瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

祖母の蔵書(178)井伏鱒二

 祖母は戦争未亡人となって夫の郷里に疎開したもののやはり上手く行かずに親兄姉を頼って上京して、やがて父の元部下の口利きでGHQの地図局に職を得て久しく勤めることになるのだが、その前に三兄の紹介で「家庭文化」と云う雑誌の編集部に勤めて「アメリカ人のお宅訪問」と云う記事を書いた、と云う回想を聞いたことがある。

 この「家庭文化」と云う雑誌は国立国会図書館にも所蔵されていない。検閲用に蒐集した占領下の出版物を保管しているプランゲ文庫(メリーランド大学図書館ホーンベイク図書館)蔵本のマイクロフィルム国立国会図書館の憲政資料室で閲覧出来ると云うので、祖母の話を聞いてしばらくして国立国会図書館に出掛けた折に、憲政資料室に行って見たのだが、予め申し込んでおかないと閲覧出来ないとのことで、予約を取るかと言われたが私は予定通りに行動するのが苦手(!)なので、またの機会を考えることにして、結局未だに見ていない。
 プランゲ文庫には第1巻第1号(1945年12月)から第4巻第2号(1948年3月)までが所蔵されている(第2巻第1号は欠)。
 Amazon に出品されている第2巻第6号(1946年11月)の目次には「パレスハイツ」とあるようだが、これは千代田区隼町にあった米軍住宅で、或いは祖母が書いた記事かも知れない。他には第1巻第1号が長野県立長野図書館に所蔵、また日本の古本屋に出品されており、第3巻第1号(1947年1月)が別の古書店から日本の古本屋に出品されている。――この記事に注目して研究論文でも書いてくれる篤志家がいれば良いのだが、まだそんな人は現れないらしいので、いづれ折を見て国立国会図書館にて一通り眺めることとしたい。
 それはともかく、――その頃のことだろう、やはり戦争未亡人になった跡見の同級生が生活のために阿佐ヶ谷で居酒屋を始め、祖母も其処に手伝いに行っていたのだが、跡見出のお嬢様が飲み屋をやっていると云うので当時話題になったらしい。阿佐ヶ谷界隈に住んでいた文化人たちも面白がって良く来ていて、当然井伏鱒二(1898.2.15~1993.7.10)もいたのである。しかし私は阿佐ヶ谷会の面々に特に興味があった訳ではないので根掘り葉掘り聞くようなこともなかったから、祖母が特に語ってくれたのは、――角川源義(1917.10.9~1975.10.27)が祖母たちを酌婦と軽んずるような発言をするので、それを少し窘めるようなことを祖母が言ったところ、角川氏からじゃあこの漢字が読めるか、と「薔薇」の読みを出題されたのだが、祖母は100歳を越して認知症を発症してからも施設が脳のトレーニングに出した漢字テストで「青梗菜」以外全問正解、他の入所者の追随を許さない断トツの好成績だったくらいなのでもちろん直ちに読んで差し上げたところ、「エライもんだ」みたいに感心したことがあった、と云う出来事くらいである。
 そんな訳で、井伏氏の小説は、どうも好みではなかったらしく見当らなかったのだが、井伏氏の伝記や交遊に関する本は当時のことを思い出してか、若干所蔵していたのである。或いは自分たちのことが書いてあるかも知れないと思ったのかも知れぬ。しかし、井伏氏始め界隈の文化人が自分たちのことを書いていたのを見付けた、と云う話は聞かなかった。
新潮文庫3799/い-4-8荻窪風土記昭和六十二年 四 月十五日 印  刷・昭和六十二年 四 月二十日 発  行・定価320円・新潮社・267頁※ 帯あり「今月の新刊」
※ 二つ折チラシ「新潮/カセットブック」'87.4「【第4回】/4月22日/3点発売!」
 この本は客間クローゼット左側1段めにあった。
・福武文庫 い0302『文士の風貌』1993年6月10日 第1刷印刷・1993年6月15日 第1刷発行・定価631円・福武書店・301頁※ 帯(幅 5.0cm)あり、書影に同じ
 301頁の裏、奥付の前の頁、中央下寄せで小さく「単行本は一九九一年四月福武書店より刊行された。」とある。本書はその文庫版で生前の最後に刊行された著書になるのだと思う。296~301頁、松本武夫「解 説」の冒頭、296頁3行め「 井伏鱒二氏は今年(平成五年)二月、九十五歳になられた。」とあって「平」と「歳」は正字で現代仮名遣いである。但し全て正字が用いられている訳ではない。本文は正字歴史的仮名遣いである。新稿はなく、296頁7~8行め「 本書は、‥‥、月報文章や追悼文章等を集/成し編纂したものである。」
 寝間の本棚にあった。近隣の市の図書館にあるし、若い古本屋が採ってくれたので近々持って行くつもりである。ただ、図書館の蔵書では帯は保存されていないと思うので、その点のみメモして置こう。印刷は書影に示した白緑色で、背表紙側は「福 武 文 庫」のロゴと最下部に小さく★。裏表紙側は表紙側の続きで「彌・久保田万太郎武田麟太郎田中英光亀井勝一郎・中/村地平・瀧井孝作木山捷平上林暁三好達治・青柳瑞穂・/火野葦平中村光夫海音寺潮五郎・木下夕爾・藤原審爾・大/宅壮一・開高健・有島生馬・小杉天外徳冨蘆花広津和郎・広/津柳浪・久米正雄東海散士正宗白鳥巌谷小波谷崎精二/…」最後の1行分は空白。裏表紙側折返しの右上に明朝体縦組みで小さく「文士の風貌」とある。表紙側折返しには文字なし。
・文春文庫 か 18 1 川島勝『井伏鱒二 サヨナラダケガ人生1997年8月10日 第1刷・定価467円・文藝春秋・254頁※ 帯あり「今月の新刊」
 この本は寝間にあったと思う。(以下続稿)

祖母の蔵書(177)随筆

吉田健一
 寝間の本棚より。
幾野宏 訳『まろやかな日本』昭和五十三年七月五日印刷・昭和五十三年七月十日発行・定 価 一四〇〇円・新潮社・221頁・四六判上製本

※ 帯あり、書影に同じ。
 昨年の7月31日にここまで書いて、そのままになっていた。――女性のエッセイは2023年7月1日付(091)に「女流随筆」として、現在までに6人の7冊を纏めているが、男性の方は司馬遼太郎陳舜臣等、作家別に纏めている中に随筆も入ってしまうので、一向に増えなかったのである。
池部良
新潮文庫6037/い-45-3続続 そよ風ときにはつむじ風』平成 十 年 一 月 一 日 発  行・定価514円・新潮社・355頁※ 帯あり「新潮文庫の新刊」表紙側右上「YONDACLUB発足!」にとある。その左、「の新」の上「庫」と「刊」の上にも少し掛かって「詳しくは本の中のチラシをご覧下さい。」とある。これは2022年8月6日付(019)に見た新潮文庫6079『剣客商売 包丁ごよみ』に掛かっていた「Yonda?/CLUB/発足!」とある帯に3ヶ月先行する。『剣客商売 包丁ごよみ』には「中のチラシ」が挟まっていなかったが、本書には保存されていた。
※ 巻四つ折チラシ「新潮文庫/今月の新刊」'98.1、表面はパンダの写真。
※ 観音折チラシ、文字は全て茶色の横組みで、表とみられる面にはパンダの顔のイラストと「本の好きなかたに、いいお知らせがあります。」とあって、1つ開くと「「Yonda? CLUB」はじめました。」として発足の趣旨が戯文調で綴られ、さらに開くと内側4面分に「これが「Yonda? CLUB」の素敵な商品です。本を読むたのしみがまた一つ増えそうですね。」として希望商品7種がカラー写真で紹介されている。裏面には1項め「◎応募方法」2項め「◎対象商品」3項め「◎応募の宛先」4項め「◎応募期間・当選発表」5項め「◎ご注意」6項め「◎お問い合せ先」と、細かく説明されている。
 この「Yonda? CLUB 発足」時のチラシは画像検索してもヒットしない。そこでもう少々詳しくメモして置こうかとも思ったのだが、流石に発足時のチラシだから保管している人も多いであろう。そこでここでは4項めのみ細かく見て置こう。ここのみ茶色の横線6本で仕切って5行、2~5行めは左端に「第1期」から「第4期」とあって、1字分空けて1~5行め「 1998年度の応募期間|1998年1月1日~3月31日|1998年4月1日~6月30日|1998年7月1日~9月30日|1998年10月1日~12月28日|」5行めで2字分空けて「   締切り日| 3月31日到着分| 6月30日到着分| 9月30日到着分|12月28日到着分|」右側を揃える。更に5行めで4字分空けて右端に「  賞品発送予定日|   4月下旬 予定 |   7月下旬 予定 |  10月下旬 予定 |99年1月下旬 予定 |」とあって更に罫線なしで2行「1~4期の応募締切り後、厳正な抽選を行います。当選者の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。」もちろんインターネットの応募などないから全て1項め2行め「専用応募ハガキまたは官製ハガキ」に拠る応募である。
 他に何人か追加する予定である。(以下続稿)
薄田泣菫2024年3月22日追加
 寝間の本棚より。これは若い古本屋に採ってもらった。
岩波文庫31-031-2『茶話』1998年7月16日 第1刷発行・1998年9月25日 第3刷発行・定価560円・岩波書店・284頁※ 栞あり「岩波哲学・思想事典」反対面「岩波=ケンブリッジ世界人名辞典
 カバー表紙折返し「岩波文庫解説総目録1927〜1996」の広告、カバー裏表紙折返し「図書」の広告。
【宮城道雄】2024年4月4日追加*1
・『水の変態』昭和31年8月1日 第1刷発行・定価 280円・宝文館・241頁・四六判上製本 書影は函。祖母の蔵書は本体のみで函はなかった。
 本書も国立国会図書館デジタルコレクションの送信サービスにて閲覧可能なので思い切って処分することにした。
 そこで、国会図書館蔵本では見えない箇所についてメモして置く。まづ表紙の右上、ラベルが貼ってある箇所だが、右端の行の1桝め「四」3桝め「五」5桝め「三」、次の行は1桝め「八」3桝め「九」5桝め「七」、2行とも桝の左側に3行め4行めと同じような縦線2本が入る。4桝ごとに縦罫に▼があるのも他の行に同じ。角背の背表紙は黒地で上部に標題、下部に著者名が窪ませて、元は金文字だったのだろうがすっかりくすんでいる。筆蹟は扉と(一致しないが)同じ。最下部に「宝文館」とゴシック体で小さく横並び。
 奥付、国会図書館蔵本では標題の下に破線の枠に「著作権者/ 承認 /検印省略」とあるが、祖母の蔵書はこの上に検印紙(2.2×2.1cm)を貼付している。印刷は黄緑色で、円(径1.7cm)の中に「宝」と書いた帆の宝船がこちらに向かって来る様、背後に太陽。そこに「宮城」の朱文円印(径0.8cm)。
 裏表紙見返し、遊紙の右上に「神田神保町日本読書普及会  (291)5982  」の書店票(2.2×3.5cm)貼付。これは2023年7月17日付(107)以来度々参照している「東京古書組合」HPの「特集」2020.06.16「書店票にみる東京の古書店」に載る「中山書店・日本読書普及会/(神保町)」の書店票3種のうち3つめに同じ。
内藤濯2024年4月30日追加
・『未知の人への返書』昭和46年4月5日 初版印刷・昭和46年4月15日 初版発行・定価 850円・中央公論社・268頁・上製本(19.7×14.7cm)
 これはクローゼット右側にあって、若い古本屋が採ってくれた。
 祖母の蔵書には模造紙で使った手製のカバーが掛けられている。これを外すと本体表紙にぴったりと透明のビニルカバーが掛かっている。丸背の背表紙には表紙と同じ標題と著者名が1行で白で「 未知の人への返書  内藤 濯 」とあって標題がやや太いのは表紙に同じ。最下部に細いゴシック体の横並びで極小さく版元名。
 本書は国立国会図書館デジタルコレクションに「送信サービスで閲覧可能」である。国立国会図書館蔵書はビニルカバーが掛かっていないだけだが、同じものが閲覧出来る。よって、祖母の蔵書のみの特徴だけをメモして置こう。268頁の次に頁付のない1頁「あとがき」があるが、その裏、奥付の向いの頁の最下部やや左寄りに青黒のインクで、横書きの署名がある。2字の姓と1字の名の間を1字分弱空けている。読めない。或いは著者のサインかと思ったが違うようだ。同じサインは裏表紙見返しの遊紙にも、最下部の中央に入っている。
・再版(昭和46年4月15日 初版発行・昭和46年6月30日 再版発行・定価 850円・中央公論社・268頁・上製本(19.7×14.7cm)) 隣の市の図書館で借りた再版には、書影と同じ、黒地で横縞の入ったカバーが掛かっている。図書館蔵書だから帯は保存されていない。カバー表紙の文字は初版の本体表紙と同じものが橙色で入っており、カバー背表紙も同様で標題と版元名が黄色、著者名は白である。カバー裏表紙はカバー表紙と同じ淡い縹色の飾枠枠があって、その内側の右上隅に明朝体白抜き縦組みで「中央公論社 価八五〇円」とある。本体裏表紙の中央やや上にある「CR」のマークの辺りには何もない。本体の異同は発行日の1行のみ。
・中公文庫A119(昭和五十三年八月二十五日印刷・昭和五十三年九月 十 日発行・¥340・中央公論社・277頁) 書影の中央の、顔面が7つ内側に出ている飾り枠(黄色)が上製本の再版ではカバー表紙とカバー裏表紙に大きく淡い縹色で入っている。他の細かいところは祖母の蔵書の記述からは逸れるので記すに及ばないだろう。

*1:カテゴリ「遺稿集」を追加。