瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(071)

・遠田勝『〈転生〉する物語』(30)「三」1節め
 私の興味は白馬岳の雪女がどのように展開したのか、より正確に辿ることにあるので、松谷みよ子とその「民話」を検討した「二 ハーンと「民話」の世界」は、殆ど素通りしてしまった。松谷氏の再話については、追々「雪女」以外の話を取り上げつつじっくり考えて見るつもりである。
 さて、遠田氏は「二」章の5節め「「情話」から「童話」へ」で、青木純二がハーンの「雪女」を改変・移植して捏造した白馬岳の雪女伝説が、本来は青木氏が得意とする「情話」として仕立てられていたのを、松谷氏がセクシュアリティを抑制することで童話として仕立て直したと指摘する。
 続く69~83頁5行め「三 怪談作家ハーンの誕生」では、この松谷氏の「雪女」の再話にやや先行して、戦後、ハーンの『怪談』そのものが童話化していたことを指摘するのである。
 確かに現在、複数の児童向け新書判文庫レーベルにハーンの『怪談』が収録されている。ただ、今の子供たちは昭和戦後に古典的な名作として推奨されていた作品には余り接していないらしいので、どのくらい読まれているかは分からない。私らの子供時代には大抵「まんが日本昔ばなし」を見ていたから「雪女」と「耳なし芳一」には接したはずである。
 そこで思い出した、江口寿史(1956.3.29生)が昭和58年(1983)に発表した漫画がある。
・ACTION COMICS『寿五郎ショウ』1986年7月9日第1刷発行・定価700円・双葉社・200頁・A5判並製本

 3頁(頁付なし)アート紙のカラー口絵の裏、4頁(頁付なし)のやや上寄りに灰色の教科書体横組み、中央揃えで以下のような献辞がある。

ウルトラQ、怪獣映画、加山雄三、オックス、/ザ・ヒットパレード少年マガジンゲバゲバ90分サイモンとガーファンクル吉田拓郎井上陽水、時間ですよ/傷だらけの天使筒井康隆山上たつひこ鴨川つばめ田村信陸奥A子/岩館真理子クラフトワークイエローマジックオーケストラ、ディーボ/テクノミュージック、クレイジーキャッツ、モンティパイソン/MCシスター、ホラー映画と/昭和30年代生まれのすべての人々に捧ぐ………
~~~~~~~~んちゃっておじさんと/口裂け女にもね。


 江口氏が影響を受け自らの血肉となったものを列挙したのであろうが、同時に「昭和30年代生まれ」が慣れ親しんだものでもあるのだろう。江口氏は昭和31年(昭和30年度)生*1、ここに挙がっているもので15歳(16学年)下の私も記憶しているのは、兄が買って読んでいた山上たつひこがきデカ』と鴨川つばめマカロニほうれん荘』、父が聞いていたサイモンとガーファンクル、低学年の間でも流行った口裂け女くらいである。
 さて、この本の中に、23~44頁「意味なし芳一」と云う、細かく、忠実に「耳なし芳一」をパロディにした作品が入っている。すなわち「昭和30年代生まれのすべての人々」にとって「耳なし芳一」は常識だったのである。200頁(頁付なし)「初出一覧」には、4行め「意味なし芳一     月刊フレッシュジャンプ1983年8月号」とある。
 しかしながら、69頁2行め~72頁13行め、1節め「小さな崇拝者」に、71頁5行め「儒教と欧化主義」を「その根本」とする「戦前の教育理念からして」、1行め「明治から敗戦にいたるまでの出版会や教育界」では、3~4行め「ハーンの「怪談」は、児童向けの出版と国語教育の/現場では、はっきり忌避されていたと思われる」ので、漫画によるパロディが成立するほど、子供たちに広まったのは、戦後のことらしいのである。(以下続稿)

*1:遠田氏が早生まれでなければ同学年。