・青木純二『山の傳説』(7)
さて、8月15日付(102)まで4回に分けて引用した青木純二「晩秋の山の宿(白馬岳)」本文の、白銀冴太郎「深夜の客」との異同について、8月16日付(103)に何例か挙げて杉村顕道「蓮華温泉の怪話」は「晩秋の山の宿」に依拠している、との結論を出したのであるが、「蓮華温泉の怪話」には総体に書き替えが多いのである。従って、微修正レベルの「深夜の客」と「晩秋の山の宿」の異同のどちらかに一致するとして、それも杉村氏が「晩秋の山の宿」と同様に(微)修正しただけの話ではないか、と思う人もあるかも知れない。
そこで、個別ではなく書物レベルでの影響関係を確認して置こう。
杉村顕『怪奇伝説 信州百物語』の本文は、国立国会図書館デジタルコレクションに拠った方が良いのだが、著者生前の諸版については別に整理することにして、今は叢書東北の声11『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』に収録されている本文(281~380頁)に拠ることにした。この本には2011年1月2日付(001)以来、何度か言及しているけれども、ブログを始めた直後だったため、これまで書影を貼付しないままであった。
- 作者: 杉村顕道
- 出版社/メーカー: 荒蝦夷
- 発売日: 2010/02
- メディア: 単行本
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青木純二『山の傳説 日本アルプス篇』に拠ったと判断されるのは、全54話中、以下の12話である。仮に番号を附し、「←」に典拠である『山の傳説』の話について、収録されている篇*1と各篇ごとの番号(これも原本にはないので仮に附した)と題名・頁を添えて置いた。
【19】蓮華温泉の怪話(318~324頁)
←北アルプス篇【37】晩秋の山の宿(白馬岳)100~111頁3行め
【20】佐々良峠の亡靈の話(325~326頁4行め)
←北アルプス篇【38】里人の古説(佐々良峠)111頁4行め~112頁
【21】徳本峠の小狐の話(326頁5行め~328頁)
←北アルプス篇【49】旅人と小狐(徳本峠)143頁2行め~146頁5行め
【22】穗高の公安様の話(329~330頁)
←北アルプス篇【58】公安さま(穂高岳)165~167頁9行め
【23】お六櫛の話(331頁)
←北アルプス篇【76】お六櫛(御嶽)200頁11行め~202頁8行め
【24】駒ヶ岳の駒岩の話(332頁)
←南アルプス篇【8】蹄の跡(東駒ヶ岳)267頁3行め~270頁1行め
【25】聖德太子と駒ヶ岳の駒の話(333~334頁)
←南アルプス篇【9】大御鞍石(東駒ヶ岳)270頁2行め~272頁5行め
【26】塩見岳の狐の話(335~336頁5行め)
←南アルプス篇【11】雪の夜の女(盬見岳)273頁9行め~274頁
【27】晴明の火除柱の話(336頁6行め~337頁)
←南アルプス篇【13】逆銀杏(鹿盬浴場)276頁3~8行め
←南アルプス篇【14】祈禱柱(鹿盬浴場)276頁9行め~278頁1行め
【28】人骨をかじる狐の話(338~339頁11行め)
←南アルプス篇【15】戸臺部落(仙丈岳)278頁2行め~279頁10行め
【29】田端の姫の話(339頁12行め~341頁6行め)
←南アルプス篇【27】南の家(八ヶ岳)299頁10行め~302頁8行め
【30】槍ヶ岳温泉の話(341頁7行め~342頁7行め)
←北アルプス篇【65】二子岩の假小屋(槍ヶ岳)182頁5行め~183頁7行め
細かい点には及ばないが、【30】以外は『山の傳説』と同じ順に採録されている。分量に大きな違いがあるのは、登山経路(【24】)や経済問題(【23】)などの余計な記述を除いて、本筋だけに整理したためである。「東駒ヶ岳」は甲斐駒ヶ岳の信州(伊那谷)での呼称。但し山梨県南都留郡福地村(現・富士吉田市)にある御鞍石を主題とする【25】は、『信州百物語』には相応しくないようである。
これ以外にも『信州百物語』の前篇と称すべき『信州の口碑と傳説』にも、そして杉村氏が戦後に刊行した怪異小説集『怪談十五夜』にも青木純二『山の傳説』の影響が認められるのであるが、詳細は近日中に『信州の口碑と傳説』を閲覧する機会を得て果たすこととしたい。(以下続稿)
*1:『山の傳説』の構成については8月11日付(098)を参照。