瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(27)

・白銀冴太郎「深夜の客」(3)
 昨日の続きで『山怪実話大全』の編者東雅夫が、白銀冴太郎「深夜の客」と杉村顕道「蓮華温泉の怪話」の関係をどう捉えているのか、確認して置こう。
 『山怪実話大全』の「編者解説」では、8月6日付(25)に引用した箇所に続いて、二三三頁18行め〜二三四頁4・7〜9行め、

 一方の「蓮華温泉の怪話」は、後に怪談作家としても名を成す荒蝦夷から『杉村顕道怪*1【二三三】談全集 彩雨亭鬼談』が刊行されている)顕道が、信州一円に伝わる「怪奇的伝説、鬼気身に/迫る妖怪譚、更に嘗て世人を震駭せしめし犯罪実話の数々」*2(同書「はしがき」より)を蒐/集・再話した怪談奇談本の一篇である。全体の構成や描写の共通性に照らして、顕道が「深/夜の客」にもとづいて再話したことは明らかだろう。‥‥/(2行略)/‥‥。「深夜の客」は誌面に大きく「事実怪談」と謳われており、内容も『信/州百物語』の編纂企図に相応しいものであるから、顕道がこれを蓮華温泉に伝わる巷説の類/と捉えて蒐集対象としても無理からぬところと思われる。‥‥


とある。「同書」は『信州百物語 信濃怪奇伝説集』で、2011年1月2日付(01)に触れた叢書東北の声11『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』に再録されている。ちなみに『山怪実話大全』の底本は、236〜237頁(頁付なし)「底本一覧」を見るに、237頁9〜11行め、

白銀冴太郎「深夜の客」         「サンデー毎日」/一九二八年七月二十二日号 大阪毎日新聞社東京日日新聞社
杉村顕道「蓮華温泉の怪話」       『信州百物語 信濃怪奇伝説集』 信濃郷土誌刊行会

とあって、再録の多い「蓮華温泉の怪話」も、初出に拠ってい*3
 さて、東氏は「編者解説」では、巷説として『信州百物語』に採録した、と云う筋を引いていたのだが、刊行直後の2017年11月13日23:53のtweetに「白銀冴太郎が、杉村顕道の別名義である可能性」に「何の根拠もないため解説には書かなかった」としながら触れている。ところが2017年11月14日9:42のtweet、献本を受けて前夜に一読した杉村氏の娘から電話があり、2017年11月14日9:47のtweet、白銀冴太郎の文体が娘からしても父のそれに共通する感じがすることと、それから杉村氏に「サンデー毎日」に投稿したことがあったことを聞かされて、東氏は「白銀冴太郎=杉村顕道という説が、にわかに信憑性を帯びてきましたぞ」と呟き、そして今年1月の第三刷にその旨を加筆したそうである。2018年1月24日22:58のtweet

そうそう、『山怪実話大全』の3刷で解説に加筆したのが、まさにこの「木曾の旅人」系怪談群の件。白銀冴太郎が杉村顕道の筆名である可能性が極めて高くなったという追記を入れました。いずれ4刷が実現した暁には『日本現代怪異事典』の「おんぶ幽霊」の件も加えないと!(笑)(雅)


 後から分かったことを増刷に際して追加したり、修正したりするのは非常に良いことだと思うけれども、常識的に考えて第一刷を購入した人は、これだけのために第三刷を買わないだろう。しかしながら、以前の刷を購入した人があってこその増刷なのだから、このような情報はそういう人たちにも、いや、そういう人たちにこそ伝えるべきだと思う*4。ネット上、出来れば版元のHPに正誤表のような按配で示すのが良いと思うのである。
 それはともかく、ここで「まさにこの」と云っているのは、後述する灰月弥彦と云う人のtweet*5に応じてのことなのだが、ここに5月30日付「朝里樹『日本現代怪異事典』(1)」に触れた『日本現代怪異事典』が持ち出されているのである。(以下続稿)

*1:ルビ「あらえみし」。

*2:ルビ「かっ・しんがい」。

*3:2019年9月12日追記訂正】2018年8月6日付(25)に引用した箇所にも「杉村顕道「蓮華温泉の怪話」(初出『信州百物語 信濃怪奇伝説集』一九三四)」とあったが、叢書東北の声11『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』の如く、初出の標題としては「怪奇伝説 信州百物語」が正しい。かつ、初版の杉村顕(顕道)本人による「はしがき」には、2019年9月8日付(111)に見たようにこのような文言はないので、これは再版以降差し替えられた、信濃郷土誌刊行會代表者荻原正巳の「はしがき」の一節なのである。すなわち、東氏が依拠したのは自身の所蔵する、何版か不明ながら『信州百物語 信濃怪奇伝説集』と思われる。従って「初出」に拠ったとしてしまった部分を見せ消ちにした。

*4:恥ずかしながら私は買っていないのだけれども。【2019年6月14日追記】新刊書店にて第三刷を見た。tweet に述べていない情報も含まれている(が、当ブログとして急いで対応しないといけない程でもない)ので、そのうち検討する機会を持ちたい。【2020年8月4日追記】第三刷に於ける【追記】は、2019年8月9日付(096)に引用した。【2021年12月12日追記】「初版第二刷発行」は2017年12月1日で、第一刷発行直後に増刷されている。内容に変更点はないだろう。

*5:8月15日追記】このtweetについては、8月15日付(34)に取り上げた。