瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

連続テレビ小説「なつぞら」(1)

 しかし連続テレビ小説なつぞら」が酷くて引いている。――登場人物が現代風の美男ばかりなのは、もう仕方がないと思っている。

連続テレビ小説 なつぞら Part1 (NHKドラマ・ガイド)

連続テレビ小説 なつぞら Part1 (NHKドラマ・ガイド)

NHK連続テレビ小説 なつぞら 上

NHK連続テレビ小説 なつぞら 上

 父が戦病死し、母を東京大空襲で亡くした奥原なつ(広瀬すず)は、戦後、父の戦友の柴田剛男(藤木直人)に引き取られて、北海道十勝の柴田牧場に来て、その妻の家付き娘富士子(松嶋菜々子)をはじめとする家の人たちから実の娘のように育てられ、剛男・富士子夫妻の子供たち、照男(清原翔)夕見子(福地桃子明美(平尾菜々花)の3人とも兄妹のようにしている。柴田家に来た直後から酪農家の富士子の父・泰樹(草刈正雄)の薫陶を受け、高校も農業高校の畜産科に通っているのである。 それが何故か東京に出てアニメ作家になると云う展開になるらしい。ちょっと強引な流れで今から嫌な予感を覚えているのだが、それ以前に今週、第6週「なつよ、雪原に愛を叫べ」の第32回(5月7日放映)で「おじいちゃん」泰樹が、なつの高校卒業を前に、照男となつを結婚させようと娘夫婦に切り出すと、何故か富士子は「何馬鹿なこと言ってるの」「何勝手なこと言ってるの」「考えてもなかったわよ」と、なつの気持ちも確かめずにとんでもないこと言い出して、とばかりに怒り出すのである。 私はこれを見て仰天した。既に照男は祖父を手伝って酪農家としての一歩を踏み出しており、なつはそれ以前、家にやってきたときから酪農を手伝っていた。そして柴田家から学費を出してもらって農業高校にも通わせてもらっているのである。なつが高校卒業後、このまま柴田牧場をほぼ家族の一員として手伝うとしても、いづれ誰かと結婚と云う話にはなるわけで、そのとき結婚相手は普通に酪農家が選択されるはずで、なつを気に入っている泰樹としては、文弱で農協勤めをしている婿の剛男は酪農の跡継ぎたりえない(そんな剛男と、泰樹の一人娘の富士子が結婚したのがそもそも謎なのだけれども)から、照男となつを自らが一代で築き上げた酪農業の後継者にしたいと思うのは至極当然である。
なつぞら 切手シート 広瀬すず 北海道 限定 NHK 朝ドラ

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 2016年11月12日付「男の甲斐性」に、私立女子高で卒業したばかりの教え子の見合い写真が意中の教員のところに送られてきた、と云う体験者の話を紹介したことがあったが、それが昭和50年(1975)くらいの都市部、東京近辺の話なのである。私は3月来、名高過ぎてこれまで敬遠して来た小津安二郎監督の映画を漸く5本、『東京物語』『秋刀魚の味』『秋日和』『小早川家の秋』『彼岸花』の順に見て、年頃の娘や未亡人を縁付けようと張り切る人たちが少なからず存在していたことに改めて思いを致したのである。今だったらカプ厨と云うことになるのであろうが、当時のカプ厨は実際に縁付けてしまおうと云う実行力を伴った存在だったのである、責任ある大人の義務として。 ところが、これら小津映画の登場人物たち(中村伸郎とか)に比べて、松嶋菜々子はなんと自由で開明的な考え方の持ち主であることか。農業高校の畜産科にまで行かせてやりながら、東京に行っても構わないみたいな態度を示すのは正直、訳が分からない。照男との話だって、普通だったら泰樹が言い出さなくても富士子夫婦もそれが似つかわしく思って内々で話を進めそうなものだ。そして照男も当然、そういうことになるだろうと思っていて良いはずなのだ。尤も、山田天陽(吉沢亮)と云う強力なライバルを意識せざるを得ない照男は、泰樹ほど簡単に話が付くと思っていないのだが、大人たちは皆、照男となつが柴田牧場の跡継ぎになるのが最良だと思い、そしてなつの農業高校卒業をその好機と捉えて、その方向で動き始めていると云うのはごく自然な流れと云うべきではないか*1
チコちゃんに叱られる!

チコちゃんに叱られる!

 しかるにこのような描き方をしてしまっては、かつて小津映画が描いた中村伸郎のような人種は、少数派の、困った人たちみたいな扱いを当時からされていたことになってしまう。これでは設定が昭和30年でも、昭和30年の衣装と雰囲気を帯びただけで登場人物の中身が現在とまるで変わらない*2、文字通りの「コスプレ」に過ぎないであろう。一体NHKは何を作りたいのか。歴史を(どんな理由からかは知らぬが)書き換えたい事情でもあるのか。それともただの馬鹿なのか*3。(以下続稿)*4

*1:その割に富士子は、第5週「なつよ、お兄ちゃんはどこに?」の第25回(4月29日放映)で長女の友見子が北海道大学文学部進学を相談すると「4年も大学に行ってたら、良い縁談だって少なくなるかも知れないんだから女は」と言っているのである。――この会話の反省としてなつに価値観の強制をするまいと思ったのかも知れないが、それにしても物分りが良過ぎる。

*2:初めに断ったように、見た目は既に現代の最先端らしいのだけれども。――そうでなくても所謂「世話好きな」小父さん、小母さんが「すずちゃん、どうすんのさ?」と柴田家の大人たちにしつこく聞いていそうなものなのだが。【5月11日追記】帯広の菓子屋「雪月」の先代の夫人(高畑敦子)と、すっかり小母さん化して姑に似て来た当代(安田顕)の夫人(仙道敦子)辺りはそういうことが気になって仕方がないキャラクターとして丁度良いと思うのだけれども。泰樹と気脈を通じて、小津映画の小父さんたちと同じように動いても良いと思うのだ。【6月23日追記】5月末に実家に行き、父に会った際に例によって大河ドラマと朝の連続テレビ小説の感想を聞いてみたところ、大河ドラマは脱落気味であった(今月、女子スポーツになってよくなってきたけれども、やはり脚本家の趣味である落語と強引に絡めたところがいただけない。大河に志ん生を出す好機と思って張り切ったのだろうが、狂言回しは別に設定するべきであった)。そして朝の連続テレビ小説を絶賛するのである。私の父は浪人時代の昭和30年代前半に、予備校に通うために3ヶ月ほど東京の素人下宿に滞在していたことがあり、懐かしい、その頃の風情がそのまま再現されている、と言うのである。そこで私が設定について尋ねると、困っていた。気にしていなかったらしい。そして結論は「なつが可愛い」。ネットで見掛ける「可愛いは正義」の実例を我が父に見て、げんなりさせられてしまった。

*3:5月11日追記】妹としか考えられない(兄としか考えられない)から無理、と云う理屈になっていた。まぁそれは認めるとしても、時期的に泰樹だけでなく周囲がじわじわと鎌を掛けたりしているはずなので、唐突に微妙な話を切り出されて戸惑うようなことに、まづならないだろうと思うのである。――第25回(4月29日放映)で、皆で演劇コンクール十勝地区予選大会の片付け兼反省会みたいなことをしていたとき、農業科3年生の番長で俄か演劇部員の門倉努(板橋駿谷)が「卒業したら俺の嫁になってくれ!」と告白したのは、卒業前後からそういう話が出始める時期だったから焦ったので、そこら辺りの機微に泰樹と門倉以外の登場人物が、当時の人間としては異様に鈍感なため、なんだかただの滑稽な場面のようになってしまったのは可哀想である。

*4:5月16日追記】続きは5月15日付「江馬務『日本妖怪變化史』(3)」に書き足した。本題よりも長くなってしまった。