・『文藝怪談実話』のカバー
ちくま文庫のこのシリーズは文豪1人1冊で、怪異小説や随筆をまとめたものである。――怪異小説と云うと私はどうも、嘘臭さやわざとらしさが気になってしまうので、たまに図書館で借り来ても殆ど読まずに返してしまうのだが*1、2011年4月13日付「港屋主人「劇塲怪談噺」(1)」に触れた、主に作家によって事実として語られ、書き止められた怪異談を集めた「特別篇」3冊はよく借りて来ている。
先月立ち寄った図書館で、2011年1月12日付「画博堂の怪談会(1)」に書影を貼付した『文藝怪談実話』を見掛け、手にして見たのだが、どうも、カバーが新しいのである。増刷されたのかと思って奥付を見ると「二〇〇八年七月十日 第一刷発行」の1行があるのみである。しかしこの奥付と向い合せのカバー裏表紙折返しを見るに、「ちくま文庫から」として「文豪怪談傑作選 東 雅 夫 編」として16点が列挙されている。これは妙だと思って、10年以上前から近所の図書館の書棚に収まっている『文藝怪談実話』を借りて、並べて見た。
本体は当然同じで、カバーも表紙や背表紙の地色の肌色が薄くなっている他は、表紙・背表紙・裏表紙・表紙折返しと一致している。そしてやはり、裏表紙折返しだけが違っているのであった。
刊行当初のカバーの「ちくま文庫から」は、以下のようになっていた。
文豪怪談傑作選(全10巻)(*は既刊) 東 雅 夫 編
*川端康成集 片腕
*森鴎外集 鼠坂
*吉屋信子集 生霊
*泉鏡花集 黒壁
*特別篇 百物語怪談会
*柳田國男集 幽冥談
*三島由紀夫集 雛の宿
*特別篇 文藝怪談実話
小川未明集 幽霊船(8月刊)
室生犀星集 天狗(9月刊)
そして次の行間を横線(5.7cm)で仕切って、
芥川龍之介全集(全8巻) 芥川龍之介
新釈雨月物語 新釈春雨物語(日本の古典) 石 川 淳
稲垣足穂コレクション(全8巻) 稲垣足穂
内田百閒集成(全24巻) 内田百閒
妖怪・妖精譚 小泉八雲コレクション 〈小 泉 八 雲/池田雅之編訳〉
さまよえる魂のうた 小泉八雲コレクション 〈小 泉 八 雲/池田雅之編訳〉
ねぼけ人生〈新装版〉 水木しげる
幻想世界への旅 新装版 水木しげる
日本ぶらりぶらり 山 下 清
と関連しそうな本を並べていた。字数の多い行は標題を縦長にして詰めている。著者名は右側5字分の均等割付。
これが、私が先月見た本では以下のように変わっていたのである。既に引いたレーベル・シリーズ名の2行は省略。
川端康成集 片腕
吉屋信子集 生霊
泉鏡花集 黒壁
特別篇 百物語怪談会
柳田國男集 幽冥談
三島由紀夫集 雛の宿
特別篇 文藝怪談実話
小川未明集 幽霊船
室生犀星集 童子
特別篇 鏡花百物語集
太宰治集 哀蚊
折口信夫集 神の嫁
芥川龍之介集 妖婆
幸田露伴集 怪談
明治篇 夢魔は蠢く
大正篇 妖魅は戯る
刊行当初のカバーでは(全10巻)であったが、ここには16点挙がっている。刊行順に並んでいるが2点め『森鴎外集 鼠坂』が何故か抜けている。それから『室生犀星集』の表題作が「天狗」ではなくなっている。
このシリーズは結局もう1点、最後に『昭和篇 女霊は誘う』が刊行されて全18冊となった。『泉鏡花集 黒壁』までの4点が平成18年(2006)7月から10月まで毎月1点ずつ、平成19年(2007)には7月から9月に掛けて『三島由紀夫集 雛の宿』までの3点、平成20年(2008)も7月から9月に『室生犀星集 童子』までの3点、この(全10巻)で当初は完結予定だったらしいが続刊されて平成21年(2009)は7月から9月に『折口信夫集 神の嫁』までの3点、平成22年’(2010)は7月と8月に『幸田露伴集 怪談』までの2点、そして最後に平成23年(2011)に7月から9月まで『明治篇 夢魔は蠢く』『大正篇 妖魅は戯る』そして『昭和篇 女霊は誘う』と、複数の、余り有名でない作家まで落穂拾い的に集めた3冊を出して完結している。
ここには『昭和篇』が出ていないから、平成23年(2011)8月に新刊の『明治篇』や『大正篇』と抱き合わせて出荷するに際して新たに作って掛けたカバーなのであろう。(以下続稿)