瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

祖母の蔵書(145)明治生れの男性作家

 ここには、祖母が少数しか持っていなかった、日本の男性作家のうち、別に纏めている推理小説・時代小説・歴史小説に属さない作品を書いている明治生れの人物を纏めて置こう。
谷崎潤一郎
 祖母は『源氏物語』を愛読していて、與謝野晶子・円地文子田辺聖子瀬戸内寂聴橋本治などの現代語訳や創作・エッセイ、研究者による入門書を少なからず買っていたが、谷崎源氏は見掛けなかった。谷崎氏の作風が好みでなかったものか、小説なども余り目にしなかった。仮に持ち帰ったものの中に、まだ紛れているかも知れないが。
 居間の隅の9段の簞笥の5段め、
新潮文庫891『細雪 上卷昭和 三 十 年 十 月 三 十 日 發 行・昭和三十九年 八 月三十一日 二十刷・定價120圓・276頁
新潮文庫892『細雪 中卷昭和 三 十 年十月三十日 發 行・昭和三十九年六月三十日 十七刷・定價130圓・319頁
新潮文庫893『細雪 下卷昭和 三 十 年十月三十日 發 行・昭和三十八年一月二十日 十四刷・定價130圓・364頁
 パラフィン紙や帯は残っていない。
 私は『細雪』は読もうと思いつつそのままになっているのだけれども、この正字歴史的仮名遣の3冊揃いを見て、いつか読むために取って置こうかと思ったのだが、いつそんな余裕を得られるか分らないし、まぁこの際処分してしまおうと思ったのである。
 同じ簞笥の6段め、
・中公文庫 A 1-7『台所太平記昭和四十九年 三 月二十五日印刷・昭和四十九年 四 月 十 日発行・¥220・中央公論社・196頁

 寝間の本棚より次の1冊*1
岩波文庫31-055-1 小出楢重画『蓼食う虫』1948年12月5日 第1刷 発 行・1970年9月16日 第22刷改版発行©・1985年9月17日 第30刷改版発行・1989年1月15日 第34刷 発 行・定価300円・岩波書店・298頁※ 栞あり「シルクロード 全2冊」反対面「岩波漢語辞典」広告。
 カバー表紙折返し『岩波文庫総目録』の広告、カバー裏表紙折返し『広辞苑』第三版の広告。
菊池寛
小学館文庫 新撰クラシックス R C 4『藤十郎の恋 忠直卿行状記二〇〇〇年四月一日   初版第一刷発行・定価600円・252頁※ 帯あり「今月の新刊」書影に同じ
※ 栞「大辞泉 増補・新装版 好評発売中」◎発刊記念特別定価(2001年4月30日まで)
 本書は寝間にあったと思う。
横光利一
新潮文庫77『家族會議』昭和二十四年 十 月 三 十 日 發 行・昭和三十七年 九 月 三 十 日 十九刷・定價120圓・新潮社・325頁
 帯もパラフィン紙も失われている。栞紐も触っているうちにとれてしまった。
 奥付の裏から「日本文學」の3段組の目録が8頁あって、最後「新潮文庫最新刊」10点12冊、その左(ノド)に「昭和三十九年霜月    文江」と青ボールペンで書込み。
 祖母は健康の秘訣としてお灸(せんねん灸)を愛用していて、それと仏間で焚いていたお香とが入り混じった脂が壁紙や家具に付着して、部屋全体に一種独特の匂いを漂わせていた。以前は喫煙もしていたそうだが晩年は殆ど吸わなくなっていたので煙草の臭いではない。全く以て一種独特な、余所では嗅いだことのない、お香のようでお香ではない、どうしても嫌だと云う程ではないがちょっと何の匂いなのだろうとたじろぐような香りに満ちていて、何か物を貰って持ち帰って来るとしばらく「おばあちゃまの家の匂い」が漂って来たものである。
 今回、祖母の蔵書の何割かを新古書店に持ち込んだり古本屋に買い取ってもらったのだが、そこで匂いが問題になることはなかった。しかしそれは、祖母が死んで3年、その前に祖母が病院次いで施設に入って6年、合わせて9年ほどが経過してその間に匂い成分がかなり抜けたためで、それでも寝間などの奥で、茶ばんだ綿埃などと一緒になっていた本はかなり匂ったのである。この匂い成分は壁紙に付着して壁全体を何となく黄ばませていたのだが、本のカバーなどにもかなり付着していて、寝間の本棚や紙袋などにあった本は、祖母が手にした辺りにどうもこの脂っぽいものが多く付着している。だから私はティッシュを水で濡らしてせっせとこすって落としたのである。目に見えて綺麗になる。
 段ボールに仕舞い込まれていたもの、客間のクローゼットに収まっていたもの、簞笥に収まっていたもの、仏間の硝子棚や、寝間の本棚のうち硝子扉の中に収まっていたものは、幸い被害を免れていた。ただそれ以前の保管が悪くて触ると手が黒くなってしまうようなものも少なくなかったが。
 そして、最も汚損が進んでいたのが、居間のソファの脇に並べてあった本や雑誌で、以前は寝間でもお灸をしていたらしいのだが、晩年は専ら居間でお灸をしていたようで、その脂か何かがソファ脇の本には少なからず付着していた。ごく新しい本はまだ何とかなるかも知れないが、古い本は表紙や本文用紙の黄ばみも余所の本に比して甚だしくその上煤のようなものも点々と付いているので、もう廃棄するよりないものと思っている。
 本書はそのソファ脇にあった1冊なので、本文は経年劣化程度だけれども、裏表紙に煤の滴りみたいなものが4つほど点々と付いている。――国立国会図書館デジタルコレクションでは「国立国会図書館限定」公開でネットでは閲覧出来ないが、1994年に「新潮文庫の復刊」の第5回配本としてカバーを掛けて復刻されていて、図書館で借りて同じ版で読むことが可能である。そこで思い切って、処分することにした。(以下続稿)
井上靖*2
講談社文庫 い 5 8 『本覚坊遺文』昭和59年11月15日第1刷発行・定価340円・231頁 寝間の本棚より。

*1:2024年3月22日追加。

*2:10月10日追加、8月1日にメモ。