瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

稲川淳二『稲川怪談』(8)

 念のために断って置くと、私は『新耳袋』は殆ど読んでいない。何冊か借りて見たのだが、昨日の最後の方に述べたように、私はどうしても背景、すなわち、時代や場所、人間関係などの説明に具体性がなくて、体験そのものだけが書かれたものにはリアリティを感じないのである。だから毎度拾い読みにとどまり、別の巻を借りて続けて読もうと云う気にならないのであった。その意味では、稲川氏の怪談の方が遥かに読み易い。従って、中山氏と木原氏のそれ以外の著作にはいよいよ手を伸ばしていない。だから両氏がどのような人物で、『新耳袋』以外にどのような活動をしているのか、殆ど知らない。流石に稲川氏は、何となく知っている。やはり、世間一般には、稲川氏の主張の方が通り易いだろう、間違いなく。――私が昭和59年(1984)に怪談の聞書を始めた切っ掛けの一つとして、新制中学発足の年に創立した母校に伝わる、普通に考えれば嘘としか思えない「七不思議」を、半ば信じて真剣に語っている級友たちの態度に興味を覚えたからである。どうしてこのような話が発生してどのように展開したのか、そして、こんな話のどこに真実味を感じているのか、に心惹かれたのである。
 12月27日付(7)に「別冊・怪談ラヂオ」が聞けなくなっているようだ、と書いたけれども、今でも「ラジオ関西オンラインストア」で購入出来るようだ。但し1回220円(税込)である。全部聞くと私の月収の数%になってしまう。それに、もうそろそろ切り上げようと思っているので深入りするのは避ける。一端は、2018年7月4日配信のネットラジオ「ザ・ノイジーズ第1109回「本日のお題:木原浩勝氏と四方山話をしよう!」によって窺うことが出来る。全てをゆっくり聞いた訳ではないが、木原氏は、事務所に保管している当時の資料を次々持ち出して語っている。――これはいよいよ、私なぞが「別冊・怪談ラヂオ」を購入して聞いて確認するよりも、木原氏が保管している資料に基づいて、きちんと書き残して置くべきことであろう。稲川氏の「遺言」が現実になった後にでも。

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 盗作がらみの Variation の場合、一応は大元だけを相手にして置けば良いのだろう。しかしそれにしては「中山市朗ブログ」や、これもやはり昨日取り上げた森本レオリオのブログ「似顔絵プロ(テレビ番組のイラストレーター)」にもあるように、稲川氏の存在は大きい。一応は注意して置かざるを得ない。出来れば全ての Variation を集めて整理したいところなのだけれども、それは『新耳袋』の読者でない私のすべきことではないだろう。
 そこで差当り、初期のリイド文庫『稲川淳二のすご~く恐い話』と、決定版を謳っている講談社版『稲川怪談』を確認して置こうと思っているのである。
 ところで、中山氏は稲川氏には作家が付いていて、ライブを文章化していると云うのだが、それにしては確認が甘いように思う。
 ①『昭和・平成傑作選』を読んでいて、あれっと思ったのは「第三章 怖い場所」の【9】「犬鳴峠」である。稲川氏がここを訪れることになった理由と、私の疑問に思った箇所がある冒頭の段落を抜いて置こう。142頁2~6行め、

 私ね、九州で番組を持っていたんですよ。その取材で犬鳴峠*1に行こう、ってことになったんです。福/岡から一時間半ぐらいかなあ、今は使われていないんですが、昔からの道路があって、それは強烈な角度/で山の中に突っ込んで行くような道なんですよね。地元では結構有名な所ですよね。そこで以前、ドラム/缶の中に生きたまま人間を入れて焼き殺しちゃった、という事件があったんですよ。陰惨*2な事件ですけど/ね。


 この「番組」は、例えば Wikipedia稲川淳二」項を見ても、分からない。146頁11行め「‥‥。取材は中止ですよ。‥‥」とあるから放送はされていないはずで、中止される前に撮影されたVTRが残っているかどうか。
 その「出典・初出」である稲川淳二のすご~く恐い話 PARTⅡ』5~14頁「第1話『犬泣きトンネル』で恐怖を見た!」であるが、気になった箇所をメモしたのみである。冒頭、5頁はメモしていない。気になったのは6頁の1~6行め、

 気持ち悪いところなんですよ。
 なぜ、九州の人間に有名になっちゃったかっていうと、元々、そういう場所ではある/んですがね。
 実は、そこで以前にね、ドラム缶の中に生きたまま人間を入れて、焼き殺しちゃった/という、そういう事件があったんですよ。
 それだけでも、すごくもう陰惨なっていうかね、やな事件なんですけどね。

とあって、ここだけでも『稲川怪談』は冗長な語りを約めていることがよく分かる。それから「犬泣き峠」としていたのを「犬鳴峠」に訂正している。
 さて、私が気になったのは殺害方法である。犬鳴峠では、昭和63年(1988)12月7日に少年たちが20歳の工員を焼き殺すと云う事件が起こっているが、ドラム缶などは使っていないはずである。愛知県で起こった、ドラム缶に女性2人を入れて焼き殺した事件と混同しているのではないかと思ったのだが、この事件は平成12年(2000)4月4日に起こっていて、『稲川淳二のすご~く恐い話 PARTⅡ』よりも後である。――『稲川怪談』だけ見ていたらうっかり判断を間違うところであった。しかし、それならどこから「ドラム缶」が出て来たのだろう。先行する「ドラム缶」の事件があったのだろうか。いづれにしても誤りなのだから、『稲川怪談』では訂正するべきであったろう。(以下続稿)
2023年1月1日追記】犬鳴峠の事件の10日余り前から監禁が始まっていた(翌年3月末に発覚)綾瀬女子高校生コンクリート詰め殺人事件と、複数の不良少年による暴行、残虐な殺害と云う点が重なっているので、そこからドラム缶が混ざり込んでしまったのだろうか。元日に追記する内容ではないが。

*1:ルビ「いぬなきとうげ」。

*2:ルビ「いんさん」。