瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

御所トンネル(3)

 4月26日付(2)の続き。
 『東京の民話』は149頁4行め「戦争の真最中」であることを強調していた。だから5行め「オッパイのふくらんだ駅員」の「ほうが多かった」のだ。これを「戦前」としてしまった小池氏の書き換えは、瑣事としてしまって良いものではない。
 それ以上に根本的な誤りというのは、もう気付いている人もいると思うけれども、幽霊出現の場所である。『東京の民話』では150頁15〜16行め「四谷駅から信濃町駅に向う途中の/線路の上に幽霊が出たんだって。」と云っている。「線路の上」なのである。150頁16行め〜151頁1行め「ほ/ら、トンネルがあるでしょう。それをぬけると、」ということで、御所トンネルは飽くまでも位置を説明するために持ち出されているだけなのである。だから151頁4行め「最終電車がね、四谷駅をでて、トンネルをくぐって、少しいった時にね、」というのは、もちろん御所トンネルを抜けて「少しいった」ところなのだ。その場所は151頁1〜3行めに「今は左側の高いところに高速道路があるでしょう。/その下は墓地になっていて、あの辺の凹地一帯には、古い平屋が、いっぱい建っているでしょう。/昔はとても、寂しいところだったのよ。」と説明されている。現在は線路よりも若干「高いところに高速道路」首都高速4号新宿線が走っている*1が、その下は谷底の低地で、現在の新宿区南元町、今も香蓮寺や本迹寺、林光寺の墓地が存する。
 それでは、何故この話が御所トンネルの話になってしまったのだろう?
 小池氏が誤った理由は、『東京の民話』を見なかったことにある。『異界の扉』には『東京近郊怪奇スポット』などと違って〔参考資料〕が示されていない。だから見ていないと断言は出来ないが、見たとしてもちゃんと見ていないはずである。
 この、『東京の民話』を見なかったことが不可抗力であるならば、こうして批判するのは公正ではない。しかし、以下に述べる理由から、見ようと思えば参照出来たはずなのだから、やはりここで問題にせざるを得ないのである。
 小池氏が参照したのは何かというに、松谷みよ子『現代民話考』である。
 全12巻の『現代民話考』のうち、交通に関する話が集められているのは3巻めで、既に2012年4月21日付「終電車の幽霊(2)」でも見たように、雑誌「民話の手帖」でのアンケート調査をもとに、まず単行本、松谷みよ子『偽汽車・船・自動車の笑いと怪談(現代民話考III)』(1985年11月25日第1刷発行・定価1,800円・立風書房・384頁)が出、さらに文庫版、松谷みよ子『現代民話考[3]偽汽車・船・自動車の笑いと怪談ちくま文庫)』(二〇〇三年六月十日第一刷発行・筑摩書房)が刊行された。2月27日付「小池壮彦『東京近郊怪奇スポット』(2)」に注意して置いたように、小池氏の処女出版『東京近郊怪奇スポット』186頁〔参考資料〕に「松谷みよ子『現代民話考3・8』立風書房」が挙がっていた。(以下続稿)

*1:今日、中央緩行線に乗って旧御所トンネルをくぐって見たが、「高速道路」は線路より低くなったり高くなったりで、必ずしも「高いところ」ばかりを走っている訳ではなかった。千駄ヶ谷の辺りでは「高い」のだが。その前に新御所トンネルもくぐって見た。