんは鬼子母神参道ケヤキ並木と商店街の二股分岐点角地。
 『東京人 特集[東京くぼみ町コレクション]』(1991/3)で池内紀
< 都電の鬼子母神駅で降りると、参道に向かって商店が並んでいる。右手に金物屋、八百屋、雑貨屋、豆屋、花屋。欅並木の参道は、太い幹から枝分かれしたように二手にわかれ、分岐点に高田書店という古本屋があった。>
< 二十代のはじめ、参道入口の花屋の南を右に入った露地奥のアパートに4年あまり住んでいた。>
 と書いている。


 この池内氏の文章の初出と再録については、やはり「往来座地下」の同じ日付、すなわち同時に纏めて投稿された一連の記事の1つ「「雑司が谷 わが夢の町」池内紀」に纏められている。現今、初出誌を見に行くことは難しいので、再録の方で確認した。
川本三郎編『日本の名随筆 別巻32 散歩』一九九三年一〇月二〇日第一刷印刷・一九九三年一〇月二五日第一刷発行・定価1553円・作品社・252頁・四六判

日本の名随筆 (別巻32) 散歩

日本の名随筆 (別巻32) 散歩

  • 発売日: 1993/10/01
  • メディア: ハードカバー
 編者も含め36人の36篇を収録する。193~195頁、29番めが池内紀雑司が谷 わが夢の町」である。
 高田書店に関わる箇所を、池内氏の雑司ヶ谷在住期間の手懸りとともに引用して置こう。193頁11行め~194頁6行め、

 都電の鬼子母神駅で降りると、参道に向かって商店が並んでいる。右手に金物屋、八百屋、雑貨/屋、豆屋、花屋。欅並木の参道は、太い幹から枝分かれしたように二手にわかれ、分岐点に高田書/店という古本屋があった。【193】
 記憶の底から、まざまざとよみがえってくる。二十代のはじめ、参道入口の花屋の南を右に入っ/た露地奥のアパートに四年あまり住んでいた。ふところはさみしかったが若さがあった。安物の背/広に着替えて会いにいく恋人もいた。ふところのさみしい恋人たちは、のべつ歩きたがるものであ/る。墓地の南につづく静かな住宅街の細い道を、ものほしげにうろついた。護国寺の石段にすわっ/て今川焼を食べながら、昏*1れなずむ大東京の家並みをながめていた。鬼子母神のお祭りには、手を/握りあって雑沓にまぎれこんだ。


 池内氏が雑司ヶ谷に住んだのは、当時西ヶ原(現・北区西ヶ原4丁目51番)にあった東京外国語大学に通っていたからであろう。鬼子母神前停留場から西ヶ原四丁目停留場まで都電32系統(現・荒川線)で通っていたものと思われる。尤も「二十代のはじめ、‥‥四年あまり」とあるから、初めから雑司ヶ谷に住んだわけではない。
 この辺りの事情は次の本より窺うことが出来た。
中公新書2023『東京ひとり散歩』2009年9月25日発行・定価740円・中央公論新社・222頁

東京ひとり散歩 (中公新書)

東京ひとり散歩 (中公新書)

  • 作者:紀, 池内
  • 発売日: 2009/09/01
  • メディア: 新書
 前付ⅰ~ⅷ頁「はじめに」に、ⅲ頁7~10行め、

 十八歳のとき、東京にやってきた。北区滝野川の安アパートが振り出しだった。そのうち/板橋に引っ越した。つづいて豊島区雑司ヶ谷。そのあとが世田谷の三軒茶屋。世帯をもって/からは国分寺市、四十代になってようやく三鷹に分相応の家を見つけた。そして――履歴書/風にいうと――現在にいたっている。


 このうち本文中で取り上げられているのは172~179頁「鬼子母神懐古――雑司ヶ谷」のみであるが、滝野川・板橋・三軒茶屋等のことは「はじめに」に略述されている。次回、滝野川や板橋について「はじめに」の記述を確認し、また雑司ヶ谷について「雑司が谷 わが夢の町」と対照させながら見て置こう。(以下続稿)

*1:ルビ「く」。