瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(48)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(38)
 昨日の続き。
・第11回(3)竹次郎の年齢
 『シナリオ』では、前回見たたけし(小磯勝弥)が松本家で卒倒する場面の前にあった、143頁下段11行め~144頁下段「●西野家・中」はTVドラマでは後になっている。
 いつもは2人でやっている内職を菊(千石規子)に任せて、真利子(木の実ナナ)は英一郎(趙方豪)の残したノートで見積りの仕方を勉強している。まづ、菊に負担を掛けていることを労う真利子の言葉に菊が「いいえ」と答え、反対に菊からの労いの言葉に、143頁下段18行め~144頁上段9行め、

真利子「いいえ。――ええと、下塗りがA仕様で、十/ 三円。目止めが十七円。――ねえ、もう……こうい/ う細かい事は一切あの人は考えないんだから。あの/【143】 人が、知ってるのは、ペンキの原価だけでね。吉川/ さんとこの鉄骨塗った時なんて、あとで英一郎が/ 計算したら三千八百円の仕事なんだって。それを、/ あの人ったら、〝竹さん、安くやってよ〟って言わ/ れて、〝ようがす、千五百円でどうでしょう〟って。/ バナナの叩き売りじゃないってのよ。全く、もうけ/ どころか、五百円の赤字だってんだから。それでも/ って、竹さんとこは安い――って、そりゃ安いわ/ よ。手間の損料もないんだから。」

と云う長台詞、TVドラマでは「吉川さんとこの‥‥」以下が省略され「ペンキの原価だけでね」までになっている。
 それから菊が竹次郎の閲歴を語る。ここは登場人物の年齢設定について、重要な手懸りになるので『シナリオ』から抜いておこう。144頁上段14~19行め、

菊  「竹次郎もねえ、小学校三年の時に父親を亡/ くしちゃって、それから殆*1ど学校に行ってないか/ らねえ。十三の時にうるし屋に小僧で入って……十/ 六になった時かなあ、私にね、初めて半襟*2買って/ くれてさ。(内職の手を止めて、押入れの中に頭を/ 突っ込み、何かゴソゴソやっている。)」


 そしてその、桃色の半襟を取り出して真利子に見せるのである。そして、下段6~9行め、

菊  「もう、二十五、六年も前の話だけど……。で/ もねえ。十五、六の男の子が、どんな顔してこの半/ 襟を買ったのかと思ってさ……、(両手で涙をふき/ ながら)嬉しいって言うよりいじらしくて。」


 戦前の年齢は数えで意識されているべきだと思うのだけれども、数えで「十六」歳が「二十五、六年も前」とすると、竹次郎は昭和30年(1955)1月の時点で40歳を越した辺りであろうか。26年前とすると昭和4年(1929)正月に「十六」歳、こう仮定すると生年は大正3年(1914)と云う勘定になる。長男の英一郎は1月10日付(13)昭和8年(1933)生と推定して置いた。これより若い可能性はない。かつ、竹次郎の年齢――あと1歳(か2歳)上に見ることが出来なくはないが――からして、英一郎がこれより早く生まれている可能性も考えづらい。
 竹次郎を演じた林隆三(1943.9.29~2014.6.4)は撮影当時満41歳、ほぼ『シナリオ』の設定通りと云うことになる。
 『シナリオ』との異同に話を戻すと、これに続く菊のセリフも、半分省略されている。下段11~15行め、

菊  「私は、娘時分に義太夫をやっていたから、/ そっちの方のお弟子もあったし、昼は浜町にあっ/ た佃煮*3屋で働いて……、でもねえ、あんたみたい/ な人が家に来てくれたから……竹みたいなヤツで/ も、何とか今日までさ……。」


 TVドラマでは「まあ、あんたみたいな人が来てくれたからね、今まで何とかね」と簡単になっていて、結局ここを省略したことで、菊が娘義太夫太夫であったことは、TVドラマでははっきり説明されなかった(のではないかと思う)。(以下続稿)

*1:ルビ「ほとん」。

*2:ルビ「はんえり」。

*3:ルビ「つくだに」。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(47)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(37)
 昨日の続き。
・第11回(2)松本正彦
 松本正彦(後根宣将)はお金持ちの家の子供で、1月13日付(16)に見たように第6回から、たけし(小磯勝弥)の羨望の対象として登場する。そして第7回の最後、TVドラマでは省略された場面では、1月23日付(26)に見たように、たけしは空想の松本家を自分の家と置き換えて、オモチャ屋で、沢山の鉄道模型を操作する自分の姿を夢想するのであった。その後も第9回、憧れの対象である美少女・宮森圭子(岡崎由喜枝)のお誕生日会に何故か松本君ともども招ばれて、2月1日付(35)に見たように、宜しくやっている松本君と違って、たけしは中流家庭の女の子たちの顰蹙を買ってしまい疎外感を味わわされたりしている。尤も「一億総中流」と云われる前だから、中流家庭の子女と仲良くしなくても幾らでも遊び相手がいたので、それが健一(浅野雅博)孝三(田村淳一郎)敏夫(堀越太郎)正敏(藤原暁彦)久(伊藤環)であり、最底辺の大介(仙田信也)であった。
 しかし松本君は「続たけしくんハイ!」に、宮森圭子ともども登場しない。別のクラスだった宮森圭子はともかく、担任の山口先生(石井めぐみ)ごと持ち上がったらしい同級生の松本君がいなくなるのはどうしたことだろう。いや、京子(遠藤千鶴)もいなくなっているが、名前で呼ばれる場面もなかったから問題にならない。『シナリオ続』を見るに、勉強が好きでないたけしの将来を危惧した真利子(木の実ナナ)が、私立中学に入れようと考えることになっているから、松本君は逸早く、小学6年生進級に際して私立中学受験に備えて、私立か、もっとマシな公立小学校に転校したのかも知れない。或いは、宮森圭子もたけしの存在に懸念を抱いた母の久美子(岸久美子)によって、同様のコースを辿ったのであったろうか。
 それはともかく、昨日見た、たけしがお年玉が取り上げられた件を蒸し返したとき、真利子に141頁下段13行め「何か欲しい物でもあるの?」と聞かれたたけしは14行め「電気機関車。」と答え、松本君が持っていると訴えるのだが、20~21行め「よそはよそ、うちはうち。何でも人の持って/る物を欲しがるんじゃないの。」と却下されてしまう。
 そこでまた電車模型に対する気持ちが高まったのか、『シナリオ』では英一郎を送りに出たついでに、また、143頁上段3行め~下段10行め「●オモチャ屋の中」に入り込むのである。但しTVドラマにはこの場面はなく、いきなり松本君の家に入り込んでいる。だからこの回におもちゃ屋主人(奥村公延)の出演はない。
 143頁上段4行めから抜いて置こう。

  はたきをかけている店主。
  のび上がって店頭をのぞく。
  たけしが、電気機関車が陳列してあるガラスケ/  ースにおでこと鼻をくっつけてのぞいている。
店 主「坊や、見るのはいいけど、顔をくっつける/ のはよしな。」
  ガラスに、おでこと鼻のあと。そしてたけしの息/  でくもっている。
  店主、腰の手ぬぐいでガラスをふく。
たけし「これさあ、二千円に負けるの?」
店 主「(相手にしない。)バカな事を言っちゃいけ/ ないよ。」
  と、奥に行きかけて、サッと振り返ると、たけ/  しがまたガラスにおでこをくっつけようとして/  いる。
店 主「こら」【上】
  チラッと見るたけし。
  やにわに穴の開いたセーターを脱ぐと、ガラス/  に貼*1りつけるように置き、破れた穴に目を当て/  てのぞく。
店 主「坊やねえ、何もそうまでしてガラスに顔を/ くっつける事はないだろ。」
たけし「だってさ、くっつけないと、ガラスが光っ/ て良く見えないんだもん。」
店 主「(溜息)ま、いいけどさ。(敵*2わないというよ/ うに、首を振る。)」


 『シナリオ』ではこの後、143頁下段11行め~144頁下段「●西野家・中」、145頁上段~147頁上段3行め「松本正彦の家・縁側」の順になっているが、TVドラマでは順番が入れ替わっている。
 かつ、TVドラマでは既に松本家に上がり込んでいて、松本君の模型を借りて、大声で唾を飛ばして喚きながら、例の宮森家で顰蹙を買ったのと同じような調子で、乱暴な遊び方をして松本君を慌てさせるのだが、『シナリオ』では松本家に上がり込むまでの経過が描かれていた。145頁上段2行め~下段2行め、

  模型の電気機関車が走っている。
  操作している正彦。
  母の桃子がおやつを持って来る。
桃 子「はい、おやつ。宿題は?」
正 彦「すんだ。」
  桃子、何気なく庭を見て目を見張る。
  生け垣のすき間から首だけ出してのぞいている/  たけし。
桃 子「何してるの?」
正 彦「(気づいて)あ、西野君。」
  たけしの顔、すっと引っ込む。
桃 子「お友達?」
正 彦「そう。」
  桃子、また庭を見る。
  たけしが生け垣のすき間にそろそろと頭を突っ/  込んで来る。
桃 子「そんな所からのぞいてないで木戸から入っ/ てらっしゃい。」
正 彦「おいでよ。」【上】
  たけしの頭、引っ込んで、木戸から入って来る。
正 彦「これさ、ペンシルバニア鉄道なんだぜ。」


 TVドラマではここまでの、前半部分が省略されているが、たけしが松本家を訪ねたのはこれが初めてであると察せられる。電気機関車への思いの高まりが、このような行動を取らしめたのであろう。
 それにしても、松本君の母・桃子(西川ひかる)は良い人である。松本君も素直な良い子である。さて、たけしはこの後、「風速五十米」だの「風速六十米 七十米」と喚きながら電気機関車に息を吹き掛けているうちに、酸欠になって、『シナリオ』には146頁下段16行め「  たけし、コロンと横になる。」とあるが、TVドラマでは引っ繰り返っている。(以下続稿)

*1:ルビ「は」。

*2:ルビ「かな」。