瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

夏目漱石『硝子戸の中』の文庫本(4)

岩波文庫31-011-2(1)
1933年9月10日第1刷発行
1963年12月16日第28刷改版発行(116頁)
・1985年9月10日第55刷発行 定価100円
1990年4月16日第58刷改版発行(138頁)定価204円
・1992年11月15日第60刷発行 定価204円*1
・1999年9月16日第68刷発行 定価300円
・2000年7月5日第69刷発行 定価300円*2
・2001年4月5日第70刷発行 定価360円
・2002年11月15日第71刷発行 定価360円
・2009年9月15日第78刷発行 定価360円*3
・2013年7月25日第81刷発行 定価400円*4

硝子戸の中(うち) (岩波文庫)

硝子戸の中(うち) (岩波文庫)

 の第55刷、カバーなし。1頁(頁付なし)扉、3頁(頁付なし)中扉「硝子戸の中」とあって「ガラス」と振仮名。4頁(頁付なし)中扉裏に小さい活字で以下の一文がある。

硝子戸の中」は大正四年一月十三日/から二月二十三日まで「朝日新聞」に/連載された著者の小品である。*5


 解説らしき文章はこれしかない。ところでここまでに2箇所「硝子」に「ガラス」と振仮名を附しているが、本文の冒頭の段落は以下のようになっている。3行空けて7字下げで「」と章番号が入り、次に1行空けて本文。「」以降は章番号の前後1行ずつを空ける。

 ガラス戸の中から外を見渡すと、霜よけをした芭蕉だの、赤い実のなった梅もどきの枝だの、/無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ目につくが、そのほかにこれと言って数え立てるほどのも/のはほとんど視線にはいって来ない。書斎にいる私の眼界はきわめて単調でそうしてまたきわ/めて狭いのである。*6


 すなわち本文では「ガラス」に書き換えているが流石に標題を変える訳にはいかないから、そこでしつこく「硝子」に振仮名を附して、こんな表記をするのは私の本心ではありません、と申し訳をしているのである。
 ここのところ、改版後の本文を見てみよう。引用は第58刷から。章番号の前は2行空け、7字下げの章番号は2行に跨って入る。「」以降も章番号の前後は半行ずつ空けるのみ。

 硝子戸の中から外を見渡すと、霜除をした芭蕉だの、赤い実の結った梅もどきの枝だの、/無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと言って数え立てるほどの/ものは殆んど視線に入って来ない。書斎にいる私の眼界は極めて単調でそうしてまた極め/て狭いのである。*7


 戦前や昭和20年代歴史的仮名遣いで出した近代文学作品の表記を現代仮名遣いに改めたのも岩波文庫が早かったようだが、それはここでも本文にも積極的に手を入れる、という形でよく現れている。第55刷は本文は1頁15行、1行42字。本文は114頁1行めまでで2行めの下部に(二月十四日)とある。この頁に左にやや小さい活字で次のようにある。

〔本書は決定版「漱石全集」(昭和十一年発行)を底本として、これを文庫編集部において現代/表記に改めたものである。――編集部付記〕


 ここでこの見識の是非を論じるつもりはないけれども、結局徹底し切れなかったことは改版後の本文を見れば分かる。
 115〜116頁「注」は、ともに1頁全部を使っていないので行数は数えられない。注が附されている語は少なく「Hさん・山鹿素行・Oという人・大観音・樺太・チャブドー・龕燈提灯・勧工場・朱引き内か朱引き外か/やっちゃ場・ろんじだのがれんだの・今戸・積み夜具・大塚楠緒・鰯屋・色物・美音会・亀清・藤八拳・幾戸前」の20項で大抵1行、長くても2行の簡単な説明がある。「やっちゃ」と「ろんじ」と「がれん」には傍点。語の上に半角の漢数字で頁数を「一〇」の如く示す。
 次に奥付、第58刷との違いを示すと、標題に振仮名がないこと、定価の表示に本体云々(消費税)がないこと、振替番号を示していること、ISBNコードを示していないこと。裏に岩波茂雄「読書子に寄す」、ついで「'85,5 現在在庫」B-1〜3、A-1〜3、G-1〜2。最後に「岩波文庫の最新刊」の「1985.7.」その裏が「1985.8.」*8。(以下続稿)

*1:2015年1月30日追加。

*2:6月11日追加。

*3:2013年3月12日追加。

*4:2014年4月18日追加。

*5:ルビ「ガラス」。

*6:ルビ「なか・ばしよう・わたくし」。

*7:ルビ「ガラスど・うち・しもよけ・ばしよう・な・ぶえんりよ・ほか・ほと・わたくし・きわ」。

*8:6月11日追記】第69刷は「2000.5.」と「2000.6.」の「岩波文庫の最新刊」。カバー裏表紙折返し「図書」の広告。【2013年3月12日追記】第78刷は「2009.7.」と「2000.8.」の「岩波文庫の最新刊」。カバー裏表紙折返し「図書」の広告。【2013年10月16日追記】第71刷は「2002.10.」と「2002.11.」の「岩波文庫の最新刊」。カバー裏表紙折返し「図書」の広告。「2002.10.」の「岩波文庫の最新刊」は通常時の4点ではなく「新編輯版 ドイツ・イデオロギー漱石・子規往復書簡集/雁/山椒大夫高瀬舟 他四篇/蒲団・一兵卒/破戒/小僧の神様 他十篇羅生門・鼻・芋粥・偸盗」の8点に「今月の重版再開」3点。【2014年4月22日追記】第81刷は「岩波文庫の最新刊」の「2013.6.」と「2013.7.」、カバー裏表紙折返し「図書」の広告。