瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(366)

 昭和14年(1939)の赤マント流言は東京近辺にとどまらず、大阪から九州、さらに朝鮮にまで到達していたのだが、海外でも報道されていたことが分かった。
 スタンフォード大学附属フーヴァー研究所(Hoover Institution)の「邦字新聞デジタル・コレクション Japanese Diaspora Initiative」にて検索するに、幾つかヒットしたのである。文字がかすれたり潰れたりしてヒットしなかったものもあるだろう。しかし今は簡単に分かった分だけでも報告して置こう。
・「羅府新報」はロサンゼルスで1903年に創刊された日米両語の新聞で、現在も続刊されている。その1939年3月29日付、5頁に「令孃までが「捕へてよ」/苦笑と溜息の江副課長〝流言犯人は嚴罰だゾ〟妖説「赤マント」調伏係り大クサリ」なる記事がある。但し「羅府新報デジタル・アーカイブ」が存在するためであろう、ネットでは見出ししか閲覧出来ない。尤もこの記事は2013年11月30日付(040)に紹介した、「都新聞」昭和14年2月24日付の同題の記事の転載であろう。しかし、東京の新聞のうち、赤マント流言を最も詳細に伝えていた「都新聞」から特にこの記事を選んで転載したところにセンスを感じる。
・「南洋日日新聞」昭和十四年十月二十五日(水曜日)第七千五百四十三號の(一)面、日付の右に「刊夕」とある。夕刊紙らしい。3~4段めに次の記事がある。まづ大きく「巡査の紙芝居」との見出しで3字半下げで「童心に吹込む誓察精神」と添える。以下本文、

「さあ皆さん、これから職に倒れ/た巡査さんのお話を致しませう」/▢の掛聲で、警察精神、民警協力/などの各テーマがはじめて紙芝居/▢ステージにとりあげられ、敎育/紙芝居の貧しさを補ふこととなつ/た「赤マントの怪」の謠言以來 /府保安課では紙芝居取締の第一歩/として廣汎を調査に着手しつつあ/るが、敎育紙芝居の素材を自ら提/供するため これまでパンフレツ/ト、ビラによつてのみ普及されて/ゐた警察精神を、面白いうちにさ/らに童心へも徹底させる手段とし/て紙芝居に作製することとなり、/その手初めに府警務課の手で戸口/調査、非常警戒、迷ひ子取扱ひな*1/【3段め】ど、警官の勤務状況を網羅した、/「派出所の一日」三十景、兇賊の/刃に倒れた名譽ある「殉職美談」/二十景 銃後治安のために奮闘し/てゐる「巡査の心持ち」十景をま/とめ 去る十五日松坂屋で開かれ/る戰時警察展を機會に、巡査自ら/上演一般の認識を深めさせた、展/覽會後もこれらの原稿を無料で大/日本紙芝居協會へ贈り、全國の兒/童▢呼びかけるほか、はじめての/試みを中絶させず、今後も適宜の/素材をどし〳〵提供すると大變な/意氣込みである*2


 1914年創刊のシンガポールの邦字新聞である。
 この「邦字新聞デジタル・コレクション」はテキストの編集が出来る。よって、感謝の意も籠めて、この記事だけでも修正して置いた。
 どうも、他紙の紙型を譲り受けて印刷したらしく、上下の欠損が目立つ。▢は文字が入るべき場所が空白もしくは痕跡になっている箇所、句読点があるべき場所に何もない場合はそのまま空けて置いた。
 ところで活字は附訓活字だが、データベースのテキストでは殆どがこのルビのために文字化けしている。よって全文検索出来るのだけれども検索に頼り過ぎるのは危険である。ルビがなくても、かすれた文字が別の文字と判定されたりもしているから、ヒットしなくとも細かく見て行ったり、時期を絞り込んでヒットしそうな語を入れて検索を掛けるなどの労を惜しまぬようにしないといけないだろう。
 さて、これは、赤マント流言の余波を報じたものだが、それにしても「去る十五日松坂屋開かれる」とは妙である。東京の新聞の記事を流用するに際し「來る十五日」だったのを「去る」と修正したものの「開かれる」を「開かれた」と直し忘れたのであろう。元記事は10月13日頃に出たらしく思われる。――「東京朝日新聞」や「讀賣新聞」のデータベースも、私が10年前に点検した頃と違っているだろうから、或いは再度検索したら見付かるかも知れない。今後、この時期の新聞に気を付けて見ることとしよう。(以下続稿)

*1:ルビ「みな・しよく・たふ/じゆん さ ・はなし・いた/かけこゑ・けいさつせいじん・みんけいけふりよく/かく・かみしば ゐ /けういく/かみしば ゐ /あか・くわい・げん い らい/ ふ ほ あんくわ・かみしば ゐ とりしまり・だい・ ほ /くわう・てう さ ・しゆ/けういくかみしば ゐ ・/ そ ざい・みづか・てい/きよう/ ふ きふ/けいさつせいじん・おもしろ/どうしん・てつてい・しゆだん/かみしば ゐ ・さくせい/て はじ・ ふ けいむ くわ・て ・ここう/てうさ ・ ひ じやうけいかい/まよ・ こ とりあつか」。

*2:ルビ「けいくわん・きんむ じやうきやう・ ら / は しゆつしよ・けい・ぞく/たふ・めい よ ・しよく び だん/けい・じう ご ち あん・ふんとう/じゆんさ ・こゝろも ・けい/さ ・にちまつさか や ・ひら/せん じ けいさつてん・ き くわい・じゆん さ みづか/じやうえん・はん・にんしき・ふか・てん/らんくわい ご ・げん・ む れう・たい/につほんかみしば ゐ けふくわい・ぜん・じ /どう・よ /こゝろ・ちうぜつ・こん ご ・てき ぎ / そ ざい・ていきよう・たいへん/ い き こ 」。