瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

松谷みよ子民話研究室「現代民話考」(01)

 2020年3月29日付「飯盒池(9)」の後半に述べたように、私は松谷みよ子『現代民話考』には幾つかの欠陥があり、読者から送られて来たアンケートの原文に遡って確認する必要があると、前々から思っておりました。
 いえ、実は、直接、運動したこともあったのです。――もう30年以上前、学部生の頃ですが、高校時代に同級生たちから聞き集めた話を、警備員のアルバイトをして溜めた金で買ったワープロで打って冊子にして、松谷氏にも1冊送り付けたことがありました。この私の資料集から、少なくとも1話はその後刊行されたちくま文庫版『現代民話考』の増補に採用されております。この資料集を当ブログで紹介したいと思っておるのですが、何せワープロ時代でデータはありませんし複写も転居の際に仕舞い込んだままで俄に取り出せなくなっております。
 それはともかく、松谷氏から礼状とともに新刊の次の本の恵投に与りました。

 早速目を通したのですが、目黒区とすべき場所を大田区*1と表示しているところがあって、私からの礼状にそのことを指摘して、残念ながら『現代民話考』には総体、地名の考定に難があります、また時期の示し方も曖昧ですがこれももう少し限定出来ると思います。一度、私に総点検をさせてもらえますまいか、と、まぁ、世間知らずの学部生の気楽さから、そんな申し出をしたのでした。
 結果、私に多大の負担を掛けることになるし、地名を厳密に明らかにするのは限界があるので多少の間違いが生ずるのは仕方がないと思っている、と云ったような返事が来て、そのままになってしまったのですが、その後、ちくま文庫版『現代民話考』を見て、私が気付いて訂正したいと思っていた中でも初歩的な、それこそまともな校閲者だったら気付いて赤を入れそうな誤りがそのままになっているのを見て、あのとき私に任せておれば間違いが少なくなり、かつ、より活用し易いものとなったろうに、と悔しい思いをしたものでした。
 まぁ、確かにかなり長期の作業になるはずで、気楽に、じゃあやって下さい、とは行かなかったでしょう。それこそアルバイトにしても松谷みよ子民話研究室で雇用しないといけない。しかし、今回、松谷みよ子民話研究室について資料を漁って行きますと、女性スタッフばかりで、うら若き(!)男性の、就職するつもりなのか大学院に進学するつもりなのかも分からぬ学部生を引き摺り込むことには、かなりの躊躇があったろうと思うのです。まぁそんな検討もせずに一切お断りだったのかも知れませんけれども。
 しかし、やはり男性視点の欠如、と云って良いのかどうか分かりませんけれども、地理と時間が曖昧なのは本当に困ると思っております。基準となる年が示されないので時期を考える手懸りが与えられていない話が少なくない。かつ、その基準となる年が、2013年10月24日付「赤いマント(003)」に指摘したように誤っていることが少なくないのです。せめて初出が何時なのか明示してもられば、それだけでも何時頃の話なのだか見当が付けられるのに、一々確かめないといけない。何となれば、6月8日付「日本の民話『紀伊の民話』(12)」に示したように、初出の「民話の手帖」掲載も必ずしも1回に限りませんし、前後の「民話の手帖」の読者ページに載ったものもあれば、「日本民話の会会報」に出たものもあります。そういったものは記号・略号によって、「民話の手帖」何号掲載なのか、「会報」何号掲載か、単行本で追加したのか、それとも文庫版で増補したのか、示して欲しかったのです。それから刊行物から採ったものも少なからずありますが、刊年を示しておりません。今はネットで書誌情報に簡単にアクセス出来るようになりましたから、検索すれば良くなりましたけど、私が松谷氏に送った何冊かの資料集は(刊行物と云えるかどうかはともかくとして)公立図書館に所蔵されておりませんので、書(誌)名だけでは何年に拵えたものだか、全く分かりません。そういうものは、一々示さないにしても巻末に文献リストにして刊年等は纏めて示すべきでした。いえ、「民話の手帖」掲載時には「参考資料」として文献を纏めて示してはいたのですが、そこでも標題・著者・版元だけで、刊年はやはり示しておりません。どうも、そう云うところが気にならなかったらしいのです。
 記録に時期が必要な理由は、上記2013年10月24日付「赤いマント(003)」を始めとする当ブログの考証記事で縷々述べて来たところですのでここには繰り返しませんが、私はこの不満を解消すべく、2011年8月24日付「『ほんとうにあったおばけの話』(01)」に述べたように雑誌「民話の手帖」との対照を進めようと思って、少し取り掛かって見たこともあるのです。
 この「以前、「民話の手帖」掲載の松谷みよ子「現代民話考」について調査したとき」のメモですが、2006年9月8日に作成したもので「民話の手帖」の初期の号、それから「日本民話の会通信」とその前身の「やまんば」まで閲覧しておりました。と云って、1日の閲覧で大した成果も上がっておりませんが。
 私は国立国会図書館では何だか落ち着かないので出来れば手許に置いて検討したいと思っておったのですが、「民話の手帖」を纏めて所蔵している公立図書館は殆どありません。国立国会図書館デジタルコレクションには収録されておりません。ところが最近、雑誌「民話の手帖」を纏まった冊数借りられるようになっていたことに気付きました。しかし他のことにかまけて着手出来ずにいて、漸く今年度に入ってから借り出して眺めております。
 もちろん最善の策は現代民話考のアンケート回答などの原資料から再検討することですが、4月9日付「飯盒池(10)」に述べたように、松谷みよ子民話研究室が存在しない今、そうでなくても個人で問い合わせてどうにかなるようなものではなく(元より今の私にその時間的・経済的余裕もない訳で)もし保管されているとすれば「怪異・妖怪伝承データベース」を運営している国際日本文化研究センター、或いは国立歴史民俗博物館、関係の深い民俗学者が多かった印象のある國學院大学*2いづれかに寄贈なりしてもらって、そこで整理してもらうしかなさそうです。
 可能性は低いと思いますがもし実現したとして、しかし私など入れてはもらえますまいから、今は不完全な考証になることを承知で公刊された資料――雑誌「民話の手帖」と単行本と文庫版の『現代民話考』それから『松谷みよ子の本』を始めとする松谷氏の著作や関連資料に基づいて、検討を進めて行くこととしましょう。(以下続稿)

*1:逆だったかも知れない。――追って確認して別記事としましょう。

*2:故野村純一教授、野村氏の弟子である大島廣志、常光徹等。