瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(66)

・『日本昔話通観●第11巻富山・石川・福井』(2)
 昨日抜いた稲田浩二『日本昔話通観●第28巻/昔話タイプ・インデックス』の「234 雪女房」に「11―○139」とあった。そこで本書の「目次」を見るvii頁中段6行めに「139 雪女 275」とある。275頁下段~277頁上段3行めに方言そのままの典型話が提示されている。まづ3行取り4字下げでやや大きく「139 雪女」と題、2行めは下寄せで「富山県中新川郡立山町  」と伝承地、3行めから1行28字で本文、そして末尾に「‥‥/だったとお。(伊藤稿 No.10)」とある。「資料目録」を見るに、697頁下段5~16行め「稿本」として26番から31番まで、県ごとに2点ずつ未発表資料が挙がっている。6~8行め〈富山〉の2点めが「27 伊藤稿――伊藤曙覧 1980」である。本書の前年に纏められた稿本であるが、本書に使用されたためか結局刊行されなかったようである。誰に聞いたかは「典型話(原話)伝承者名一覧」にも「139」が出ていないから分からない。この「伊藤稿」の話については、遠田勝『〈転生〉する物語』の記述及び石崎直義越中の民話』第二集に載る、同じ富山県の話とともに取り上げることにしよう。
 さて、277頁上段4行め~下段3行め、前後1行空けて1字下げで小さく行間も詰めて「類話」が2つ、紹介される。
 1つめの類話(277頁上段4~15行め)は前記「伊藤稿」とともに触れることにする。
 2つめが10月3日付(62)に見た、橘正典『雪女の悲しみ』129頁8~12行めに㈡竹取物語型として取り上げている話である。冒頭「㈡ 大雪の‥‥」に始まり「‥‥なる。(福井県鯖江市)」で終わっていたが、福井県だからこの巻に載っているはずではある。ここでは本書(277頁上段16行め~下段3行め)から抜いて、『雪女の悲しみ』の異同すなわち橘氏が更に要約した箇所は注記、改行位置を「|」で示した。

 類話2 福井県鯖江市立待・女 大雪の夜、子供のない爺/婆のところへ女の子が来るが、熱いかゆも食べず火のそばへ/も|寄ってこない。爺婆はその子を雪と名づけて育てる。雪は/夏になると食べ物が食べられずにやせ*1、冬になると元気|にな/る。十年たって、*2村の長者や殿様が「嫁にくれ」と言うが雪/は返事をしない。ちょうど*3十年目の大雪の夜、楽|の音と鈴の/【上】音が聞こえてくると、雪は「自分は北の国の雪の精で、今日/迎えがきた」と言っ|て姿を消した。それからはこの山里に大/雪が降らなくなる。(鯖江市史 p.548)


「資料目録」を見るに698頁下段14行め~701頁上段16行め「地誌・民俗誌・その他」の700頁上段8行め以降〈福井〉として86から112まで並ぶ中に、700頁下段15~16行め、

101 鯖江市史……鯖江市史編纂委員会 鯖江市史 史料篇・第/ 一巻民俗篇 1973.11.1 鯖江市役所

とある。福井県丹生郡立待村は昭和30年(1955)1月に今立郡鯖江町その他と合併して鯖江市になっている。鯖江市の北西部、日野川に沿った福井平野の農村地帯で、北部に山地はあるが最高峰が経ヶ岳(182.0m)、「山里」ではない。
 前半は「しがま女房」によくあるパターンだな、と思って10月5日付(64)に引いて置いた「日本昔話タイプ・インデックス」の「233 しがま女房」を見たら特に夏はバテ気味で冬に元気と云った辺りは書かれていなかった。夏を越せずに溶けてしまう話も多いからであろうか。そして後半は橘氏の云うように、確かに「竹取物語型」である。
 遠田氏は本書を参照しているはずだし、橘氏の本も読んでいるとすれば、当然この話の存在も分かっていたはずだが、ハーンの「雪女」とは別系統と云う判断なのであろう。いや、それともハーンの「雪女」から派生したと云う判断なのであろうか。
 しかし、ハーンの「雪女」の後半、押し掛け嫁(もしくは娘)が十年後に去って行く、と云った辺りが共通するから、橘氏が(詳しくは後述するが)この竹取物語型の「雪女」に注目したのは、尤もなことだと思う。(以下続稿)

*1:『雪女の悲しみ』は「名づけ育てるが、雪は夏になるとやせ」。

*2:『雪女の悲しみ』「十年たって、」なし。

*3:『雪女の悲しみ』「ちょうど」なし。