瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(64)

稲田浩二『日本昔話通観●第28巻昔話タイプ・インデックス』(3)
 昨日の続きで、橘正典『雪女の悲しみ』の示唆により「日本昔話タイプ・インデックス」より雪女関連の話を見て行くこととする。
 345頁上段5行め「233 しがま女房」と、上段16行め「234 雪女房」は連続している。まづ前者を見て置こう。

 ①若者がしがまを見て、こんな姿のよい色白の嫁がほ/しい、とひとりごとを言ったあと、ある夜訪れた見知ら/ぬ娘と結婚する。〔T 111,Z 139.4〕
 ②若者がいやがる嫁をむりに風呂に入れると、嫁は櫛/とかんざしを残して消え失せる。〔T 111.0.1,cf.J 1900〕
 <資料篇> *1―○253 2―56 3―355 6―164 10―154 11―●139/ 12―164 13―246 15―60 18―200 19―193 20―232 23―244/ 27―233
 <注> しがま(つらら)の精、または雪の精との結婚。た/ だし、娘として同居するだけのことも多い。


 「*」は231頁「凡 例」13~16行め「6 〈資料篇〉の項」に関する説明に、15~16行め「‥‥。また参照として、アイヌ叙事文芸/(『日本昔話通観』1に収載)を*で掲げた。」とある。
 この辺りで『日本昔話通観』の資料篇の構成を見て置こう。四国にはないが中国から九州まで分布していることが分かる。
 第1巻 北海道(アイヌ民族)、第2巻 青森、第3巻 岩手、第4巻 宮城、第5巻 秋田、第6巻 山形、第7巻 福島、第8巻 栃木・群馬、第9巻 茨城・埼玉・千葉・東京・神奈川、第10巻 新潟、第11巻 富山・石川・福井、第12巻 山梨・長野、第13巻 岐阜・静岡・愛知、第14巻 京都、第15巻、三重・滋賀・大阪・奈良・和歌山、第16巻 兵庫、第17巻 鳥取、第18巻 島根、第19巻 岡山、第20巻 広島・山口、第21巻 徳島・香川、第22巻 愛媛・高知、第23巻 福岡・佐賀・大分、第24巻 長崎・熊本・宮崎、第25巻 鹿児島、第26巻 沖縄、第27巻 補遺
 そして第28巻 昔話タイプ・インデックス、第29巻 総合索引、さらに研究篇として2冊刊行されて全31巻となっている。
 さて、<注>にあるような、氷柱ではない、雪の精らしき話は7月22日付(03)に見たように、岩波文庫関敬吾 編『日本の昔ばなし』に収録されていた。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 どうも、私は昭和58年(1983)頃に老松町の図書館で借りた關敬吾『日本昔話集成』全6巻で話型を頭に叩き込んだので、どうも『日本昔話通観』に慣れない。いや、当時『日本昔話大成』全12巻も刊行済みだったが、私の通っていた図書館にはなかった。いや、中学時代には所蔵している館にもたまに通っていた記憶があるが、冊数が多くなっているので、書架から引っ張り出して見て、借りた記憶が余りない。番号は同じだし。
 その後、高校時代は同級生たちから怪談を聞くようなことはあっても、普段は「山岳部の思ひ出」等に述べたように部活動、部活が開店休業状態になってからは何となく歩き回っていたので、昔話の文献に触れることもなく過ごしていた。
 そして浪人時代を過ごした(?)渋谷区立中央図書館*1には『日本昔話集成』があったので、復習することになったのだが、とにかく何がそんなに面白かったのか、夢中になって読んでいた時期――身近に伝承者はいないかと祖父母などに当ってみたのだが,本に載っている話しか知らぬと云うことで、昭和61年(1986)から翌年に掛けて、部の同輩・後輩や同級生、小学校の教員をしている従兄などから専ら怪談を聞き集めたのだが、結局それも続かなかった。何故続かなかったかはいづれ述べることがあろう。一言で言えば私は民話読物や怪談読物を執筆している人たちのように自分の聞いた話を扱うことが出来なかったのである。繊細過ぎて(笑)、多分。
 それはともかく、『日本昔話通観』は「日本昔話タイプ・インデックス」や「総合索引」の利用を考えると揃いで持っていないと何かと不便で、図書館で借りるには貸出冊数の制限がなくても重くて一度に運べない。――たまに大学図書館に行った折にでも必要なところだけ検索するような按配で、だから私の昔話の知識は『日本昔話集成』から、アップデートされないままなのである。(以下続稿)

*1:ここも老松町の図書館と同じく今はない。当時私が手にした本は、あると思うけれども。

白馬岳の雪女(63)

稲田浩二『日本昔話通観●第28巻昔話タイプ・インデックス』(2)
 橘正典『雪女の悲しみ』の確認のために借りたのだけれども、次の作業にも絡むし、再々借り出す訳にも行かぬので、差当り関係しそうな箇所を抜いて置くこととしよう。
 前回引いた「315 雪女」を読んで、これは独立した話と云うよりも<注>⑵に参照を指示されていた「産女」に「力」を「授け」られる話の Variation だろうと思った。タイプ・インデックスなんだから纏めてしまえば良かったのではないか、と思う。しかし<資料篇>に挙がる「巻―番号」のうち、番号の前に「○」が付いているのは231頁「凡 例」13~16行め「6 〈資料篇〉の項」に関する説明に、14~15行め「‥‥、○印の番号は、当該番/号の資料がそのタイプ・サブタイプの参考資料であることを示している。‥‥」とあるから、<注>⑴に挙がる京都「14―○102」と秋田「5―○213」の「人間に危害を加える」話は飽くまでも「参考資料」すなわち例外で、他の5巻に収録されている「雪女」譚が、この①②③のモチーフ構成の全て、或いはその一部、例えば②③を有するもの、と云うことになるのであろう。一定の広がりを持っているのであれば、確かにこれはこれとして1話型として立てるべきなのかも知れない。
 ちなみに「一 むかし語り」の354~362頁「Ⅹ 霊魂の働き」に、「254 夢と蜂」から「274B 継子の訴え―継子と笛型」まで22のタイプが並ぶ中に、356頁下段9行め「260 産女の力授け*1」とあって、10~17行め、

 ①男が女に赤子を預けられ、抱いていると次第に重く/なるが抱きつづける。〔D 1687,E 425.1.4〕
 ②男は女の幽霊から、お礼に大力を授けられる。/〔E 341,F 610.4,N 817,Q 402〕*2
 《参照タイプ》AT 470
 <資料篇> 2―58○334 5―66 262 6―245○396 9―○198 24―177/ 25―○243 27―260
 <注> 女は山の神・魚女房などともする。

とある。この話はもっと多いかと思ったのだが、特定の家の先祖にまつわる伝説すなわち書承で、口承の昔話としては左程ではないのだろうか。いや、同じような話は類話として同じ番号に纏められているから、実際はもっと多いはずである。
 しかし、やはり赤子を抱かせるところからしても産女の方が本筋で、赤子を抱かせる雪女の方はここからの派生のように思われるのだけれども。
 それはともかく、ハーンの「雪女」と同じタイプの話は「一 むかし語り」の323頁上段9行め~353頁「Ⅸ 婚姻」に載っている。まづ異類婚姻譚で「205A 蛇婿入り―針糸型」からしばらく異類の婿の話が「212A 犬婿入り―仇討ち型」まで、そして「213 観音女房」から「234 雪女房」まで「217B 絵姿女房―物売り型」を挟んでいるが大体異類の嫁、そして「235A 歌婿入り―ごもく型」から身分も財産もない男が智恵によって長者の婿になる話が並んで、最後だけが嫁入りの「253 難題嫁」である。
 それでは「315 雪女」の<注>⑴に「雪女房」と並べて「善意のもの」として挙げてある「しがま女房」から見て置こう。(以下続稿)

*1:ルビ「うぶめ 」。

*2:どうでも良いことだが、この行の右を上に横転している算用数字、「8」が引っ繰り返っている。