瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

中島京子『小さいおうち』(30)

 ここで6月25日付(22)の続きに戻って、と云って書き込まれている全ての歴史的事件について確認していくつもりはないので、今度はちょうどこの頃に登場する「板倉さん」板倉正治について、見て行くことにしよう。
・板倉正治の年齢(1)
 板倉さんが初登場するのは、第二章6である。昭和12年(1937)の夏、「旦那様が社長さんの鎌倉の別荘に招かれた」とき、タキも「旦那様、奥様に続いて恭一ぼっちゃんを抱っこして応接間にお連れして、隅のほうに小さくなってい」るのだけれども、これはもちろん6月25日付(22)で見たように、タキがこの年、小児麻痺のために小学校入学を遅らせた恭一の世話をしているからである。社長は「アメリカびいき」で「ビフテキ」を御馳走してくれるのだが、単行本56頁9〜15行め・文庫版62頁5〜11行め*1

 そんなところへ、社長さんの奥様が、一人の男性を案内して応接間に入っていらした。|そのこ/ろのわたしと、いくつも違わないような若い男性で、社長さんはその人の顔を見|ると、やあやあ/と手を振ってうれしそうに挨拶をされた。
「平井君、彼がこんど、うちのデザイン部に来てくれることになった、板倉正治君だ。|美術学校/を出たてのところを引き抜いたんだ。戦力になるはずだよ」*2
 細い銀のふちの眼鏡をかけた若い男性は軽く会釈をして部屋に入り、勧められるまま|に肘掛け/椅子に腰をかけた。


 これが平井一家と板倉さんの初対面にもなる訳だが、映画ではタキが黒木華(1990.3.14生)で、板倉正治吉岡秀隆(1970.8.12生)なのだが、少なからぬレビューに吉岡氏は年齢的にミスキャストと云われていたのは「いくつも違わない」どころか親子程も年が違うのだから仕方がない。板倉の縁談を進める立場の平井時子を演じる松たか子(1977.6.10生)の方がうんと若い。
 ところで、映画版の配役について手っ取り早く確認するためにWikipedia「小さいおうち」項を見てみたのだが、かなり間違いがある。Wikipediaについては2012年3月18日付「夏目伸六『父夏目漱石』(05)」及び2012年3月19日付「夏目伸六『父夏目漱石』(06)」に奇怪な記述のあることを指摘したことがあるが、さっき覗いて見たら今でもそのままになっていた。けれども、どうも直接手を入れるのは何だか抵抗があるので、やはりブログの場で指摘して置くこととしたい。

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 この、板倉の年齢というか、それに付随する問題が実は、私にとっての本題なので、本当はもう少し細々したところを確認した上で満を持して(?)取り上げるつもりだったのだけれども、それに今、文庫版が手許になく、文庫版で通読してメモを取ったので、ないと少々確認に手間取るのだけれども、それ以上に疲労困憊してしまって、別のことで穴埋めする余裕もないので、Wikipediaの記事への突っ込みも交えつつ、以下しばらく何回か続けてみるつもりである。(以下続稿)

*1:7月21日追記】文庫版の位置を追加し、引用中に文庫版の改行位置「|」を補った。

*2:ルビ「いたくらしょうじ」。