昨日の続きで、2019年12月20日付(1)に挙げた諸本のうち①上製本(初版)第一刷にて、内容を見て置こう。排列であるが「はしがき」の昨日引用した箇所に続いて、2頁16~18行め、
次に地域のわけ方については、長野県は、もともと、人文地理的にも自然地理的にも北信、東信、中信、南信/の四つに分けるべきでしたが、特に民話の文学性をも考慮し、「奥信濃」「塩田平・佐久平」と、あえて五つの/地域にわけてみました。【2】
とするのだが、4頁「〔信濃の地図〕」を見るに、「奥信濃」が北信、「塩田平・佐久平」は東信で従来の区分の呼称を変えただけである。「諏訪湖・伊那谷」も南信の呼び換え、「五つ」と云うのは中信が「安曇野・筑摩の里」と「木曽路」の2つに分けられているからであった。
描かれているのは「千曲川」と「犀川」、そして県外に出たところに「信濃川」、他に県外まで流れている川筋は南に「天竜川」と「木曽川」、姫川は青木湖から北流しているように描かれているが県外まで薄墨の線が延びておらず名称は書き込まれていない。青木湖の辺りが水源であることは確かだが、青木湖の北にある丘陵地が分水嶺になっていて、青木湖の水は姫川には入っていない。山の名称は全く書き込まれていないがそれらしき場所に▲がある。白馬岳の他北アルプスに2峰、御嶽山、木曽駒ヶ岳、八ヶ岳、黒姫山と云った辺りで、特徴のある描かれ方がしてあるのは布引観音と白煙を吐いている浅間山の2つ。そして話の登場人物(?)が13話、話の題は11題書き込まれる。「奥信濃」では琵琶法師の絵に「池に浮んだ琵琶」、他に野尻湖と善光寺が説明なしで書き込まれる。「塩田平・佐久平」では女性を乗せて疾走する馬に「望月の駒」、黒い龍に「竜になった甲賀三郎」。「安曇野・筑摩の里」は右手に鉄砲を持った「猟師澁右ェ門」と寝そべっている「ものぐさ太郎」、他に白い龍に乗った子供と、狐が描かれる。「木曽路」には髪を振り乱した「焼棚山の山姥」と姫が身投げ(?)する「姫ガ淵の歌」、「諏訪湖・伊那谷」は諏訪湖が描かれ、そこから南へ、白犬の「早太郎犬」、太った狸「ずいとん坊」、相撲取りに近い体格の「大男尾科文吾」、そして南端近くにすらりとした「雪女」の立ち姿。――思わず、あんた、そことちゃうで、と突っ込みたくなった。
この「雪女」の立ち位置――中央アルプスでも南の方、恵那山(2191m)と天龍川の間、標高2000mに達しない山並が続く辺りで、他の12話が伝承地(とされる場所)の近くに描かれているのに一人だけ道に迷ったようである。本来の位置である白馬岳の辺りには猟師渋右衛門が立っているので追い出されてしまったようだ。5~8頁(頁付なし)「目 次」で上部に狐と烏のカットがあるのは各頁共通。5頁は扉で中央に「信 濃 の 民 話 目 次」とある。6~8頁は頁の半ばが題と半角漢数字の頁を繋ぐ「……」で埋められている。最後、8頁21行め、下寄せで小さく「カバー絵・金沢佑光 さし絵・太郎座美術部 」とある。この目次のカットもカバーと同じ画家の作品に見えるから、金沢佑光(1935.2.15生)も当時、瀬川拓男が主宰していた人形劇団「太郎座」の美術部に所属していたのであろう。
そしてまづ、「五つの地域」区分に属さない話から始める。検索の便宜のため、仮に番号を打った。
【1】でいだらぼっち・でいらん坊(9~15頁)
本文は19頁2行めまで、余白があって左端に小さく「はなし 瀬 川 拓 男」。信濃の民話の総説のような位置付けなのである。各頁下部に絵、9頁は山野、10頁と11頁は同じ山並の絵、12頁と13頁も同じ、山野を走る子鹿を2頭連れた親鹿の3頭連れ、14頁の煙を吐く山は浅間山か。15頁は浅間山に息を吹きかける巨大な子供。獣皮を纏って縄で腰を縛る。裏は白紙。(以下続稿)
【10月21日追記】目次5~8頁上部のカットに「ゆ.」、15頁左下隅にも「ゆ」のサインがある。すなわちこれらは金沢佑光(ゆうこう)の作であろう。以下の「ゆ」とある挿絵も金沢氏の作品と云うことになる。