・銀河テレビ小説「たけしくんハイ!」シナリオとの異同(19)
昨日の続き。
・第7回(8)菊とたけしの空想②
続いて『シナリオ』98頁上段5~19行め「●西野家の中(現実)」として、まづ6~7行め、
うっとりする菊。
菊 「夢の様だねえ。」
誰しもが「●菊の空想」が現実になって欲しい、と願うところである。
次いで真利子(木の実ナナ)、続いて菊(千石規子)が神棚に手を合わせて、次の会話でこの思いに駄目を押す。13~19行め、
真利子「おばあちゃん、私ね……これから何もかも/ うまくいくような気がするの。うちの人だって、ま/ た自分の腕を生かす事が出来るようになればね……/ お酒だってやめるだろうし……(泣き笑いになっ/ て)私、何だか嬉しくって。」
菊 「ほんと、あんたには苦労ばかりかけて来た/ から、少しはねえ、いい事がなくっちゃ……。」
『シナリオ』ではこの場面はここまでだが、TVドラマでは英一郎(趙方豪)と秀二郎(松田洋治)が、竹次郎(林隆三)の寝顔を嬉しそうに眺めるシーンで締め括っていた(と思う)。
さて、第7回は、TVドラマでは次の98頁下段「●同・表(朝)」の、『シナリオ』から引くと2~5行め、
張り切って仕事に出て行く竹次郎。
見送る真利子。
竹次郎「行って来らァ。」
真利子「気をつけて!」
のところで終わっていた。TVドラマでの最後の台詞は、真利子:「行ってらっしゃ~い!」である。
『シナリオ』には続きがあって、菊やたけし(小磯勝弥)も登場する。6~19行め、
竹次郎「古田さん、今度いつ来るって言ったっけ。」
真利子「あさって。」
竹次郎「それまでには何とかしなくちゃいけねえな。/ 出資金の残り、あと三千五百円。」
真利子「借金してでも作るしかないから。大丈夫、心/ 配しないで。」
竹次郎、自転車に乗って去って行く。
菊が出て来る。
菊 「やっぱり、竹次郎も嬉しいんだねえ。」
真利子「そりゃあ。」
たけしがのぞく。
たけし「母ちゃん、俺んち、金持ちになるんだろ?」
真利子「バカ、そんな事、よそで言うんじゃないよ。」
たけし「言わねえよッ。」
TVドラマでは天候(雨)からしても古田の来訪は1月2日(日)だが、この竹次郎が仕事に出掛けて行く「朝」はいつだろうか。三が日を休んだとしたら4日(火)と云うことになろうか。しかし2日(日)の晩に話した3500円を6日(木)まで、実質3日間で用意させるのは急過ぎるようである。ちょっと引っ掛かったのでメモして置く。
それはともかく、『シナリオ』にはTVドラマにはない続きが更にあって、それがたけしがオモチャ屋で空想に耽るシーンなのである。99頁、
●オモチャ屋の店先
また、飾ってある電気機関車。
たけしがのぞいている。
はたきをかけている店主。
たけし「おじさん、俺、今度、これ買いに来るから/ ね。」
店 主「おッ、凄いね、こいつはこの前のより高い/ よ。六千円だよ。」*1
たけし「六千円なんて軽いよ。」
店 主「――?」
たけし「機関車とね、客車とね、貨物列車も買って/ ね……。」
ポーッ! と汽笛。●松本正彦の家(空想)
そっくり正彦一家がたけしの家になっている。【上】
線路が豪華にレイアウトされて、何輛もの列車/ が交差しながら走っている。
操作するたけし。
真利子と菊が小ざっぱりとした着物姿で見ている。●オモチャ屋の店先
ホーッと溜息をつくたけし。
店 主「――? どうしちゃったんだ、坊や。」
たけし「いいから、いいから。」
ニコッと店主を見上げて、飛び出す。●道
顔をほころばせて、走るたけし。
たけしの鉄道模型に対する思いは、1月11日付(14)に見たように第5回に解決したグローブに次いで生じたもので、1月13日付(16)に見たように第6回、お年玉を持ってオモチャ屋に行き、そこで級友の松本正彦(後根宣将)が高価な機関車の模型を事もなげに買うのを見て以来で、この店では松本君が買った機関車の模型に代わって「また」仕入れた訳である。
この松本君に対する羨望の念が、自分が金持ちになったときのイメージを、西野家をそのまま松本家に置き換える形で想起させているのである。尤も、たけしはこのとき、まだ松本君の家を訪ねていないから全くの空想である。いや、外から眺めるくらいはしていたかも知れないが、元々親しい訳ではなかった松本正彦の家を実際に訪ねるのは、第11回が最初であるようだ。
さて、この場面、あったらあったで視聴者のたけしに対する憐憫の情を高めたであろうが、しかしまぁ、所詮は子供の勝手な空想である。かつ、かなり贅沢な空想である。TVドラマではここを省略して、実際に人生に関わる影響を受けた大人たちに焦点を絞ったのは、良い選択であったと思うのである。(以下続稿)
*1:ルビ「すご」。