瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

稲川淳二『稲川怪談』(1)

 稲川淳二は同じ話を繰り返し語っています。語り藝ですから、当然揺れがあります*1。単に稲川氏の怪談を愉しみたいと云うのであれば、前に聞いた、或いは読んだのと違うところが、少し引っ掛かって、SNSなどに書いて、それ以上別に何ともしない訳ですが、私は怖がりたいとは少しも思っていなくて、稲川氏の話がいつ語られ始めて、どのように発展して、そしてどんな影響があったかを知りたいと思っているので、その揺れ、付け加えられて行った尾鰭を、確認したくなりますし、する必要があると思っているのです。
 しかし、とにかく Variation が多いので、主要なものを揃えるだけでも困難です。ですから、当ブログでは2014年4月1日付「鉄道人身事故の怪異(1)からしばらく検討した、踏切事故による轢断など、通常なら生きていられない状態になっているはずの上半身など身体の一部が動いたと云う話に関連して、2014年5月2日付「鉄道人身事故の怪異(4)」に引用した小池壮彦『日本の幽霊事件』に言及されていた稲川氏の怪談「生首」や「追ってくる上半身」に、しぶしぶ(?)触れたのでしたが、丁度同じ頃に、赤マント流言と絡んで来る、稲川氏の「赤いはんてん」の検討を始めております。こちらは録音を2つ、書籍を2つ取り上げましたが、結局、最初のラジオ放送の時期と、現時点での稲川氏の主張を確認しただけで、細かい版ごとの揺れなどの確認には至っておりません。「生き人形」も取り上げましたが、これもやはり小池壮彦「真説『生き人形』」の、あまり人目に付くことがないであろう不思議ナックルズ・恐怖コレクション『日本〝怪奇〟伝説』収録版について確認して置きたかったので、余り突っ込んだ内容ではありません。淡谷のり子が稲川氏に語ったと云う話については、もう少々続けるつもりですが。
 しかし、稲川氏が最近の Version に於いて、改めて記憶を辿り直し、より正確性を高めたかのように語っているとしても、初期の Version が原型に近いことは間違いないでしょう。それでも最新の Version を無視する訳には行かないので、検討するには初出と最新版を揃えて置きたい訳です。理想としては。
 そこで期待したのが、昨年から講談社が刊行している『稲川怪談』です。
稲川淳二『稲川怪談』講談社・四六判並製本
①『昭和・平成傑作選』二〇二一年六月一五日 第一刷発行・定価1100円・223頁

・二〇二一年七月一四日 第二刷発行・定価1100円
②『昭和・平成・令和 長編集』二〇二二年四月一九日 第一刷発行・定価1182円・223頁 版元HPを見るに、①の「内容紹介」には、

500以上にのぼる「稲川怪談」の中から選りすぐりの40作品を定本としてまとめたものが本書です。
座長、ずんじ、稲川先生・・・ファンの間で様々な愛称で呼ばれる稲川淳二さん。関西テレビ系列の「稲川淳二の怪談グランプリ」で多くの怪談師たちを世に送りだし、若手怪談師たちから「巨匠」「レジェンド」と慕われています。
開拓者として怪談ブームの礎を作り、いまや「伝統芸能」とも呼ばれる「稲川怪談」。もとは自身の体験談から始まり、業界人の不思議な話、土地にまつわる噂……と、時代とともに変化し、半世紀を経て、完成度の高い傑作怪談へと発展していきました。
怪談家稲川淳二が人生をかけて50年にわたり、収集・研究・創作し、語ってきた「稲川怪談」集大成です。

とあるが、②の「内容紹介」には、

◆ご存じ!怪談界のスーパーレジェンド
怪談語って50年、語った怪談500以上。
1970年代から現在に至るまで、ひたすらトップを走り続けるカリスマ怪談家
心霊、オカルト、超常現象、都市伝説、事故物件、鬼……
現代のあらゆる怪異ブームの礎であり、怪談文化の創造主でもあるスーパーレジェンド、稲川淳二が思いを込めて贈る、怪談ベスト本第二弾。
 
◆白本、黒本、2冊そろって稲川怪談ベスト本
2021年に出版された白い表紙の「昭和・平成傑作選」は比較的短い作品を40作品掲載しましたが、黒い表紙の本作「昭和・平成・令和 長編集」は、細部まで稲川節が味わえる長編を中心に20作品を掲載。さらに2ページ完結の傑作短編4本付き。
この2冊で「稲川怪談」の主要な作品が網羅できます。
 
◆長編だからこそじっくり味わる稲川怪談の真骨頂
昭和・平成・令和と、半世紀にわたって語り継がれてきた、「稲川怪談」とじっくりむきあえる長編集。
長い年月の間につながった話、いくつかの類似体験などをまとめて掲載。
ストーリーの破片と破片が組み合わさったとき、新たな恐怖が生まれる!

とある。これを見ると、当初①のみの「傑作選」のつもりだったのが、好評のため「第二弾」の②を刊行することにしたらしい。
 ②には「白い表紙の「昭和・平成傑作選」は比較的短い作品を40作品掲載し」たのに対して「黒い表紙の本作「昭和・平成・令和 長編集」は、細部まで稲川節が味わえる長編を中心に20作品を掲載」したとあって、確かに①には1篇しかなかった10頁を越える話が8篇収録されています。さらに4つの章それぞれ最後に「長い年月の間につながった話」すなわち、主題が類似もしくは場所が近い2話を纏めて掲載して、長篇めかしてあります。しかし「怪談語って50年、語った怪談500以上。/1970年代から現在に至るまで、‥‥」と云うのには少々誇張があります。
 稲川氏の「赤いはんてん」は、2017年1月17日付「赤い半纏(14)」に見たように、稲川氏がその怪談語りのキャリアの極初期に語ったものです。それは2014年1月4日付「赤いマント(074)」に見たように、昭和51年(1976)4月から昭和52年(1977)9月までのことです。そうするとせいぜい45年くらい、四捨五入すると50年になりますが、50年を超えていないと「半世紀」とは云わないだろうと思うのです。いえ、それが分かっているから、1970年代後半からなのに「1970年代」とボカして、一見辻褄が合っているように装っているように、見えるのです。
 それから、①の「もとは自身の体験談から始まり、業界人の不思議な話、土地にまつわる噂……と」と、続く「時代とともに変化し、半世紀を経て、完成度の高い傑作怪談へと発展していきました」が嚙み合っていません。しかし①の最後「収集・研究・創作し、語ってきた」と云う辺りが、私としては大いに引っ掛かります。稲川氏は事実を強調していて、実際、裏付けが(ある程度*2)取れる話も少なくないのですが、裏付けのなさそうな話もある*3ので、その辺り、以前「赤いはんてん」について開示を求めたことがありましたが、出来れば研究の成果をお示し願いたいところです。
 それはともかく、「500以上」のうち64話だけですので、やはり載っていない話が多い。かつ、語り下ろしの自作自演解説でもあればと思ったのですが、そんなものはなくてただ初出が示されるだけでした。――初出については次回確認することとします。
 序でに装幀を見て置きましょう。奥付では標題は明朝体縦組みで①「稲川怪談/昭和・平成傑作選*4」②「稲川怪談/昭和・平成・令和 長編集*5」と2行に入っていたが、副題はカバー表紙では標題の脇にごく小さく、カバー背表紙では下に、それぞれ著者名の上に添えている。
 カバー裏表紙は殆どが稲川氏の白黒の顔写真で左上のみ白地でバーコード2つやISBNコード等。その右と、以下3段3列の合計10種で、①の写真を上から仮に番号を打つと「  1/234/567/8910」と並んでいたが②は「  11/327/1104/569」の順である。すなわち①の8と、②の11以外は順序を入れ替えて①②共通している。
 カバー表紙折返し、白地で明朝体縦組み10行、字下げなしで句読点で適当に改行している。ともに220~221頁「おわりに」から一部を要約して抜萃したものである。同文は「=」、一部改変は「≒」、要約は「←」で示した。①1~2行め=220頁2行め、①3行め←220頁3~5行め、①4~5行め=220頁5~6行め、①6行め←220頁7行め~221頁5行め、①7行め≒221頁6行め、①8~10行め=221頁7~8行め。②1~2行め=220頁2~3行め、①3行め←220頁4行め、①4行め=220頁5行め、①5~7行め←220頁5~9行め、①8行め←221頁11~12行め、①9~10行め=221頁12~13行め。
 カバー裏表紙折返し、上部に口演中の稲川氏の白黒写真があるがこれは①カバー裏表紙の写真「8」である。以下、横組みの【著者紹介】があるが最後の3行が異なるのみ。①は「‥‥。2021年で29年目を迎え、披露した怪談は約500話、/動員数延べ61万人に達し、現在も年間50公演ほど/開催している。」とあったのが「‥‥。2022年で30周年を迎え、披露した怪談は約500話、/動員数延べ60万人以上。現在も年間50公演ほど開/催している。」となっている。2022年は30年目で、30周年は2023年なのではないか。それから動員人数が控え目になっている。
 ①②とも見返し(遊紙)は黒。1頁(頁付なし)扉は①②とも白地に表紙と同じ文字を縮小して黒字でやや中央に寄せる。2~3頁「はじめに」4~5頁(頁付なし)「目次」、1頁分白紙があって7頁(頁付なし)「第一章」の扉。そして219頁まで本文。細目は次回確認する。220~221頁「おわりに」222~223頁「出典・初出一覧」、最後に奥付。(以下続稿)

*1:2016年1月18日付「赤い半纏(4)」に見た「赤いはんてん」のように30年も経ってから「続きや真相」が追加される、と云うのは極端な例ですが。

*2:心霊現象については裏付けの取りようがないので初めからそこは限界になりますが。

*3:稲川氏の誤解に基づくらしい、矛盾を含んだ「裏付け」もあれば、どうも「創作」らしいものもあって、その見極めが中々に厄介です。

*4:ルビ「いな がわ かい だん/しょうわ けっ さく せん」。

*5:ルビ「いな がわ かい だん/しょうわ ・へい せい・れい わ・ちょうへんしゅう」。