瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

太宰治『斜陽』の文庫本(2)

新潮文庫261(2)
 6月6日付(1)に、三十九刷と百七刷を比較すると書いたが、その後八十六刷と百刷も見た。今でも人気があるらしく、図書館の棚にはあまり見かけない。とにかくこれで新潮文庫の改版の流れが把握出来たように思われるので、一覧にして置く。
昭和二十五年十一月二十日発行
昭和四十二年七月二十日三十九刷(172頁)定価80円
昭和六十二年五月二十五日八十二刷改版(206頁)
・平成元年六月五日八十六刷・定価214円
・平成十二年五月三十日百刷・定価324円
平成十五年五月三十日百四刷改版(244頁)
・平成十六年五月三十日百七刷・定価324円
・平成二十一年十一月二十日百二十四刷・定価324円*1
 まず本字歴史的仮名遣いのが刊行され(未見)、それから新字現代仮名遣いのに改版されたのだが、三十九刷はではなくである。しかしながら、現在の新潮文庫と違って、三十九刷の奥付には昭和25年(1950)11月の発行年月日と三十九刷の年月日があるのみで、改版の日付は入っていない。しかるに国会図書館のNDL-OPACを見るに、新潮文庫の『斜陽』は初刷と「39刷改版」と「104刷改版」の3種が所蔵されていることになっている。すなわち三十九刷の奥付には「改版」と表示していないのだけれども、また改めて取り上げるが新潮文庫443『人間失格』が「昭和四十二年九月三十日四十二刷改版」であることからして、昭和42年(1967)7月に改版があったとするのは、どうも、正しいように思われる。国会図書館八十二刷改版のみ、所蔵していない訳である。
 ところが、この「39刷改版」についてNDL-OPACを見ると、189頁とある。私の見た三十九刷は172頁だから、頁数が一致していない。三十九刷は本文と豊島与志雄「解説」のみであるが、NDL-OPACの39刷改版には「注記 年譜あり」とあって、増補があるらしい。もちろん「年譜」だけで17頁も増えるとは思えないが、これについての憶測は、内容を見た上で改めて述べることとする。とにかく昭和42年(1967)7月の39刷を以て版、と新潮社の方でもしているようだが、その後版に至るまで、手を入れずにそのままの形で増刷されていたのではないことに、注意して置きたい。すなわち国会図書館に所蔵するは、実は昭和49年(1974)以降に増刷されたものだのに、昭和42年(1967)39刷改版の増刷である、と奥付にあるのを国会図書館は信じてしまっている、ことになる。いや、私もそうなんだ(というか、そうだったんだ)けど。してみると、改版時期を表示しない角川文庫に比して新潮文庫は改版時期を示しているから良心的、とも言えないのである。
 さて、私の見た三十九刷には、カバーはない。図書館によっては長らくカバーを外していたところもあるが、当時図書館に収蔵されたのなら蔵書印があるはずなのにないところからすると、そんなに古い時期に図書館に収まったのではないらしい。「ほぼ日刊イトイ新聞」の「新潮文庫のささやかな秘密。」の2005-04-04「第二回 ブドウのマークに影武者あり」によると当時、新潮文庫はカバー装化の途中であった。従って、昭和42年(1967)7月の三十九刷にカバーがあったかどうかは、帯かカバーかどちらかのかかった現物を確認しないことには分からない。(以下続稿)

*1:7月4日追加。