さて、ある人物の経歴、特に生年(月日)に関わる前半生を考証するためには、その家族の検討も不可欠となります。
竹中氏の場合、その父親が竹中英太郎(1906.12.18~1988.4.8)と云う、昭和初期の探偵小説の「幻の挿絵画家」として知られる(?)人物なので、そちらの方の資料も見る必要が生じます。
しかし私は、母が好きで夕方の再放送をよく見ていた「江戸川乱歩の美女シリーズ」や、横溝正史・松本清張・西村京太郎・山村美紗・内田康夫・森村誠一と云った人たちの映像作品で、推理小説(的なもの)には馴染みがない訳ではないのですが、どうも、余り活字で読もうと云う気にならないのです。ただでさえ色々なことに引っ掛かってしまう性格の故でしょうか。
従って、竹中英太郎のことは、本当に名前を知っているくらいでしかありませんでした。
そこで図書館 OAPC で検索して見ますと、竹中英太郎の伝記に関する本は、1988年に急逝して後、長男の竹中労がその死の前年、1990年に編集刊行した画集を兼ねた1冊、そして生誕100年の2006年に2冊の、合計3冊が出ていることが分かりました。
ただ、やはり「幻の」と冠されるだけのことはあって、3点とも都下の公立図書館にはそれほど所蔵されておりません。――私はずっと竹中英太郎のことを追い続けるつもりではないので、借りて済ませようと思っているのですが、なかなか手許に揃えられない。しかし、揃えて眺めてみると、それぞれに一長一短があって、なかなかややこしい関係にあることが分かりました。
その、ちょっと揉め事めいた部分には余り触れたくないような気持ちもあるのですが、そういう事柄にも遠慮しない立場を取るために調査・検討を主とした、こんなブログなんぞをやっている訳ですので、気分を害する人がいるかも知れませんが、取り上げることとしましょう。私としては飽くまでも本当のところを確かめたいだけだと云うことは、ここに強くお断りして。
まづは、竹中英太郎を直接知る人物の回想を多く収録した、竹中労編集の画集から見て置きましょう。色々と問題が指摘されているものの、竹中英太郎研究の基本文献と云うことになります。
・竹中労 編『百怪、我ガ腸ニ入ル―竹中英太郎作品譜―』一九九〇年八月三十一日 第一版第一刷発行・定価9709円・三一書房・173頁・B5判上製本*1
標題は9頁(頁付なし)中扉に拠る。書影は1月5日付(331)に貼付しました。ぼんやり女性らしい姿が見えますが、これは4~7頁「目次」に、4頁2行め「表紙 青のディートリッヒ」とあるように Marlene Dietrich(1901.12.27~1992.5.6)が竹中労の企画・招請で昭和49年(1974)12月下旬に来日公演を行った際に竹中英太郎が描いたもので、緑褐色で(と見えるのですが褪色で、金だったのかも知れません)標題・副題・版元名、そして黒で妊婦風のシルエットを刷った半透明のカバーを透かして、本体表紙に刷られているのが見えているのです。この絵は背表紙を経て裏表紙の左側にまで及んでおります。同じ絵は121頁にもやはりカラーで収録されていますが、その3倍くらいの大きさになっておりますので迫力が違います。カバー背表紙には縦組・緑褐色で標題と副題、下部に版元名が入っております。カバー裏表紙は下部にOCR-Bと明朝体で「ISBN4-380-90230-7 C0071 P10000E 定価10,000円( 本体9709円・税291円)」。カバー表紙折返しは下部に136~142頁「おきなわ幻花行」の136頁下「沖縄の舞姫b・原画(沖縄―祭り・うた・放浪芸)」とほぼ同じ構図の、カラーだったものをモノクロで印刷したらしき絵があり、カバー裏表紙折返し下部には太った坊主と大蛇のこちらは最初からモノクロだったと見える絵があります。『水滸伝』の花和尚魯智深でしょう。――2月9日付「赤いマント(345)」に見たように、竹中労は昭和56年(1981)、凡天太郎(1929.1.5~2008.6.30)*2に背中に花和尚魯智深の刺青を彫ってもらっていましたから、それを意識しての選択なのかも知れません。(以下続稿)
【追記】本書収録の絵のキャプションと、年譜の関連事項の誤りについては、HN「襟裳屋」のHP「『挿絵畫家 竹中英太郎』」の「百怪、我ガ腸ニ入ル」と「検証備忘録」に詳しいので、斯界に疎い私は手を出さないで置いて、専ら「寄稿された個人的な文章」の検討を、竹中労の誕生からルポ・ライターになる前までの記述を中心に行うこととします。この「『挿絵畫家 竹中英太郎』」TOPページの「題字カット「沖縄の舞姫 a」(部分)」が、本書のカバー表紙折返しにモノクロ印刷されていた女性像の、丁度白い両手を花と間違えた(?)蝶が寄って来るところを切り取ったものなのです。「沖縄の舞姫b」と構図が似ていると思ったのですがやはりこちらが「沖縄の舞姫 a」なのでした。何故「a」は本書にカラーで収録しなかったのでしょう。なお「『挿絵畫家 竹中英太郎』」は「最終更新 2012_1_11」となっていて、もう11年も更新されていません。