瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

日本の民話『紀伊の民話』(20)

 前回、7月18日付(19)に、紀州の天狗の話が、狼の話に比べて具体的なのは、早い時期に文章化していたからではないか、との見当を示して置きましたが、そのつもりで伊藤英治 編『松谷みよ子の本 別巻 松谷みよ子研究資料を眺めて行くと、昭和40年代に、幾つかそれらしい題の文章を発表していたことが分かりました。
・発生時代順 日本むかしむかし⑩『いまのむかし』
①【初版】童心社・160頁・A5判上製本
・昭和四十三年二月二十九日初版発行(定価 三八〇円)
・昭和四十三年二月二十九日初版発行・昭和四十九年二月 一 日三版発行(定価500円)
 私が手にしたのは三版で、初版はオークションサイトの写真を見たのみである。参考までに③『ふしぎなたから』⑨『おろか村』の書影を示して置く。

 初版の写真には函も写っており、表紙側はカバー表紙・本体表紙と同じ*1、裏表紙側は収録している話を10題挙げ「他24話」としているのがカバー裏表紙・本体裏表紙と異なる。その他、三版と比較しつつ細々見て行くと色々ありそうだが、今は奥付の下部、縦組み部分を比較するに止めよう。
 初版は縦線が9本、三版は7本である。1~2本めの間の標題は一致、初版は2~3本めにゴシック体下詰めで「定価」、3~4本めに「発 行 日」を示すが、三版は「定価」をなくして初版の3本めの縦罫をなくして「発 行 日」のみにしている。次の「編集委員  与田 凖一・川崎 大治・松谷 みよ子」は一致、「発  行」は2行め、初版「東京都新宿区四谷二の九」が三版「東京都新宿区三栄町二二」と住所が変わっている。童心社は現在、東京都文京区千石に移転しているが、その時期は2016年1月12日付「赤いマント(146)」に『怪談レストラン』シリーズの奥付に拠ってぼんやりした見当を示したことがあったが、本社ビルを新築して2006年7月に移転したことを今更ながら知った。その頃、私はその近所に短期間勤めていた。2023年2月22日付「赤いマント(357)」に注意した文京宮下公園もごく近い。――初版は続いて「活版印刷|平版印刷|製  本|」を示すが三版は「製  本|」がない。活版印刷は初版「中教印刷株式会社」であったが三版「次賀印刷所」、平版印刷は「幸英社印刷有限会社」は一致。製本は「有限会社 松 栄 堂 製 本 所」と初版のみ。
 なお、標題について、カバー表紙・本体表紙に「<新しい日本>」1頁(頁付なし)扉には「<新しい日本>」奥付裏の広告の下段「〈発 生時代順 日本むかしむかし 全10巻」にも「⑩いまのむかし <新しい日本> 」と時期を示す副題が入っているが、奥付に従った。
②【改装版】童心社・160頁・A5判上製本
・昭和四十三年二月二十九日 初版発行・改装版 昭和五十四年四月二十五日 二版発行*2
 A5判としたが縦が 1cm 程長くなっている。やはり図書館蔵書なのでカバーや函は外されているが、本体表紙の大半を占める絵は①に同じ。但し全体のレイアウトは全体に変更されている。以前は細かくメモしたものだが、最近草臥れるので略す。定価はカバーもしくは函に記載してあったらしく、本体では分からない。
 本体は殆ど①のままである。しかし一部配置を変えているので、頁に混乱を生じている。すなわち、――①は見返し(遊紙)の次が1頁(頁付なし)扉、2~3頁、与田凖一「は じ め に」、4~6頁(頁付なし)「も く じ」、7~8頁(頁付なし)はアート紙の口絵*3で7頁はカラー、8頁は白紙。そして9頁(頁付なし)中扉、10~160頁まで本文、頁付は下部小口寄りに算用数字で入っていて、挿絵のみの頁にも頁付は入っている。これを②は見返し(遊紙)の次に、カラー口絵を移している。しかし頁付は変えていない。よって2~3頁から10頁まで、頁付のない頁が4頁しかないと云う、奇妙なことになっている。
 奥付を①三版と比較するに、上部左に図書館の整理カード用のデータが横組みで纏めてあるが、①三版は「21cm」だったのが「22cm」になっている。版元の住所は同じでその次、①三版は①初版と同じく「電 話(三五一)〇四八六」だったのが「電 話(三五七)四一八一」になっている。活版印刷と平版印刷は同じだがもう1行「製  本  株 式 会 社 難 波 製 本」と少々据わりの悪い追加がある。裏の広告は上段には与 田 凖 一他/遠藤てるよ画「〈母と子の民話〉/むかしむかし」と川崎大治の本12点の合計13点、そして①初版では上段にあった「こ ど も の 古 典 全10巻」が下段に入っている。内容は標題の下「菊判 美本函入 さし絵多数 定価各650円」の1行が省かれている他は同じだが組み直されている。
 それでは細目を示して置こう。仮に番号を打って【 】に示した。執筆者は各話の最後に括弧で括って示してあるのを添えて置いた。
【1】一まい上手*4(堀尾青史)10~16頁
【2】血を しぼりとる*5(堀尾青史)17~21頁
【3】村いちばんの 男*6(来栖良夫)22~26頁
【4】千円さつ*7(堀尾青史)27~31頁
【5】神さまか 人か*8(堀尾青史)32~39頁
解説 維新の民話*9(松本新八郎)40~41頁
【6】世をしのぶ名*10(川崎大治)42~45頁
【7】チョンマゲ・ザンギリ合戦*11(堀尾青史)46~51頁
【8】足のいたい くつ*12(来栖良夫)52~55頁
【9】くつに かまれた(堀尾青史)56~58頁
【10】ペストの おいしゃ(堀尾青史)59~63頁
【11】自動車の はじまり*13(来栖良夫)64~66頁
【12】はじめてじゃない(川崎大治)67~69頁
解説 文明開化(松本新八郎)70~71頁
【13】世の中 よござんしょ*14(来栖良夫)72~75頁
【14】ふろしきづつみ(来栖良夫)76~78頁
【15】たこが とれる(来栖良夫)79~80頁
【16】おしゃべり(来栖良夫)81~83頁
【17】わすれもの(来栖良夫)84~86頁
【18】下りがし*15松谷みよ子)87~91頁
【19】すどうふ(川崎大治)92~99頁
解説 落語の新聞*16(松本新八郎)100~101頁
【20】てんぐの わらい(松谷みよ子)102~104頁
【21】こうもりがさの てんぐさん(松谷みよ子)105~107頁
【22】じゅつ使いの 徳次郎*17松谷みよ子)108~112頁
【23】とんちの 繁次郎*18松谷みよ子)113~121頁
【24】汽車と たぬき*19(来栖良夫)122~125頁
【25】ポンスカポンと カンカラコン(川崎大治)126~130頁
【26】おにの 人形*20松谷みよ子)131~135頁
解説 科学的な空想*21(松本新八郎)136~137頁
【27】佐渡が島*22(川崎大治)138頁
【28】すみません(川崎大治)139頁
【29】たこの 手*23(川崎大治)140~143頁
【30】あきんどの ちえ(川崎大治)144~146頁
【31】オーライ(川崎大治)147頁
【32】のりだめ(川崎大治)148~149頁
【33】コンダクター(川崎大治)150~151頁
【34】上田の からす*24松谷みよ子)152頁
解説 現代の小咄*25(松本新八郎)154~155頁
【歴史のはなし】文明開化と自由民権――「いまのむかし」のかたられたころ――(来栖 良夫*26)156~160頁
 松谷氏は34話中【18】【20】【21】【22】【23】【26】【34】の7話を担当、【18】【22】【23】【26】の4話は日本の民話10『秋田の民話』からの流用、と云うべきもの、そして【20】と【21】が昭和34年(1959)の紀州採訪で聞いた天狗の話なのである。
 但し、これが最初と云う訳でもないらしい。次回は、ほぼ同時だけれどもやや先行する、もう1つの作品の方を見て置くこととしよう。(以下続稿)
8月15日追記】「も く じ」の最後、6頁12~14行め「この巻の執筆者  川崎大治 来栖良夫 堀尾青史 松谷みよ子/   解 説  松本新八郎   歴史のはなし   来栖良夫/表紙・口絵・さし絵  岡野 和   装本  辻村益朗」とある。7頁、カラー口絵の右下隅に朱の白文方印「かず」があって岡野和(1939生)の名の読みが分かる。

*1:【19】「すどうふ」を描いたもの。

*2:改装版の初版の発行日が示されていないが、昭和51年(1976)10月らしい。【8月27日追記】近所の図書館の除籍本配布の棚にこのシリーズの改装版が6冊並んでいたので本書のみもらって来た。以前なら全部持ち帰ったであろうが、今はそんなことをしている余裕がない。それはともかく、本書の奥付を見るに「昭和四十三年二月二十九日初版発行・改 装 版 昭和五十一年十月十五日 一刷発行」でカバー裏表紙には「定価800円」とある。改装版二版をもう一度借りて比較して見ることとしよう。

*3:【14】「ふろしきづつみ」を描いたもの。

*4:ルビ「うわ て 」。

*5:ルビ「 ち 」。

*6:ルビ「むら・おとこ」。

*7:ルビ「せんえん」。

*8:ルビ「かみ・ひと」。

*9:ルビ「 い しん」。

*10:ルビ「 よ ・ な 」。

*11:ルビ「がっせん」。

*12:ルビ「あし」。

*13:ルビ「 じ どうしゃ」。

*14:ルビ「 よ ・なか」。

*15:ルビ「くだ」。

*16:ルビ「らく ご 」。

*17:ルビ「つか・とく じ ろう」。

*18:ルビ「しげ じ ろう」。

*19:ルビ「 き しゃ」。

*20:ルビ「にんぎょう」。

*21:ルビ「 か が く て き・くうそう」。

*22:ルビ「 さ ど ・しま」。

*23:ルビ「 て 」。

*24:ルビ「うえ だ 」。

*25:ルビ「げんだい・ばなし」。

*26:これは括弧に入れずに添えてある。