8月27日付(31)に青木純二のアイヌ伝説捏造(疑惑)について、遠田勝『〈転生〉する物語――小泉八雲「怪談」の世界』検討の序でに、近年の Twitter の諸氏の指摘を中心におさらいして見た。
しかしながら、久し振りに振り返ったものだからうっかりして、一昨年の秋に拾っていた次の文章を取り上げるのを忘れていた。いや、そもそも私はアイヌ伝説の方には深入りしないつもりだったので、当時見てはいたけれども差当り私に用のない文章だと思っていたのである。
・丸山隆司「【研究ノート】民話・伝説のポストコロニアリスム」「藤女子大学 国文学雑誌」第82号(二〇一〇年三月二十五日 印刷・二〇一〇三月三十日 発行・定 価 五〇〇円/藤女子大学日本語・日本文学会/60頁)32~40頁上段
丸山隆司(1948~2015.6.26)は京都市生れ、京都市立紫野高等学校卒業、東京都立大学人文学部B類を経て同大学院国文学専攻博士課程単位取得退学、同大学非常勤講師を経て昭和60年(1985)4月に藤女子大学短期大学部専任講師、昭和61年(1986)藤女子大学文学部国文科助教授、のち国文科学科主任、図書館長、文学部学部長を経て、平成26年(2014)3月に日本語・日本文学科教授を早期定年退職して名誉教授。歿年月日(66歳)及び経歴は「藤女子大学 国文学雑誌」第93号(二〇一五年十一月二十五日 印刷・二〇一五年十一月三十日 発行・定価 五〇〇円/藤女子大学日本語・日本文学会/60+35頁)奥付及び藤女子大学広報「藤」No.61(Jan.20, 2016・12頁)8頁「謹んでお悔やみを/申し上げます」に拠る。
すなわち、2005年度の山本綾乃の卒業研究「蛇退治譚―捜神記の一説話をめぐって―」の調査過程で、『捜神記』の「李寄斬蛇」に似た話が笹間良彦『蛇物語』にアイヌの話として出ているのを山本氏が見付ける。
その後、丸山氏が2010年2月に台湾へ文献調査に赴き、台湾大学図書館の植民地時代の台湾総督府の蔵書を調査する機会に恵まれ、「アイヌ」で検索して知里幸恵『アイヌ神謠集』の再版、青木純二『アイヌの傳説』の再版、工藤梅次郎『アイヌ民話』の3冊を検出し、『アイヌの伝説』に「大蛇を殺した娘」と云う笹間氏が引いている話よりも、より『捜神記』に表現が近い話を見出す。
そして当ブログでは2019年10月21日付「「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(136)」に引いた「はしがき」のうち、遠田氏と同じ2段落めを抜いて*1、青木氏が見たとする「古文書」や「伝説研究書」なるものがどのようなものか、書名が一切記載されておらず、そして「アイヌ部落を訪ふて古老達から聞いた」というのもどこの部落の誰から聞いた話なのか、フィールド・ノートに当たる記録も一切無いことを指摘する。そしてやはり遠田氏が引用している6段落めに加えて、最後の7段落めも抜いて、参照した資料や取材した場所や人名を明示せずに『捜神記』に酷似する話を「アイヌの伝説」として収載していることを、飽くまでも「疑惑は消えない」と控え目な表現ではあるが、指弾するのである。(以下続稿)
*1:遠田氏の引用とその前後は8月26日付(30)に引用した。