瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(37)

・遠田勝『〈転生〉する物語』(17)「一」11節め①
 遠田氏の叙述が青木純二のアイヌ伝説捏造及び捏造疑惑に回り道をした序でに、昨年の12月に見付けて置いた青木氏晩年*1の、アイヌ伝説についての発言を見て置いた。
 実は青木氏については、昭和40年代には放送作家(!)をしていたことを、こちらは所蔵する図書館に出掛ける見込みが立たない中、昨年8月に久し振りに古書店に注文して購入した本で摑んでいたのだけれども、報告の順序が逆になってしまった。こちらは「白馬岳の雪女」が片付き次第報告することとしたい。
 遠田氏の本に戻ると「一 白馬岳の雪女伝説」の11節め、42頁5行め~43頁10行め「昭和の大説話集大語園』」にて、漸く偽アイヌ伝説から白馬岳の雪女に、話を戻している。
 さて、ハーンの「雪女」に関連して『大語園』を持ち出したのは8月19日付(23)に見た、2節め「原「雪女」をめぐる論争」に取り上げられていた村松眞一「ハーンの「雪女」と原「雪女」」である。遠田氏はかなり長く引用しており(19頁10行め~20頁5行め)、その末尾に注(4)を附している。「注」を見るに237頁6行め「(4)村松眞一「ハーンの「雪女」と原「雪女」」『八雲』(小泉八雲顕彰会)一一号、七―一〇頁。」とあって、何故か刊年を示していない。それはともかく、ここではその冒頭部を抜いて置こう。19頁10~12行め、

 そこでハーンの「雪女」に最も近く、話に尾ひれがついていない原「雪女」を探してみると、/「山の伝説」として伝えられる越中越後国境の「白馬岳の雪女」巌谷小波編『大語園』第七巻所収〕がそれであろうと思われる。‥‥


 「尾ひれ」が付いている「雪女」とは、8月19日付(23)に見た、中田賢次が挙げていた再話作品3つであろう。――そして8月20日付(24)でも触れたように、3節め「捏造された「雪女」伝説」にて遠田氏は、この村松氏の「原「雪女」」説について、22頁3~5行め、

‥‥、/村松説には一九三五年に刊行された、巌谷小波の『大語園』という有力な証拠があり、これはハー/ンの「雪女」(一九〇四年)刊行以前には遡れないものの、口碑の記録としてはきわめて古く、また/神話伝説集としても信頼できる確かな書物だからである。‥‥

と、証拠正しきことを強調していたのである。
 私が『大語園』を知ったのは学部生時代で、卒業論文に江戸時代の説話集を取り上げたので、類話の探索のために大学図書館の参考書架にあった(従って禁帯出)『大語園』を見たのである。大変な労作だとは思ったけれども、それほどお世話になった訳ではない。飽くまでも原典或いは影響の見当を付けるのに使う程度で、事典類もそうだが、揃いで手許に10冊、いつでも手に届くところに置いておれば便利に幾らでも使うことだろうが、図書館に行って見るような按配では、目当ての事項に当たって、それでお終いである。いや、要約が載っている分、却ってかさばって探しにくいのである。
 『大語園』は、以前は国立国会図書館デジタルコレクションで公開されていた*2。今回、漸く遠田氏の本が『大語園』の「白馬岳の雪女」を取り上げたところまで辿り付いて、いざ国立国会図書館デジタルコレクションで確認しようとしたら「国立国会図書館/図書館送信限定」になっていて閲覧出来なくなっていた。『大語園』の編者巌谷小波(1870.六.六~1933.9.5)の著作権は切れているはずだが、要約・引用されている書物の著作権が問題になったのか、それとも父の歿後、編纂の実務を担当していた小波の弟子・木村小舟(1881.9.12~1954.4.20)を援けて編纂に参加した小波の次男・巌谷栄二(1909.9.21~1969.11.23)の著作権が切れていないと云う判断からなのか。
 何時でも見られるつもりでいたから、少々困っている。いや、全冊公開されていてもパソコンの画面では見づらいから、碌々参照していなかった。けれども「白馬岳の雪女」を参照せずに書くのは少々具合が悪い。そこでちょうど返却期限が来た隣の市の図書館のOPACで検索して見るに、開架に揃っていて貸出可とのことなので先日、霧雨の中、自転車で出掛けて、一度に全部借りることは出来ないので第一巻と第七巻、第九巻と索引(第十巻)の4冊を、借りて来たのである。(以下続稿)

*1:と云ってもまだ何時死去したのか突き止めていない。

*2:近代デジタルライブラリー」以来で、当時の記事としては例えばくるぶし(読書猿)のブログ「読書猿Classic: between / beyond readers」の2010.07.03「レファレンスこの一冊/プロットにつまったら吉川英治・手塚治虫も使った『大語園』」に「近代デジタルライブラリーで読める『大語園』」としてリンクされている。それから京都府立図書館HPの連載「こんな本、あります」No.48「『大語園』」の最後に「 当館所蔵の『大語園』は館内でのご利用となりますが、国立国会図書館デジタルコレクションでも公開されています。幻想的な世界へと旅立ってみてはいかがでしょうか。/<平成29年10月29日掲載>」とリンクを貼ってある。しかしながらどちらも、クリックしても閲覧出来ない。