瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

杉村顯『信州の口碑と傳説』(1)

①初版(昭和八年三月一日 印 刷・昭和八年三月五日 發 行・定價金貳圓四拾錢・信濃郷土誌刊行會・8+19+393頁・B6判)
②覆刻版(昭和六十年十一月十一日初版発行・定価 四、八〇〇円・郷土出版社・A5判上製本
 私は以前この覆刻版を、多分横浜市立中央図書館で見たように記憶する*1。しかしながら、内容が直に古老から聞き取り調査を行ったようなものではなかったので、私の関心からすれば参考程度に止まるものと判断して、特に信州の伝承に興味がある訳でもなかったから、その後、わざわざ閲覧するようなこともなかったのだが、8月18日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(105)」に述べたような理由で、確認する必要が生じた。
 精読するに至っていないが、ざっと比較してみての結論を先に述べれば、――私の以前の印象・評価と何ら変わらない。と同時に、近年の杉村氏再評価には、ある人物・書物の、特定の側面・部分にのみ焦点が当たって、総体を平衡感覚を保ちながら見ようとしないことの弊が、端的に表れているような気がして、ちょっと嫌な気分にさせられたのである。
 しかしともかく、杉村氏が伝承をどのように取り扱っていたかを査定するには、最近急に注目されるようになった『信州百物語』の姉妹篇に当たる本書も含めて、考える必要があるだろう。
 茶色の布装表紙の、丸背の背表紙に金文字で、大きく毛筆で標題「信州口碑傳説」、下部にゴシック体で「杉村 顕 著」最下部に明朝体の横並びで「郷土出版社」。表紙にもやはり金文字で、中央上部に背表紙と同じ標題、「傳説」の脇にやはり背表紙と同じ著者名。見返し、遊紙はクリーム色。
 和紙風の扉には青の子持枠に青の明朝体、縦線2本で3つに仕切り、中央の枠に大きく標題、右の枠の上部に「長 野 縣 知 事  石 垣 倉 治 閣 下 題 字長野縣立圖書館長乙 部 泉 三 郎 先 生 序」下部にやや大きく「杉 村  顯 著」、左の枠の下部にやや大きく「信州郷土誌刊行會」。
 石垣倉治(1880.7~1942.4.7)は第20代長野縣知事(官選。1931.8.28~1933.8.4)、乙部泉三郎(1897.5.10~1977.6.26)は第2代長野県立図書館館長(1932.2.2~1949.8.30)。
 アート紙の口絵が2葉、裏は白紙。1枚めは右が上に横転した写真が3つ、中央の1つがやや高い位置にあって、上に横組みで「尊本立前寺光善」下に「照 參 頁 一」但し図の中の右側に縦で「1、前 立 本 尊」とあるから何かの書物からの転載であろう。右と左の写真は同じ高さで、右の写真の右脇上寄せ、縦組みで「大 入 小 入 の 墓*2」とあって下に「照 參 頁 六 二」、左の写真の左脇上寄せ「紅  葉  塚」下に「照 參 頁 一 五」。2枚めは上下2つ、ともに右側やや上よりに場所、下に本文頁を添える。上の写真には「松本城天守閣」と「照 參 頁 九 三 二」、下の写真には「寢  覺  床」と「照 參 頁 七 〇 二」。
 まづ前付として乙部泉三郎「序」1~3頁と、5~8頁「自序」。もともと白紙であった4頁(頁付なし)を利用して、中央に明朝体縦組みで「凡    例」を、

一、本書の原版はB6判で刊行されましたが、読み易さを考慮して/
  A5判に拡大しました。
一、本書は原版に忠実に復刻いたしましたが、明らかな誤植は修正/
  いたしました。
一、本書は永い保存を考慮し、原版よりも堅牢な造本に致しました。

と示している。原版は未見。「明らかな誤植」も、これを無批判に引き継いでしまった文献が現れたりしがちで、その判定の資料になるからみだりに改めずに、校異表を作成して指摘して欲しい。中には誤っていない箇所を勝手に変えてしまったようなケースも(本書にそれがあるのかどうかは分からないが)あるのである。(以下続稿)

*1:平成10年(1998)以降。ひょっとしたら昭和61年(1986)頃だったかも知れない。

*2:ルビ「おほ にふ こ にふ」。