瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

青木純二『山の傳説』(02)

 本書は忘れられ掛けた書物なのだけれども、22年前には覆刻版が刊行され、さらに11年前には新字現代仮名遣いで復刊された。しかしながら、幾つかの話が、出処に疑念がある旨で(!)問題にされている他は、余り知られているとは言いがたい。しかも復刊の版元・一草舎出版がその1年半後に解散してしまったためか、新字現代仮名遣い版は都内の図書館には殆ど所蔵がない。国立国会図書館国際子ども図書館・東京都立中央図書館の3館に収まっているが大学や研究機関の図書館にも所蔵がないようだ。
 近年、本書を素材として利用した珍しい例としては、9月22日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(125)」に取り上げた次の本が挙げられる。
・丸山政也・一銀海生『長野の怖い話 亡霊たちは善光寺に現る
 すなわち、9月23日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(126)」に引いた「参考文献・出典・初出・引用」の14点めに一草舎出版の新字現代仮名遣い版が挙がっているのである。
 丸山氏と一銀氏の共著になっているが、一銀氏の「おわりに」に、232頁14行め「あさま山荘事件について書い」た、としているので、次の2話が一銀氏の担当だろう。
四十五 最期の逃亡者 あさま山荘事件 (佐久郡 軽井沢町 189~203頁
四十七 あさま山荘 死霊の激突 (佐久郡 軽井沢町 210~224頁
 佐久郡は明治12年(1879)に南北に分割されており、軽井沢町北佐久郡である。いや、並びにある「四十四」には(北佐久郡 軽井沢)とあるのに、何故か統一していない。
 それはともかく、丸山氏が「まえがき」に、4頁13行め「本書は近現代の怪談実話と民話からの再話の二本の柱」により、5頁8行め「あえて章立てにせずランダムに並べたことで、時代往還のような妙味」を出そうと試みた、と述べているように、残りが丸山氏が6頁11行め「多くの文献を参考に」構成したものなのである。
 しかし、怪談実話の方は面白く読んだけれども、詳しくは取り上げない。私が一応整理して置きたいと思うのは「文献」に拠った方である。しかしながら、典拠の特定は困難である。「参考文献・出典・初出・引用」の10~13点めに挙がっている『信州の民話伝説集成』全4冊*1、本書や、杉村顕(顕道)の『信州の口碑と傳説』や『信州百物語』に出ている「民話伝説」も、直接か間接かはともかく「集成」されているはずだからである。
・和田登 編著『信州の民話伝説集成【東信編】(2006年2月14日 第1刷発行・2006年3月15日 第2刷発行・定価3800円・一草舎出版・438頁・A5判上製本

 私が見たのは『東信編』のみ、地域からして本書『山の傳説 日本アルプス』は参照されておらず、434~438頁「【参考資料・文献一覧】」に『信州百物語』或いは『信濃怪奇伝説集』も見えないが、437頁8行め「杉村顕「信州の口碑と伝説」 郷土出版社(昭和八/昭和六〇覆刻)」が見えている。
 こういうときに、厳密に『信州の口碑と伝説』と『信州の民話伝説集成』のどちらに拠ったのか、判断するのは困難である。何となれば、9月23日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(126)」に指摘したように、挙がっている本に載っていても見落としている(或いは、敢えて触れなかったのかも知れないが)可能性もある訳だから、ここでは典拠かどうかはひとまづ措いて、丸山氏の書いた話が、本書と杉村氏の『信州の口碑と傳説』『信州百物語』にあるかどうか、を中心に、他、若干の指摘をするにとどめた。
 既に取り上げた3話(二十二四十五四十七)は除外して、まづ「怪談実話」に分類されるであろう体験談の類について、各話の1行め、明朝体太字で入っている番号と題そして(場所)を、列挙して置こう。
一 トンネルで聞いた声 東筑摩郡 12~17頁
二 無人駅舎に立つ女 安曇野市 18~26頁
四 ミラー越しの女 南信地方 32~34頁
七 白骨温泉 松本市 39~42頁
・40頁2行め「文人墨客」の読みは「ぶんじんぼっきゃく」より「ぶんじんぼっかく」の方が一般的。
八 奇跡の六地蔵 飯山市 43~44頁
十 バルコニーの女 松本市 49~54頁
十二 中央自動車道の怪 諏訪市 57~59頁
十四 人命救助で見たもの 松本市 62~66頁
十六 帰ってこない娘 松本市 69~70頁
十八 兄の帰還 長野市 73~78頁
・77頁4行め「国防婦人会のひとたち」とあるが、この話が73頁3行め「昭和十九(一九四四)年」のことなら、国防婦人会はそれ以前の昭和17年(1942)に大日本婦人会に統合されているから「大日本婦人会のひとたち」とすべきである。
二十一 灰焼きのおやき 東筑摩郡 87~90頁
二十五 呪縛の部屋 松本市 106~107頁
二十七 軽井沢大橋 北佐久郡 110~114頁
二十九 土器を拾う 茅野市 117~120頁
三十二 湖面を移動する女 塩尻市 126~131頁
三十五 預かった乳飲み子 茅野市 140~142頁
三十六 苔むした石 北佐久郡 143~144頁
三十九 諏訪湖女工哀史 岡谷市 149~154頁
四十 受取人名のない小包 北信地方 155~165頁
四十二 死を呼ぶ火の玉 松本市 169~171頁
四十三 奈川渡ダム 松本市 172~174頁
四十四 峠道に捨てた犬 北佐久郡 軽井沢) 175~188頁
四十六 妊婦画ホテル (長野県 信濃町 204~209頁
・11頁9行め及び204頁1行め(上水内郡 信濃町)とすべき。
四十八 線路に生首 長野市 安茂里) 225~227頁
四十九 善行寺参りの黒い影 長野市元善町 228~231頁

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 9月14日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(117)」に初めて本書の復刊希望を表明した際に、各話について、本書から書承で繋がる伝説集に筋を引いて見せようと思っている旨、計画を示して置いたのだが、『信州の民話伝説集成【東信編】』を見て、昨日の最後の【御提案】のように改めた。『信州の民話伝説集成』は刊行当時の自治体ごとに伝説を集成しており、多くの文献を参照しているのだが、個々の話の典拠を示さない。この、類書にない規模で文献を蒐集し、伝説を網羅している点が、筋を引くには非常に厄介なのである。しかし、だからと云って触らない訳にも行かない。――そこで『信州の民話伝説集成』全4巻(一草舎出版)と『信濃むかし語り』全6巻(しなのき書房)については、話の有無を示す方針で作業を進めている。(以下続稿)
2020年3月20日追記】投稿当初、「三十六」と「三十九」の間に次の1条があった。

三十八 ハンゴウ池 下高井郡
白根山は県境に近いが全く群馬県の山と云うべきで、ここも9月23日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(126)」に指摘した蓮華温泉と同じく、越境して他県民に長野県民のような顔(?)をさせている疑いがある。かつ、地図で見る限り、草津白根山の頂上附近には、水釜・湯釜・涸釜・弓池・いもり池・鏡池・富貴原ノ池・武具脱の池・平兵衛池・大池など多くの池があるが、このような名の池は見当たらない。或いは、白根山に近い長野県側にこのような池があるのかと地形図(地理院地図)を点検して見たのだが、県境の万座峠・山田峠・渋峠を繋ぐ稜線の長野県側は、池などなさそうな急峻な松川源流部の谷である*2


 何故か「147~148頁」が落ちていた。それはともかく、うっかりこの話を「怪談実話」に含めてしまったのだが、典拠が存在するので(但し丸山氏の依拠した文献は未確認)誤解を防ぐために上記のリストから削除してこのように註記することとした。詳細については、近々別に報告する予定である。

*1:【2020年10月10日追記】「が」を「に」に訂正。

*2:北北西数kmの志賀高原(長野県下高井郡山ノ内町)には池が多数ある。しかしここならば白根山の名を持ち出すまでもなく「志賀高原」と云えば良い。