瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(090)

・大島廣志の「雪女」(2)
 8月9日付(013)に、大島氏が昭和62年(1987)4月に世間話研究会の例会で「小泉八雲の『雪おんな』と雪女伝承」と題する発表をしていることに触れた。その内容は、その12年後に発表した論文「「雪おんな」伝承論」に反映されていると思われるが、例会の発表内容が分からないから根幹は同じなのか、それとも相違しているのかは分からない。
 ただ、昨日見た、例会発表と同じ年の秋に刊行されたみずうみ書房版『昔話・伝説小事典』に、雪女に触れるところがあって、当時の大島氏の考えを窺うことが出来そうである。――《事項索引》には293頁左23行め「雪女」に「52, 261」とあるが52頁右、戸塚ひろみ「噂と体験談(うわさとたいけんだん)」は26~29行め、例として「‥‥。ただし,体験者がいくら雪女/に会ったとか,天狗を見たなど珍奇な/体験談を披露してもそれだけでは噂と/はならない。つまり,‥‥」等と持ち出されているだけである。《話名・書名索引》305頁左31行め「雪おんな」には「95, 104, 261」とある。283頁「索引」扉の凡例2項めには「*ページ数が太字のものは独立項目として収録されて/ おり、斜体のものは「話名」としてとりあげられた/ ものを示す。」とある。
 まづ95頁左、大島広志「近代文学と世間話(きんだいぶんがくとせけんばなし)」項の前半を見て置こう。3~16行め、

巷間で語られる世間話は,しばしば近/代文学の素材となっている。なかでも/著名なのは小泉八雲(ラフカディオ・/ハーン)の「雪おんな」(『怪談』所収,/1904)であろう。八雲は調布の農夫が土/地に伝わる伝説として語ってくれたと/記しているが,その農夫というのは世/間師といえるような人物であった。つ/まり,雪女の怪異を語る世間話→調布/の農夫→小泉八雲と伝わり,名作「雪/おんな」に結実したのである。その他/「むじな」「鳥取の蒲団の話」など,/多くの世間話を八雲は自身の作品の中/に取り入れている。


 後半では夏目漱石夢十夜」と宮澤賢治「ざしき童子のはなし」を取り上げている。
 104頁右、矢口裕康「小泉八雲(こいずみやくも,LafcadioHearn)*」項には、9~18行め、

‥‥。『怪談』/のうちでも特に著名な「雪おんな」は,/西多摩郡調布村の農民から聞いた話が/もとになっている。<このはなしは,/日本の書物にすでに書かれてあるかど/うかは知らないが,話の中にでてくる/あの異常な信仰は,きっと日本の各地/に,色々の変った珍しい形で,常に存/在していたであろう>という予感の上/での作品である。

とある。どのような「予感」なのであろうか。この項は大島氏の執筆ではないが、念のため注意して置こう。ちなみに項目名に付されている「*」については、4頁「《目次》」の凡例に「* 印は子供の文化関連項目/◇ 印は解説に含まれる項目」とある。そして後半19~34行め、

 八雲は,6歳で父母の離婚にあい父/方の叔母にひきとられている。また/<3歳4ヵ月ヘルンはじめて父を見/る>と年譜にあるように軍医である父/チャールズ・ヘルンとの愛は薄かった。/一方ギリシャ人の母ローザに対する愛/は格段に深かった。その八雲が日本人/としての体感をもちつつ作品化したの/が「雪おんな」といえる。八雲の作品/は,単なる怪奇趣味ではなく,深い人/間性への洞察にうらうちされていて,/読後に強い印象を残す。八雲はまた,/昔話を近代小説となさしめた一人とい/える。先にあげた「雪おんな」や「耳/なし芳一」は子供たちにも読みつがれ/ている。

と、本項目の殆どが「雪女」に費やされているのである。
 そして261頁右、大島広志「雪女(ゆきおんな)」項の後半、20~37行め、

伝説の雪女は,新潟・富山・長野に同/型で伝えられている。吹雪の日,雪女/が山小屋の猟師親子の前にあらわれ,親/の方を殺す。雪女はこのことをだれにも/話すな,話したら命を取ると子の猟師/にいう。数日経ったある日,女が猟師/の家を訪れ宿を乞う。二人は夫婦にな/り子供が生まれる。あるとき,猟師/は妻にうっかり吹雪の日の出来事を/話してしまう。妻はあのときの女は自/分だといい,命を取るところだが子供/のために助けてやるといって姿を消す。/小泉八雲の「雪おんな」も同タイプ。/発端は山の禁を破ったがために山の精/霊に殺されるという山人の怪異譚に多/い。つまり,雪女の伝説は,山人の怪/異譚と雪女の怪異譚の複合により生ま/れた話なのである。    (大島広志)


 この「山人の怪異譚」とはすなわち、8月4日付(008)に引いた、例会発表及び『昔話・伝説小事典』の10年前の日本の伝説24『富山の伝説』の「十六人谷」であろう。大島氏はこのとき既に、8月9日付(013)に見たように「伝説の雪女」=「雪女の伝説」との類似を指摘していたのである。(以下続稿)

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 昨日見た、雑誌の特集であった②「やまかわうみ」Vol. 7(2013春)が、今月下旬に書籍として刊行される。
③野村純一・佐藤凉子・大島廣志・常光徹 編『昔話・伝説を知る事典』

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 来年にでも①『昔話・伝説小事典』と比較して見たい。――大島氏は「雪女」項からも分かるように、ハーン「雪女」と同タイプの「伝説の雪女」は日本で「生まれた話」と見ていた。そこのところを書き換えていないかどうか、是非とも確かめたいところである。